11 古竜狩りに行こうよ!
「院長……あれどうやって習得したんですか?」
「エルザさん、この修羅場で最初の質問がそれ!!」
「いやでもすごいなって」
そういうと、院長は珍しく苦笑いしていた。
「院長、ちゃんとした大人みたいでした」
「おれ初めてみたかも」
私たちがわいわいやっている会話に院長は入ってこない。私は心配になって院長に近づき、顔を覗き込む。
「大丈夫ですか院長」
「えっ? うん、なんか腹立っちゃって」
「ローデリックがすみません」
「どうしてあの人の代理で謝るの」
「どうしてって……私のせいでみなさんにご迷惑をかけましたので」
「迷惑じゃないし、謝られるのなんかやだ」
珍しくご機嫌斜めである。院長はいつも躁状態が通常運行なのに。
そうこうしていると、警備さんが戻ってきた。門に残った警備さんと言葉を交わす。
「加勢、ご協力ありがとうございます」
警備さんたちが一礼する。元騎士団員らしく、すっと伸びた姿勢は見ていても心地良い。
しかし礼から直ると、その表情は厳しかった。
「ですが、規則は規則ですので。院長様、失礼します」
警備さんは院長の両手首に美しい腕輪をそれぞれ嵌め込んだ。
「「「えっ」」」
それは貴族用の拘束具だった。知らない人から見れば、宝石の埋まった金細工のアクセサリーである。
「高位魔法の対人使用のため拘束します。時間は……」
驚く私たちに警備さんは説明する。
「貴族様なので逮捕されたりはないですが、一応は厳重注意と、それから使用状況について記録を作らなくてはならず。王宮の調査室まで、みなさんも同行をお願いします」
私たちは息を呑む。
「院長、なんでふつうの、水系とか使わなかったんですか!?」
「高位じゃない魔法あんまり持ってないんですよこの人」
私も口を開こうとすると、
「謝られるのなんかやだ、ってさっき言った!」
と調子が戻ってきた院長に遮られた。
◇
「『なんだお前は、エルザはお前のなんなんだ』の次は……」
「妻ですっ」
院長は、王宮調査官の質問にニコニコしながら再現をする。
なんの拷問ですか、というくらいに同席している私はいたたまれない気持ちになる。
貴族向けの調書室なので、王宮の部屋はふつうに高級ゲストルームだった。マホガニーのテーブルの上で、書記官二人は優雅にインクペンをさらさらと動かしている。
院長も、金の腕輪をしていること以外はいつも通りだった。
「あの、伺ってもよろしいですか。実際に婚姻は」
「まだです」「していません」
「まだ? まだって言いましたか? 院長、言葉のチョイスが心臓に悪いです。予定はないですよね?」
「婚姻はまだ……と」
さすが王宮書記官、貴族の話しか聞いていない。私が身分差を目の当たりにして書記官の筆記をぼんやり眺めていると、院長が拾ってくれた。
「そこは婚姻はしていない、に変えて」
「承知しました」
細かいことだけれど、こういうのはじんわり嬉しい。
「院長ありがとうございます」とお礼を言うと、院長は照れていた。
「いやそこの原因はそもそも院長でしょう」
「マッチポンプすぎる」
とテオたちが突っ込む。
そうこうしているうちに調書はグラビティ使用時に進んだ。
「はい、では『なあ、見たところその人は貴族じゃないか』の次ですが」
院長の空気がまたビリビリする。
同行していた警備さんが
「この先は再度、彼女に聞かせる話ではない。残りは僅かですし私もその場にいましたので、院長様の調書の照会はできます。彼らは退席させてください」
と申し出た。
書記官は「何が?」とよくわからない顔をしていたけれど、院長が「そうして」とひとこと言うと、
「承知しました」
とあっさり承諾した。
――平民は正妻になれない。妻と言っても、妾か何かにされてるんだろ。
ひどい暴言だった。それを気遣ってくれた警備さんに感謝だったが、王宮書記官は「平民に気遣う」という行為そのものが分からなかったようだった。
言い方は悪いが、高位魔法を使われた相手であるローデリックもまた平民だった。院長は特段の罪には問われず、しばらく自宅謹慎することとなった。
◇
「古竜狩りに行こうよ!」
テオが、私とエステルの顔を交互に見て言う。
「院長なしだとちょっと危なくないですか?狩りに参加しなくても院長には近くにいてもらったほうが」
「それに3人で行ったの後から知ったら絶対拗ねるよ?」
「目撃情報によるとメスらしいから。メスは小さいし。あと3人で行くってこと自体が謹慎中の院長の罰になるじゃん」
「ひど」
「けけけ」
院長の自宅謹慎で、といっても院長は自宅が王立治療院の敷地内なのだけれど、私たちは院長のいない院長室で休憩を取っていた。
「あとは院長いないと、進まない案件ばかりだしさ。戻ってきた時のために素材集めに出るほうが良くない?」
「そうだねえ、行ってみようか。エルザさんはどう?」
「しっかりと準備ができるようであれば」
「じゃあ決まりだね!」
テオは嬉しそうにガッツポーズをした。




