樹・・・貰う。 葉月・・・呑む。
後ろにいる葉月ちゃん達を振り返って見た理香さんは、
「あの二人だけで、九尾の狐に会わせたら、食われそうだから、4人揃って行こうか。」と言って俺を見て、クスリと笑うと
「なんて顔をしてんだ。しょうがねぇなぁ。」
呆れた声でそう言うと、視線を葉月ちゃん達へと移して
「お前の元気の素から…力を貰いな。」
俺は、ゆっくりと視線を葉月ちゃんへと合わせ、心の中で呼んだ。
(葉月ちゃん…。)
色白の彼女は、化粧をしなくても可愛いいと思っていたが、あの白い肌に、少しだが色味が加わるだけで、少女と言うより女性になっていた。
綺麗だと思った。
ふわふわとした茶色い髪…
大きな眼を縁取る黒く長い睫…
そして、珍しいへーゼル色の瞳…
俺の視線に気が付いたのだろうか、葉月ちゃんの視線が、不安定な自分の足元から、俺へと上がり、俺と葉月ちゃんの視線が重なった。
(葉月ちゃん、君の無敵の笑顔を見せて。)
そう願う、俺の心の声が届いたのだろうか、不安げな顔が、柔らかい笑みへと変わっていき、俺だけを見つめながら、葉月ちゃんは一歩、また一歩と俺に近づいてくる。近づくほどに、その笑みが深くなって、俺は葉月ちゃんから眼を外せなかった。
そんな俺の前で立ち止まると、満面な笑顔で、あの無敵の笑顔で
「…私の出番ですか。」と拳を俺に見せた。
背中を押すつもりなんだ。
(うん。)と頷けば、葉月ちゃんなら本当に背中を押してくれるような気がする。俺の口元が緩んで行くのが、自分でもわかった。
「大丈夫。」
「久住さん…。」
「うん、本当に大丈夫。」
本当に、大丈夫だ。
葉月ちゃんを見つめ、また俺はそう心の中で呟いた。
*****
好きだと気が付いた人には、未だ心を占める人がいる。
その人を前に、心が揺れているのだろうか…
立ち止まった理香さんと久住さんに、私は大きく息を吐いた。
黒髪で着物を着たその人は、遠くからでもわかるほど綺麗な人。10年振りに会えば、尚更心は揺れ動くよね。例え一流の美容師さんにお願いしても…私の茶色い髪で、天然パーマでは出せないよなぁ。あぁ、何を考えているの。素材が違い過ぎるんだから、考えてもムダだなのに…
しっかりしろ!私!
今は取り合えず、このハイヒールを履きこなしてそれなり歩くほうが先決。
足元を見て…
いやいや…それっていかにも、慣れてませんって感じじゃん!
落ち着け!私!まずは…右だ、右!
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・
えっ…今のは何?
えっ?!呼ばれた?…久住さんが私を呼んだ?
足元から視線を上げた、その先に久住さんが私を見ていた。
あの…笑顔は…、笑っていないじゃん!それは笑っていないよ、久住さん。
ほんと…どうしてそう、泣きそうな顔なのに、無理に口元だけで笑おうとするの?
久住さん!今、今ですか?!背中を押すのは…
【大丈夫、任せて】
私ができる事は、不安気な久住さんの応援をすること、そんな私が不安な顔でいたらいけない。
だから、にっこり笑う。大丈夫ですよと言って笑うんだ。
そう思ったら、足元はゆっくりとだけど、リズムを刻むように進みだし、あっという間に、久住さんの前に立てた。
「…私の出番ですか。」と拳を見せると、久住さんはようやく笑って
「大丈夫。」
「久住さん…。」
「うん、本当に大丈夫。」
そう言って、また微笑んでくれた。
その顔には翳りはない。でもどういう結論であれ、10年前の恋を…、ひとり彷徨ったあの日を…、思い出すことになるんだ。きっと辛いはず…、でも今の久住さんなら、きっと自分の気持ちを冷静に見る事が出来るよね。
そう信じて、私は久住さんの微笑みに、満面の笑顔で答えた。
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でも、そうは簡単に行かないのが、人の心なのかもしれない。
それは突然、ジョセフィーヌさんが戸惑ったように、理香さんを呼ぶ声から始まった。
「…理香ちゃん…」
「あぁ…大吾、気が付いたか。」
「えぇ…。」
「樹。おまえの周りは、とんでもない女ばっかしだなぁ。」
「えっ?!理香さん…?」
「確かにお前の顔をよく見ると、女難の相が出ているなぁ。まぁ…行きますか!」
そう言って、理香さんは久住さんの腕を引いたその時…
久住さんの肩越しから見えたその景色に、私は息を呑んだ。
あぁ、このことだ。ジョセフィーヌさんが、そして理香さんが言ったのは…
それは、泣きそうな顔で久住さんだけを視線で追いかける…由梨奈さんの姿だった。




