樹・・・固まる。
養父から乗って行けと言われたリムジンから、Maison des fleurs(花の館)を見上げ、夕べの養父との会話を思い出していた。
あれは、どういう意味だったんだろう…と
*****
養父とグラスを交わしながら話した昨夜。
俺の話しに出てきた、Maison des fleurs(花の館)の住人の話に、父は驚いたように
『恋人と言う設定の松下理香さんって…まさか弁護士の?』
『…ひょっとしたら…うちの顧問弁護士…ですか?』
『なかなかするどいなぁ。』
『するどくなんかないですよ、父さん。理香さんは企業法務専門、そして父さんも知っているとなれば、自然と…わかることです。』
『あはは…それがだよ。そこに気が付くところが優秀だってことだ。さすが私の息子だ。』
なんだか…嬉しいような、恥しいような気分で、俺は…一気にビールを飲むと、そんな俺の様子を見て、また養父は笑いながら
『Maison des fleurs(花の館)の住人達と知り合うとはなぁ…おまえは強運の持ち主だなぁ。』
『…えっ?どういう意味ですか?』
『…おや?それ以上は知らないのか?』
『知らないって…なにかあるんですか?!あのアパートには?』
『そうか…じゃぁ、秘密だ。あとのお楽しみにとっておけ。』
そう言って、養父は大笑いした。
*****
どう意味か、さっぱりだ。
確かに、弁護士の理佳さんと知り合ったのは、 有利なことだったとは思う。だが…養父はMaison des fleurs(花の館)の住人達と言った。
それは、理香さんだけを指しているわけじゃない事だ。
それは、あのふたりも…ってことなのか…?
車の扉を開け外へと出て、Maison des fleurs(花の館)をもう一度見上げた。
考えてもしょうがない。養父は【あとのお楽しみにとっておけ】と言っていたのなら、悪い事じゃないと言うことだ、なら今は、それさえわかっていれば良いか…そう今は…。
「よぉ!出迎え、ご苦労さん。……おい!樹!どうした?!」
ぼおっとしていた俺は、理香さんの声に慌てて…
「あっ…あれ?!葉月ちゃんとジョセフィーヌさんは?」
「あのふたり、いつもと違う自分に、戸惑ちゃって、部屋から出てこねぇーんだよ。まぁ、ちょうど、樹と打ち合わせをしたかったから、ちょうど良かったが…」
いつもと違う自分に…戸惑ってるって?
ちょっと…派手だったかなぁ…。
俺が選んだオーガンジーのワンピースを思い浮かべながら…
でも、あの淡い色のピンクは、葉月ちゃんのイメージなんだけどなぁ。
きっと似合うと思うんだが…
葉月ちゃん、ちゃんと練習してきたから
『えぇっ!!!これがあの葉月ちゃんか!!』と言う練習を…だから早く見せてくれ。
「樹」
そう言って、理香さんはニヤリと人の悪い笑みを見せ…
「なぁ…樹、おまえさぁ…」
「はぁ?はい。」
「おまえ、いいセンスをしているなぁ。葉月のワンピースは良くあいつに似合っていたよ。さすが女たらしだ。だがなぁ…樹。ここまでだ。女性に服を贈るのはその服を脱がせたいと言う、くだらない男の口説き文句を思い浮かべたんだったら…マジ、殴るからなぁ。」
「…葉月ちゃんは少女みたいな子ですよ。そんなこと…」
「ふん!その言葉、忘れんなよ。きっと後悔するぜ。だが!!葉月はダメだからなぁ。」
「はい、はい。恐い保護者に楯突く勇気なんか、俺にはありませんよ。」と言って笑ったが…
なにかが、そうなにかが言った。
もしあの愛らしさをずっと見ることが出来るなら…俺は…と…
なんだ…これは?
葉月ちゃんの側にいるのは、居心地が良い。だから叶うならずっと側にいたい。
だが…これは違う。そう…違う。
理香さんは俺の顔を見て、目を見開いたが、ふっと息を吐き…
「…悪いなぁ、樹。だが、ほんと葉月をこれ以上、久住家のいざこざに巻き込ませたくない。だから、これで最後にしてくれ。あたしは弁護士として、お前の力にはなる、いや必ずお前の為になってやるから、もう葉月には会うな。」
笑っていたはずの顔が…固まった。
久住家のいざこざに巻き込みたくないと俺も思っていた、いや今もそう思っている。だから、今回だけだと考えてはいたが、理香さんはもう葉月ちゃんには会うなと言う。
もう、会うな…か…
黙った俺を、理香さんも黙って見つめているようだった。そんな静かな空気の中を、暖かい風のような柔らかい声が響いた。
「あっ!!久住さん!!」
それは2階からだった。
元気な、そして暖かい声に、誘われるように顔を上げた俺の視線の先に…俺が選んだオーガンジーのワンピースに身を包んだ女性が、真っ赤な顔で笑っていた。
あぁ…この笑顔を曇らせたくない。だから、これで最後にしたほうがいいんだ。最後に…
「えぇっ!!!これがあの葉月ちゃんか!!」
俺は、約束通りに言ったが、本当に葉月ちゃんは……綺麗だった。




