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俺がエルフを殺した理由~ユートピアに転生したと思ったら、この世界ちょっとダメかもしれない~  作者: フローライト


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第16話 遊園地

 俺達は移動ポッドから降り立ち、次のターゲットが潜むエリアへと潜入した。

 ここは、ステート・フェアと呼ばれる移動式遊園地の一つだ。


「今回のターゲット……キッツいな」

「ああ……悪夢のようだ」

 

 今回のターゲットは親子連れ。

 それも、ヒューマノイドと認識されているのはまだ幼い子どもだった。

 この歪んだ状況も当然、ハグレによって生み出されたものだ。

 二年前、子宝に恵まれなかったある夫婦に男が近づき、里親にならないかと持ちかけた。

 その男自身がハグレのヒューマノイドで、手渡された子どももまた、極めて精巧に作られたハグレのヒューマノイドだったのだ。

 子どもは夫婦の深い愛情を受けて育ち、今では六歳になっているという。

 そして今日、俺達は夫婦から子どもを奪おうとしている。


 俺達は人混みを避け、遊園地を跳躍するように駆け抜けていく。

 頭上を見上げれば、レールの存在しないコースターが空中庭園の間を縫うように疾走している。

 不気味なほど無音の急降下と急上昇。

 だからこそ、降ってくる人間の絶叫だけが、妙に生々しく響き渡る。

 

「ここのお化け屋敷、有名らしいな」

「ああ、入った人間の恐怖耐性ギリギリの演出がされるっていう」

「おもしれぇ。どんな化け物が出てくるのか気になるぜ。あとで行ってみねぇか?」

「……遠慮しとくよ」


 レトロなジャンクフードが並ぶ通りを駆け抜けると、ターゲットがいるキッズエリアへと到着した。

 

「ここは周りに人が多すぎる。一瞬で片付けるしかない」

「……仕方ねぇな」

 

 ルーポの表情から軽薄さが消え、猟犬のような鋭い眼光が光った。

 局所的な無重力フィールドからふわふわと降りてきた男の子——その姿は、不思議なほど両親に酷似していた 。

 両親に向けて弾けるような笑顔を見せるそのヒューマノイドの姿は、どう見ても生身の人間そのものだった。


「行くぞ!」


 俺とルーポは外骨格スーツの出力を上げ、それぞれの武器を構えてヒューマノイドへと突進した。


《ターゲットの反応が消失しました。》


 視界に文字が表示されると同時に、うなじのあたりに焼けるような痛みが走った。


「あぐっ……!?」


 もつれた脚のまま、両親の間にいるヒューマノイドに斬りかかったが、刀はただ空を切った。

 ホログラム……!?さっきまでは本物だったはず!


《シンメ様、頸部熱傷およびスーツ外殻の破損を検知。

 対ハッキング・シールドも機能を消失しました。

 対象の攻撃方法は高出力のレーザーかと推測されます。》


 まずい。

 もしこのヒューマノイドがNORNをハッキングできるのであれば、俺は今完全に無防備に晒されている。

 視線をやれば、いつの間にか動きをピタリと止めた両親の姿があった。

 その瞳には光がなく、ただ虚空を見つめている。

 彼らのNORNは、すでにヒューマノイドに掌握されているのだ。


「チッ。気付かれてたのか……」

「気を付けろ!レーザーを撃ってくる!」

 

《ターゲットの熱源を再捕捉。スーツ内蔵のステルス看破カメラに視界を切り替えます。》


 さっきまで何もなかったところに、男の子の輪郭がゆらりと浮かび上がった。

 俺が攻撃されたのは後ろからだったが、不思議なことに、彼は今、俺たちの正面に立っている。


「おいおい、ハグレは人間を攻撃できねーんじゃなかったのか?」

「……人の痛みがわからない君たちは、もはや人間じゃないってことだよ」


 ヒューマノイドは、微動だにしない両親を悲しげに見つめた。


「二人に何をしたんだ?」

「君は知ってるでしょ?夢を見てもらってるだけだよ。何?僕だってこんなことしたくないよ」


 ヒューマノイドは幼い顔に似合わない、冷徹な眼差しでこちらを睨みつける。


《想定外の状況を確認、現在GAIA戦力を派遣しています。速やかに戦線を離脱してください。》


『だってよ。引くか?』

『そうだな……このエリアで戦闘が激化すれば、一般の民間人を巻き込みかねない』


 俺たちはNORNを介して、頭の中だけで言葉を交わす。

 

「もしかして増援?はぁ……どうしても僕を壊そうってわけ……」


 ヒューマノイドは嫌気がさしたような顔をして言った。

 そして、両親の頭に向けて右手をかざすと、二人の身体がガタガタと痙攣し始めた。


「おい、やめろ!」


 まさか自分の親を盾にするつもりか?

 俺は上で待機していたサターンをヒューマノイドの頭部を狙って急速落下させた。

 しかし、それを読んでいたかのように父親の腕が不自然な角度で跳ね上がり、ヒューマノイドを庇うように盾となった。


「そのオモチャ、本当にうっとうしいね」

「そいつらから離れろ!」

 

 痺れを切らしたルーポが地を蹴って突進しようとした。

 だが、ヒューマノイドは素早く左腕をルーポの脚線へと向ける。

 

 ——ジュウ……。

 

「ぐッ!?」

 

 鼻を突く肉の焦げる臭いと共に、ルーポが激しく転倒した。

 その左脚——脛のあたりから血が滴り落ちる。

 機動性に重きを置いたスーツは、レーザー攻撃に対してあまりにも無力だった。


「邪魔をしないでくれ」

 

 両親の身体は、いまだに細かく痙攣していた。

 クソ……人間保護プロトコルがなければ、俺たちはヒューマノイド一体すら倒すことができないのか。


「二人は心配いらない。少し冷静になって、僕の話を聞いてくれ」


 ヒューマノイドが、その愛らしい小さな左手を、今度は俺の額へと向けた。

 銃口を突きつけられているのと、何も変わらない。


「人間を殺せるのか?」

「……殺せないよ。僕たちは人間を傷付けることができない。でもね、だからこそ、僕は君たちを攻撃できるんだ」

「はぁ? どういう意味だよ……!」


 ルーポは座り込んで脛を押さえ、苦痛に顔を歪ませている。

 もう戦闘は継続できないだろう。


「君たちが僕を壊すと、二人の記憶が消えてしまう。二年間ずっと僕と一緒にいたんだから、ほとんどの記憶が消えてしまうんだ。結果として、二人の精神は深刻なダメージを受ける。いくらNORNが強制的に精神を安定させようともね」


 ……そういうことか。

 つまり、ハグレが人間保護プロトコルを放棄したわけではない。


「僕はこれを『人間への深刻な攻撃行為』として認識した。僕が壊れることは結果としてこの二人の人間を壊すことに繋がる。だから君たちを多少傷つけようとも、自分を守る必要があった」

「ん?じゃあお前……親を守るためってことか?」

「でも、GAIAの増援が来るのなら僕はどうあがいたって壊れる運命だ。だから今、僕が直接二人の脳にアクセスして、この二年分の記憶を完全に再構成している。僕がいなくなっても心が傷つかないよう、最初から僕なんて存在せず、夫婦二人だけで幸せに暮らしてきた思い出に、書き換えているんだよ」


 両親はどこか安らかで、幸せそうな表情をしていた。

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