葉月・・・驚く。 樹・・・思い出す。
理香さんは黙って私を見ていたが…息を吐くと
「葉月は、やっぱり…やっぱり樹が好きなのか…?」と聞いた。
「理香さん…私…」
いつもとは違う理香さんの雰囲気に、声が出なかった、でも理香さんは執拗に
「葉月…好きなのか?」と、またそう言って私に聞いた。
なんだろう…なんか…変だ。
「葉月…どうなんだ。好きなのか?」
「…う…ん…。」
私の小さな声に、理香さんは顔を歪め
「…だよなぁ。そうだよなぁ。でも…そう思いたくなかった。気づいていながら、眼を瞑って見ない振りして、お前が泣く姿を見たくなくて…くそっ!」
「理香さん、それはどういうこと?」
理香さんは、私から眼を逸らし
「お前に樹を好きだと言わせたくせに…悪りぃ…あたしはお前が樹と付き合うのは…反対だ。いや…もう樹とは会うことも反対だ。」
「理香さん…?」
「お前のためだ。お前が樹を好きなら…なおさらダメなんだ。」
それは、知り合ってこの2年、初めて見た理香さんの顔だった。
*****
「話がしたいの。」
葉月ちゃんの後姿を見ていた俺に、由梨奈はそう言った。
「あぁ、俺も話がしたかった。あの日以来だよな、由梨奈…さん。」
由梨奈は口元に笑みを浮かべると
「さん…付けで、あなたに呼ばれるのは、16年振りかしら?」と言って、小さな笑い声を上げた。
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14年前、俺と由梨奈はここ、そうこの久住の本家で会ったんだった。
当時、由梨奈は15歳、俺は13歳、秋継に至っては…来月で10歳になる頃、そんな俺たちを一同に集め、あの婆様は
「秋継は、来月で10歳。その時に正式に久住の後継者として、教育を始めます。樹、今までご苦労様。あなたはこれからは秋継を補佐してゆくことをお願いするわ。そして由梨奈さん、これであなたも正式に秋継の許婚よ。」
おいおい、何を今更と俺は腹の中で笑い。
秋継は、許婚の話より、さっきまで俺とやっていたゲームの続きのほうが、気になるらしく
「お婆様、お話が終わったのなら、もう部屋に戻って良いですか?」
と、ソワソワしながら、婆様に聞いていた。
同感!早く部屋に戻って、ゲームをしたほうが良い。と思いながら、俺はふと、小学生を許婚に持つ事になった女が気になった。ちらりと横目で見ると、由梨奈と呼ばれていた女性は、しばらく婆様を見つめていたが、ハッとした様に俺を見て…そして俯いたが。だが、次に顔を上げたときは…にっこり笑いと秋継に
「秋継さん、由梨奈です。よろしくお願いします。」と言って頭を下げた。
感情を一瞬で抑えるなんて、恐ぇ~女。
それが、由梨奈の第一印象だった。
だが今ならわかる、由梨奈はそうやって、久住という化け物の世界を生き抜いていったんだと。
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どうやら、昔を思い出し、ぼんやり由梨奈を見ていたようだった。
「なに?」と言う由梨奈の声に、俺は軽く頭を振り
「いや、それより、どこかで話せないか。10年前の事は、婆さんが金をばら撒き、力で抑えて、何も無かったことになっているから、俺と由梨奈さんがふたりでいても、誰もなにも思いはしないだろうが。ここでは話しにくい。」
「…北側の庭は?」
「庭?庭には婆さんが…」
「北側は絶対行かれないわ。北側の庭は…陰の気が満ちているんですって。」そう言って、由梨奈はクスクスと笑い
「北側の庭で…私と樹が一緒にいるのを見てかららしいわ。」
北側の庭…そうか、北側のあの…庭で…
「思い出した?あの北側の庭で、樹が…私に…」
思い出したくなかった。
思い出せば、10年前に引き戻されそうで…それ以上、由梨奈に話しをさせるのが恐くて、由梨奈の声を遮るように
「行こう。」とひとこと言って、由梨奈の手を引いた。
由梨奈は楽しそうに笑いながら
「北側の庭に樹と行くのは、10年振りね。あの頃もこうやって手を繋いで…」と言って、俺の手を握り返し、体を寄せてきた。
えっ…?どうして?…
俺は立ち止まり由梨奈を見た。
俺の驚いた表情に、由梨奈は黙って、俺を見つめていたが…
「北側の庭に行くんでしょう。」と言って、また俺の手を強く握った。
時間が止まったように思えた。
いや…時間が10年前に戻ったように思えていた。




