10 お前のせいで、うちのパーティはボロボロだ
09話に誤字、文章不備があってすみません。
後日修正します。
わいわいやっていると、
「なんだお前は!エルザを出せ!」
という怒声が、離れた私たちのところまで飛び込んで来た。
◇
正門を挟んで、わあわあと院長に喚いている人間がいる。私とテオとエステルは迂回して死角になる茂みから正門に近づいた。
相手はずいぶん興奮しているようだ。私は3人にもう1枚結界をかけながら、目視できるところまで近づき、目を凝らす。
あれ?ローデリックではない……?
「冒険者団のローデリックではないみたいです」
「思い当たる人とは別なんですね。じゃあ誰なんですかね」
「うーん……あっ、あの人、前の治療院で治療したことがあります」
「へー、それでその後、交流があったんですか」
「いえ、治療しただけです」
「じゃあクレームでしょうか。何か後遺症があったとか?」
「骨折と軽い打撲だったかで完治しています」
テオさんは「あー……なるほど」と言って質問を変える。
「あの人、騎士とか冒険者?」
「一般の方ですね」
「わかった、だったら僕が伝言してきます」
「あっテオさん」
テオはタッタッタとかけ足で院長のところへ行き、あれこれ何か話している。院長は喚いている男性に、何か言った。すると男は後ずさりして「ファイター!」のようなことを言って走り去っていった。
男性が立ち去ったので、私とエステルは院長たちのところまで行く。
「大丈夫でしたか」
「うんっ」
院長が元気に返事をし、テオはちょっと驚愕の表情をしている。エステルが興味深げに聞く。
「何だったんですかあの人」
「ストーカーだと思う。あんなに優しくしてくれたのに、とかまあいろいろ言ってた。エルザさんは普通に治療をしただけだろうから気にしないで」
テオが私を労るように言った。
「どうやって追い返したんですか」
「ああ……なんだお前は、エルザはお前のなんなんだ、って言うから院長が……」
「妻ですっ」
「って言ったら泣きながら逃げて行きました」
「最後何か叫んでましたよね?」
「あれは……ただの悪口なので、知らなくていいと思います」
「というかエルザさん、院長の発言には突っ込みなしですか?」
「え、だってそれは」
追い返す方便ですよね、と言いかけて口をつぐんだ。何か嫌な空気の、ねっとりした視線を感じた。ガサっと茂みが揺れる音がする。
「エルザ、お前、結婚したのか?」
正門の向こう側から固い声がした。見ると、門柱の陰から出てきたのはローデリックだった。
「不審者2号です」
警備さんの1人が私たちに小声で伝達すると、構えのポーズを取って前に出る。
「2人いたの!?」
「こっちの人はつい最近です」
なんでも不審者1号が「エルザ!出てこい」と正門で名前を連呼している時にたまたま通りかかった2号が「エルザ……ここにいるのか……?」みたいなことを呟いて、日参し始めたという。
「急にパーティを辞めたと思ったら、結婚退職とはな」
ローデリックは忌々しげに吐き捨てる。
「ほんとお前は責任感がない」
ローデリックはカミソリのように言葉を振り回す。一から十まで誤解だったが、反論する気にもならなかった。院長には悪いがそう思わせておいて帰ってもらおう、と思った。
次の言葉を耳にするまでは。
「お前のせいで、うちのパーティはボロボロだ」
は? 私は耳を疑った。
「お前が抜けたせいでな……!!」
ローデリックは悪態をつき続ける。この場は好きに言わせておくのが正しいとわかっていた。反応しないのが最善だと。けれど私は言い返さずにはいられなかった。
「あのさ、ローデリック」
「な、なんだよ」
「私がいなくても回るんじゃなかったの?」
ローデリックはぱちぱちと目をしばたく。
「何を言っているんだ、って、えっ?」
「言ってたじゃない。『正直、エルザがいなくても回る』って」
「聞いてたのか」
ローデリックは急に居心地が悪くなったのか、勢いが削げている。目がぐらぐらと泳いでいた。
「それは!パーティをまとめるのに必要だったんだ。本気で言っていたわけじゃない。長い付き合いなんだから、それくらいわかるだろ」
ローデリックは少し勢いを取り戻して、私を宥めるように言う。
「そうだ、俺たちはパートナーだったじゃないか」
パートナー?ビジネスパートナーってこと?
まあパーティの中で私たちは一番の古株だけど。
「お前もいい年だもんな。気づかなくって悪かった。でも結婚したかったなら、なんで俺に言わない?」
「なんでローデリックに言う必要があるの?」
ローデリックは訝しがる私を見て、なぜか声を出して笑った。
「ああ、人前で言いづらいのはわかる。でも、結婚しても、パーティは続けられるじゃないか」
なんの話?結婚したら長期遠征は免除とかってこと?
「ほんとさっきから話が見えないんだけど」
「だから!同じパーティ内メンバーで付き合うとかはさ、なかなかしづらいだろうけどさ」
それを聞いて、私はふいにエイミルの顔を思い浮かべた。思い浮かべてから、なんでエイミル!?と思って、顔が熱くなった。頭の中のエイミルを打ち消そうとするが、一度思い出してしまったものはなかなか離れない。
顔を赤らめて恥じ入る私を見て、ローデリックは得意気な様子で、さらにおかしなことを言い始めた。
「だからって、思い詰めて辞めることは無かったんじゃないか。言ってみれば良かったのに。早まったよな」
ローデリックはちらと院長を見て値踏みする。
「なあ、見たところその人は貴族じゃないか。平民は正妻になれない。妻と言っても、妾か何かにされてるんだろ」
その瞬間、ドンとすごい音がして、ローデリックのいた辺り一帯が地盤沈下する。
何事と思ったら、院長がローデリックに向かって右手をかざしていた。ローデリックは地面に這いつくばって動けない。
「お引き取りを」
「院長、お引き取りいただくには重力解除してあげないと」
院長が右手をだらんと下ろすと、ローデリックはガクガクしながら中腰になった。
「な、なんですか!いきなり!!私は何か間違ったことを言いましたか!?貴族が平民と結婚できないのは事実でしょう!エルザは貴族のおもちゃじゃない!!」
院長は少し首を傾げてそれに返答する。
「ローデリックさん、でしたか?あなたは彼女のことを好きだ好きだと言っているだけのように聞こえます」
「「は?」」
院長の言葉に、私とローデリックは思わず同時にハモって言った。
「エルザさんもかい」
テオがなぜか私に突っ込む。
「それと、言葉を慎みなさい。私は平民でも正妻に迎えられる程度のわがままはできる立場です。次は無いですよ?」
「院長……」
「ふつうに喋れたんだ」
「いやもうあれ限界だと思う。そろそろ撤収させないと」
ローデリックは歯ぎしりしながらヨロヨロと立ち上がり、恨めしそうに私を見る。元騎士団員の警備さんが横についた。一定以上ここから離れるまで付き添うようだ。
院長はローデリックの後ろ姿を厳しい目でずっと見ていた。




