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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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樹・・・戸惑う。

「…手を握って…悪かった。」


「樹?」


「だから、由梨奈さんも手を離してくれ。」


「…嫌だと言ったら…」


そう言って、俺を見る由梨奈の顔は心細げだったが

「冗談。」

と言って、俺の手を離すとにっこり笑い


「樹は変わらないわね。私と手を繋ぐのが迷惑なら、突き放せばいいのに…優しいから、どんなに困っていても、嫌でも突き放せない。出会った頃もそうだったわね。」


「…違うよ。俺も…婆様には逆らえなかっただけさ。」


「そう…でも嬉しかった。」


そう言って、由梨奈は笑いながら、涙を零した。


「由梨奈…」


「うん、やっぱり…樹には【由梨奈さん】と呼ばれるより、由梨奈と呼ばれたほうが…いい。」


零れ落ちる涙を指先で拭うと笑った。



あの婆様の話以来、由梨奈は婆様に言われて、秋継の側を片時も離れる事はなかった。だが当時の秋継は、バトルゲームに夢中で、会話の中心がその話ばかりだったので、中学三年生の由梨奈と小学4年生の秋継では、どう考えても会話が弾むとは思えなかった。関係ない俺は、二人とも気の毒なこったとぐらいしか思っていなかったが、どころがどういうわけか、中一の俺が引っ張り出され、二人の会話を弾ませろと、言われる羽目になった時にはさすがに腹がたった。


俺は仲人か…?!

あとは…おふたりで…とか言って席を外す。あれを俺にやれって?!ふざけんな!


そんなことを思っていたから、例え三人になっても、空気は全然良くならなかった、寧ろ悪くなるばかりで、秋継が、我慢できずに度々逃げ出し、俺と由梨奈はふたりだけになる事が多くなっていった。初めはお互いぎこちなかったが、学年が違うとはいえ、同じ中高一貫の私立校。その話からだんだんと話すようになり、いつしか俺は…時折見せる由梨奈の年相応のあどけなさと、そして相反するように見える女の色に惹かれていった。


初めて由梨奈にキスをしたのは…それから2年後の春、北側の庭だった。


そっと触れるようなキスに、由梨奈は泣いた。

「どうして…樹が久住の跡継ぎじゃないんだろう。」と言って、泣いたんだった。



俺が見た、由梨奈が涙を零したのはこのときだけだった。

だが今、由梨奈はあの日以来の涙を、俺の前で零している。


少し痛んだベンチと桜の木。そして泣いている由梨奈。

北側の庭は、由梨奈の唇に触れたあの日を思い出させ、心が落ち着かなくて、俺は由梨奈から視線を外すと、


「もう…涙を拭ってはくれないんだね。あの…」


「…由梨奈…」


「あの女性の涙は拭ってあげるの?そして…抱き「由梨奈…君には関係ないことだろう。」」


「…関係ないか…。そうよね。関係ないのに、私ったら…。樹が10年振りに、日本に帰ってくると聞いて、私を攫いに帰って来てくれたと、どこかで思っていた。」


「…?!」

俺は言葉が出てこなくて、思わず顔を上げると、由梨奈は…


「どうしてだろう。有り得ないことなのに…そう思っていたの。そう思えば、明日も生きてゆけるから。」


腹がたった。今更…何を言っているんだと無性に腹が立った。


じゃぁ、なぜ!なぜ…あの日来なかったんだ。


「何を言っているんだ。来月結婚するんだろう?俺が攫いに来ると思っていれば、明日も生きてゆけるだって!それなら、なぜあの日来なかったんだよ!10年前、俺は言っただろう。辛いのなら逃げようって。だが、自分は籠の鳥だから、外では生きてゆけないと言って、籠の中に留まったのは由梨奈の意思だ。それを今更。いったい何をやっていたんだよ…この10年。なにを考えていたんだよ…この10年。なんにも、変わっていないじゃないか。辛いと言いながら、でも逃げない。もう…振り回すなよ。もう俺を振り回すな。」


「樹!!本当は樹と外に出たかったの!でも籠の鳥だから外では生きてゆけないと…。そう、言わないと!そう言わないと、いけなかったのよ。」


「…どういう意味だよ。それはどういう意味だよ!」



と口にした途端、俺の唇に柔らかい唇が触れた。

驚く俺に、由梨奈はまた唇を重ね、俺の唇の上で、由梨奈が言った。



「樹が好き。ずっと好きだった。」


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