葉月・・・?!
「少し冷えてきたわね。寒くない?」
誰?…似ているけど…
「葉月ちゃん?車に酔ったの?」
なんだか…理香さんに見えるんだけど…まさか…ね、こんな話し方しないもの。でも、理香さんだよなぁ…この顔は…
「ほら、これをかけて」
ショール?あっ、ショールだ!
あぁ~っ、そうか、夢だ。夢、夢。夢に間違いない!
一週間ぐらい前に、私の部屋にわざわざやってきて、
『いいか。これはめちゃ高いルイ・ヴィトンのショール・モノグラム コライユ なんだ。税込 68,040 円だぞ!ぜっ~たい 貸さねぇーからなぁ!』
と…わざわざ私の部屋までやってきて、絶対貸さない宣言した理香さんが、その税込 68,040 円のショールを今、私の肩にかけるはずはない!
あはっ!やっぱり夢だ。ほら…向かいの席で久住さんが、ぽか~んと口を開けてるもん、そんなマヌケな顔を久住さんがするはずはないもん。
パシン!
「痛~。」
「葉月、お前いつまで呆けてるんだ!!」
「えぇぇっ!夢?!いや…現実?!…いつも理香さんだ。」
「何、言ってんだよ。朝からあたしに向かって、【いいですか。久住さんのところに行くんですから、久住さんに恥をかかせないように上品な物腰で、そして上品な言葉使いで…いいですね。】と、偉そうに言ったのはおまえだろうが、せっかく仕事バージョンの理香さんで対応してやったら…そのおまえが…なんだよ。初めてのリムジンにぼぉっとしてんのか?!いい加減、現実社会に戻って来い!」
パシン!
「痛~いよ。理香さん…」
でも…なんで、私ぼんやりしていたんだろう?うう~ん、なんか衝撃的なことがあった気がするんだけど…なんだったけ?う~ん。
今朝は…あぁそうだった。店長が無理やり入れていたバイトが、理香さんの力で休みになったおかげで、朝はゆっくりとジョセフォーヌさんの美味しい朝ごはんを堪能し、撮り溜めていたDVDを見ながら、ポテチを食べ…至福の時間を過ごしていたら…
突然、玄関の扉が開き
『樹に買っておけと言っていた、葉月の服がようやく来たぞ。』
『へぇ?服って?…いやそれより…また~勝手に合鍵を作ったんですか!』
『はぁ…おまえ、相変わらず…鳥並の脳みそだなぁ。今、ここで言うべきことは、どんなお洋服かしら?…だろう!』
『いいえ、合鍵の話のほうが重要です。私にもプライバシーってものが…』
『はいはい…。そりゃどうもすみませんね。これでいいか。おまえを変身させるのに、時間がどれくらい掛かるかわからないから、今から…準備するぞ。じゃぁ、あたしの部屋に来い。おまえのポテチの食べかすが散らばる部屋では、試着も化粧もできないからなぁ。あたしの部屋を使うことを許してやる。』
『いや…理香さん、話を逸らさないでください。だいたいですね…』
『ほぉ~弁護士の私に論戦を挑むつもりか?』
『だ…だって、合鍵を…黙って作るのは…』
『合鍵?!作っちゃいないよ。これはオーナー兼、管理人の大吾が持っているマスターキーだ。何度も声をかけても返事がない202号室の住人を心配した、201号の私が管理人である大吾にマスターキーを借りたんだ。(大吾に黙ってだが…)』
『…えっ?ええっ!!ご、めんなさい!DVDに夢中で気が付かなかったみたい。心配してくれたんですね。それなのに、また理香さんが勝手に合鍵を作ったと勘違いして…私…』
『ほんとに、合鍵は作ってねぇからなぁ。(1,000円、出して作るより、大吾の部屋に行って取ってきたほうが、金もかからねぇからと考えを変えたんだ。悪いなぁ、葉月。でも合鍵を作っていないのは本当だから)』
『理香さん…ごめんなさい。』
『いいんだよ。気にするな。それより、樹がリムジンで迎えに来るまで…6時間。おまえをお姫様にしてやるからなぁ。よし、まずは風呂だ!!』
・
・
・
そう…そうだった。あれから、バタバタと…いや…ドタバタと…いや……もういいや、とにかく理香さんに、あらゆる所を磨かれ、私の顔をキャンバスに見立ているかのように、何度も何度もファンデーションという絵の具を塗りこまれた。
『いや~、若いっていいよなぁ。ファンデーションが張り付くぜ。』
そう言って、なんどもファンデーションを塗りこむ理香さんに…正直、どんな顔になるのか背筋が凍りそう。だって、理香さんのメイクは濃い。もっとも美人な理香さんにはめちゃめちゃ似合っているんだけど…。あぁ…お化粧はジョセフィーヌさんのナチュラルメークのほうが良かったよなぁ。あれっ…そう言えば、ジョセフィーヌさん、朝ご飯を用意してくれたら、どこかにおでかけしちゃったんだよなぁ。
『理香さん、ジョセフィーヌさんは?』
『ふっふふふ…』
『えっ?理香さん?』
『葉月…』と言って、理香さんはまた不気味は笑いを浮かべたんだ。
*****
そう…このあとだ。なにかがあって、記憶が飛んだんだ。
えっと…そう…あれからどうしたんだっけ…
落ち着け私。とりあえず今を把握するんだ。
今…私は、リムジンの車内。進行方向に向かって右側。
隣には理香さん。
向かいには、まだポカンとした顔の久住さん。
あれっ?…あれ~?そのまま、私は声をあげた。
「ジョセフィーヌさんは…?」
その声に、理香さんは笑い、久住さんは理香さんの隣を…進行方向に向かって左側を…指差した。
「ジョセフィーヌさん…」と言って…顔を向けたら
そこには、長い黒髪をワックスで固めて一本に結び、黒のタキシードを着た…渋い男性がいた。
あっ?!
あぁっ!!
あっ!あぁぁ!!!…そうだった!!!!
男性の姿のジョセフィーヌさんを見て…記憶が飛んだんだ。
「ジョ…ジョ…セフィーヌさん?!」
私の叫び声に…久住さんは…何度も頷き…
「3年前芥川賞を受賞した、東条 司。これが…大吾の本職。いい男だろう。葉月…惚れんなよ。」と、理香さんが不適に笑った。
そんな理香さんに助けを求めるように…悲壮な声が…
「理香ちゃん…私…やっぱり…。」
「大吾!!!おまえ、今日は男だ。いいか…今日だけはやれ!いいな、大吾。」
「…理香ちゃん…うん。」
あぁ…その言葉遣いは…間違いない。ジョセフィーヌさんだ。




