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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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樹・・・貰う。 葉月・・・呑む。

後ろにいる葉月ちゃん達を振り返って見た理香さんは、


「あの二人だけで、九尾の狐に会わせたら、食われそうだから、4人揃って行こうか。」と言って俺を見て、クスリと笑うと


「なんて顔をしてんだ。しょうがねぇなぁ。」

呆れた声でそう言うと、視線を葉月ちゃん達へと移して


「お前の元気の素から…力を貰いな。」


俺は、ゆっくりと視線を葉月ちゃんへと合わせ、心の中で呼んだ。


(葉月ちゃん…。)


色白の彼女は、化粧をしなくても可愛いいと思っていたが、あの白い肌に、少しだが色味が加わるだけで、少女と言うより女性になっていた。


綺麗だと思った。


ふわふわとした茶色い髪…

大きな眼を縁取る黒く長い睫…

そして、珍しいへーゼル色の瞳…


俺の視線に気が付いたのだろうか、葉月ちゃんの視線が、不安定な自分の足元から、俺へと上がり、俺と葉月ちゃんの視線が重なった。


(葉月ちゃん、君の無敵の笑顔を見せて。)


そう願う、俺の心の声が届いたのだろうか、不安げな顔が、柔らかい笑みへと変わっていき、俺だけを見つめながら、葉月ちゃんは一歩、また一歩と俺に近づいてくる。近づくほどに、その笑みが深くなって、俺は葉月ちゃんから眼を外せなかった。


そんな俺の前で立ち止まると、満面な笑顔で、あの無敵の笑顔で


「…私の出番ですか。」と拳を俺に見せた。



背中を押すつもりなんだ。

(うん。)と頷けば、葉月ちゃんなら本当に背中を押してくれるような気がする。俺の口元が緩んで行くのが、自分でもわかった。


「大丈夫。」


「久住さん…。」


「うん、本当に大丈夫。」


本当に、大丈夫だ。

葉月ちゃんを見つめ、また俺はそう心の中で呟いた。



*****


好きだと気が付いた人には、未だ心を占める人がいる。

その人を前に、心が揺れているのだろうか…


立ち止まった理香さんと久住さんに、私は大きく息を吐いた。


黒髪で着物を着たその人は、遠くからでもわかるほど綺麗な人。10年振りに会えば、尚更心は揺れ動くよね。例え一流の美容師さんにお願いしても…私の茶色い髪で、天然パーマでは出せないよなぁ。あぁ、何を考えているの。素材が違い過ぎるんだから、考えてもムダだなのに…


しっかりしろ!私!


今は取り合えず、このハイヒールを履きこなしてそれなり歩くほうが先決。


足元を見て…

いやいや…それっていかにも、慣れてませんって感じじゃん!


落ち着け!私!まずは…右だ、右!

えっ…今のは何?

えっ?!呼ばれた?…久住さんが私を呼んだ?


足元から視線を上げた、その先に久住さんが私を見ていた。

あの…笑顔は…、笑っていないじゃん!それは笑っていないよ、久住さん。


ほんと…どうしてそう、泣きそうな顔なのに、無理に口元だけで笑おうとするの?


久住さん!今、今ですか?!背中を押すのは…


【大丈夫、任せて】


私ができる事は、不安気な久住さんの応援をすること、そんな私が不安な顔でいたらいけない。

だから、にっこり笑う。大丈夫ですよと言って笑うんだ。


そう思ったら、足元はゆっくりとだけど、リズムを刻むように進みだし、あっという間に、久住さんの前に立てた。


「…私の出番ですか。」と拳を見せると、久住さんはようやく笑って


「大丈夫。」


「久住さん…。」


「うん、本当に大丈夫。」


そう言って、また微笑んでくれた。


その顔には翳りはない。でもどういう結論であれ、10年前の恋を…、ひとり彷徨ったあの日を…、思い出すことになるんだ。きっと辛いはず…、でも今の久住さんなら、きっと自分の気持ちを冷静に見る事が出来るよね。


そう信じて、私は久住さんの微笑みに、満面の笑顔で答えた。

でも、そうは簡単に行かないのが、人の心なのかもしれない。

それは突然、ジョセフィーヌさんが戸惑ったように、理香さんを呼ぶ声から始まった。


「…理香ちゃん…」


「あぁ…大吾、気が付いたか。」


「えぇ…。」


「樹。おまえの周りは、とんでもない女ばっかしだなぁ。」


「えっ?!理香さん…?」


「確かにお前の顔をよく見ると、女難の相が出ているなぁ。まぁ…行きますか!」



そう言って、理香さんは久住さんの腕を引いたその時…

久住さんの肩越しから見えたその景色に、私は息を呑んだ。


あぁ、このことだ。ジョセフィーヌさんが、そして理香さんが言ったのは…

それは、泣きそうな顔で久住さんだけを視線で追いかける…由梨奈さんの姿だった。


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