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09 そんな水くさいヨォ!


王立治療院で働き始めてから1ヶ月が過ぎた。


身分証を首から下げ、頼まれた資料や研究素材を掻き集めて院内を忙しく歩き回る日々だ。午前中は付属の治療院で実際の治療者に対して処置を行うこともある。だいたいが紹介状を手にしてきた難度の高い治療を必要とする方だが、一部、王宮職員や王室の方もいらっしゃる。治療者が王室の方の場合は、院長が対応に当たる。


「えーあの不審者また来たのぉ」


ドアを開けようとした時、研究室から声がした。私が使いで席を外していた間に、何かあったようだ。私はすぐに部屋に入る。


「どうかしましたか」

「あー……」


院長助手のテオとエステルが顔を見合わせる。


「もう潮時よね」

「そのうち諦めて収まるかと思ったんだけどね」


エステルたちが教えてくれた内容は頭が痛くなるものだった。


「最近、エルザさんには泊まり込みでお仕事をお願いしていたでしょう?王宮から頼まれた急ぎの案件がある、というのもあるんだけど」

「エルザさんを出せって、連日警備に粘ってる若い男がいるんだよ」

「家に帰ると危ないだろうからと思って、研究棟の個室に入ってもらったの」


若い男と聞いて、エイミルを思い出した。けれどすでに1往復、手紙は交換しているし、エイミルのほうから気を遣って住所を聞かないくらいだった。それにリンデン先生と共同名義で、回復薬の発注も受けている。もしかして発注の条件に不備があったのだろうか。


いや、エイミルはそんな人じゃない。


警備さんたちは年配の人が多いんじゃ無かったか?退役の元騎士団員で……とすれば、私だって若い部類に入るかもしれない。リンデン先生くらいの人も。とすればローデリックしかいないだろう。


「ローデリックですか。冒険者団の」


「さあ、名前を聞いても言わないらしいから。似顔絵でも書いてもらう?」

「ギルさんもアーロンさんも画伯だよ」


二人は推し黙る。私は耐えかねて言った。


「私が直接会って話を聞いてみます」

「だ、駄目だよそんなの」

「変な奴らしいですよ?絶対に行かせないです」

「私、けっこう強いんです」


私は両手をかざしてバチバチと攻撃魔法を出してみる。


「強いとか弱いとかの問題じゃないですから!……まあ、なんか強そうですけど」

「今まで匿ってくれてありがとうございます。ですが私の問題でみなさんにご迷惑をかけるわけにはいかないので」


「そんな水くさいヨォ!」


急に声がしたとき思ったら、王族の長期回診から戻って来た院長だった。


「お客様が来てるんだって?」

「いや、お客様て」

「エルザさんに付きまとう不審者です」

「不審者さんかあ、僕が行こうか?」

「「「えっ」」」


一同驚くものの、テオが「アリかも?」と言い出した。


「不審者には不審者を、というのは理に叶っていますね」

「ひどいっ!」

「いや冗談ですよ、院長バカ強いですし」

「さっきの傷ついたっ!」


テオと院長のやりとりを聞いてエステルに尋ねる。


「院長ってお強いんですか」

「負けたことないんじゃないかな」

「へぇ戦ってみたいです」

「その方向で院長に興味持った人、はじめて見ました」


結局、院長が出ていくことなったが、テオが少し準備させてと言って院長を連れて奥に引っ込んだ。

戻って来た院長はローブ型の騎士団服を着ていた。


「院長は強いですが、無駄な戦闘なんてしないに越したことないんで。身なりだけで撤退してくれる人もいるんです」

「院長って騎士団員なんですか」

「式典のときだけの幽霊団員です」


きりりとした出立ちでいつもと雰囲気が違う。


「可動域が狭くて着心地悪いよぉ」


いや、いつも通りかもしれない。ぐずぐず言って、またテオとエステルに言い負かされている。


「動きがいつも大袈裟なんで、そのくらい縛りがあったほうが威厳ありそうに見えますよ」

「とにかく言葉を発しない方向でお願いしますね。舐めらると長引きますんで」

「君たちが一番舐めてるよお」


私はおずおずと手を挙げた。


「あの、私も行ってもいいですか」

「エルザさん!?それじゃ意味がないです」

「その男性とは面会しないので。院長が戦うなら参考にしたいです」

「参考!?なんの??」


「僕、攻撃になったら結界張れないよ?」

「院長、質量で圧勝するタイプだから攻守同時にできないんですよ」

「あ、じゃあ私が結界張ります」

「えっ、だったら私たちも見に行っていいですか」



ドーム型の研究棟を出て院長とみなで馬車に乗った。門扉のだいぶ手前で降りて、院長が先に向かう。私たち3人は少し離れた後方からついて行く。


「今のうちにいくつか詠唱入れておきますね」

「なるほどこうやって事前に二重三重にしておくんだ」

「はい、1枚割られても耐えきれますので」



「なんかこのメンバーで素材狩りも行ってみたいねえ」

「じゃあ次に古竜が出たらいっしょに行ってみますか?」

「あっ竜のアンティーク素材欲しいです」


わいわいやっていると、


「なんだお前は!エルザを出せ!」



「じゃあ次に古竜が出たらいっしょに行ってみる?」

「あっ竜のアンティーク素材欲しいです」


という怒声が、離れた私たちのところまで飛び込んで来た。



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