第22話 ジップライン
俺たちが装甲突入ポッドになだれ込むと同時に、機体は爆音を上げて天へと弾き出された。
大気圏の外縁を疾走したポッドは、GAIA議会が存在する地下シェルターの上空で機首を反転させ、地上へ向けて垂直急降下を開始した。
「ぐ……っ!」
ガガガガンッ! と激しい破壊音が響き、頭上が大きく揺れた。
ズドン、と腹の底を叩く強烈な衝撃。
ポッドが地下シェルターの防壁に打ち込まれた瞬間、慣性制御が限界音を上げて悲鳴を上げた。
ほとんどの運動エネルギーが相殺されたとはいえ、生体への重圧はゼロにはならない。
「シェルターの防壁を貫通……大胆な突入方法だな」
「上はGAIAの兵器群がひしめいている。根幹プロトコルに縛られた彼らの火力が我々へ直接向けられる可能性は皆無だが、無用な遅延を招く不確定要素は、極力排除すべきだ」
俺の呟きに、後部座席のメトセリアが静かに答える。
蒸気を吹き出してハッチが開くと同時にルーポがいち早く飛び出した。
「暗ぇな……おい、NORNが反応しねぇぞ?」
「この階層を覆う強力なジャミングだよ。彼らは我々の自律型兵器を門前払いにしつつ、無力な我々の身柄を生け捕りにしようと画策している。心配はいらない。この強力なジャミングと捕縛網のただ中にあっても、我々が進むべき道はすでに見えている」
メトセリアがポッドの緊急ラックから、無骨な黒い塊を引き抜いた。
火薬カートリッジ式のアンカー射出機だ。
「敵は我々が床を歩いてくると確信している。ならば、その愚かな前提ごと飛び越えてしまえばいい。……すまない。この火薬式アンカーをあちらの壁へ向かって打ち込んでくれないか、シンメ」
ルーポの鈎爪型の武器を見て、引き金を引くのが難しいと判断したのだろう。
メトセリアから受け取った射出機はズシリと重い。
俺は彼女が指し示した角度へ鉄の筒を構え、躊躇なく引き金を引いた。
——ズドォン!!
火薬の爆音とともに、太い鋼鉄アンカーが闇を切り裂いて放たれた。
飛翔するアンカーに引かれた重密度のワイヤーがムチのようにしなる。
直後、バチン! ガチァン! と空間全体で捕縛網が虚しく同士討ちを始めて暴発した。
アンカーと弛んだ鋼鉄ワイヤーが、床一面に張り巡らされた機械式トリップワイヤーを片端から薙ぎ払い、捕縛網やアームを虚しく暴発させたのだ。
メトセリアがポッド側のウインチを手動で一気に巻き上げると、床の罠を薙ぎ払ったワイヤーが、空間を貫く一本の太いラインとなってピンと張り詰める。
「さっすがメトちゃん、準備いいなぁ!」
ルーポが即座に金属滑車をワイヤーへ引っ掛け、俺たちは迷わずそこへ飛びついた。
足元で虚しく作動した罠の地獄の上を、風を切って一気に滑り降りていく。
壁に激突する直前、俺たちは鮮やかに滑車から飛び降り、すぐそばにあった下層への階段へと足を進めた。
「なんか……状況の割にあんまり緊張感ないですね」
敵陣の真っ只中とは思えないメトセリアの落ち着き払った様子に、俺は足元に注意を払いながら尋ねた。
「確かに今は、世界を分かつ重大な局面に違いない。だが、彼らが私を殺害しようと試みる確率は、限りなく低いと言える」
「なんで殺されねーって言えるんだ?」
「彼らが真に求めているのは、ハグレというシステムの統制権そのものだ。その主幹を担う私を安易に殺害すれば、どれほど予測不能で壊滅的な帰結を招くか……それは彼らが背負えるリスクを超えているだろう」
「ん?それって、俺たちは関係ないですよね……?」
「……あまり私と離れない方がいいかもしれないな」
メトセリアの足がふっと止まり、暗闇の中で彼の視線がゆっくりとこちらを振り返る。
「おいおい……」
呆れ果てたルーポが、苦笑いしながらガシガシと頭を掻きむしった。
「フッ。あまり心配するな。そのスーツの防護設計は、君たちが考えている以上に堅牢だ。仮に致命的な攻撃に晒されたとしても、内蔵された回避アルゴリズムが自動で最適な機動を選択する仕掛けまで備わっている」
「……でも今その機能使えないですよね?」
ジャミングで沈黙したスーツを指さして俺が尋ねると、メトセリアは静かに前方を指し示した。
「よく見てみろ。次の層ではジャミングがないようだ。つまり……わかるな?」
言われて視線を落とすと、階段の先で幾重もの光の軌跡を描きながら、滑らかに空中を滑る球形機体が視界に入った。
「相手も本気ってわけか!」
状況を理解したルーポが、凶暴な笑みを浮かべながら首の骨を鳴らした。
階段を降りると、それまでの薄暗がりが嘘のように、白い光で満たされた開放的な空間が広がっていた。
そしてフロアの正面に佇んでいる男が口を開く。
「待っていたよ。シンメにルーポ。そして……メトセリア先輩」
不敵な笑みを浮かべるファルクスは、青白く輝く長刀をメトセリアに向けて構えた。




