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08 在籍していないって、どういうことだ


「在籍していないって、どういうことだ」


ローデリックさんは顔から血の気が引いている。討伐隊舎の書記官は淡々と事実を繰り返す。


「はい、ですからその方は討伐隊を退団されています」

「そんな勝手が許されるわけない」

「ええと、対人の騎士団と違って、対魔獣の冒険者団は入隊脱隊自由なので。みなさんよくお間違えになるんですけど、退団するのにとくに許可は要らないです」

「パーティを組んでいたんだぞ。リーダーに許可をとるべきだ」


書記官は首をかしげる。


「あの、指揮官を除いて、冒険者団に序列はありません。魔獣討伐隊員さんって1匹狼タイプも多くて、リーダー制があるとかえって揉めるので採用してないんです。まあ強いていえば管理者側からすると戦況記録を提出している方がリーダーといえばリーダーなんですが、あ、その人が退団しちゃったんですね」


木版に挟んだ記録用紙を一瞥しながら書記官は追い打ちをかける。書記官の最後のひと言に、内心ガッツポーズをしたくなるのは何故だろうか。


「エイミル、お前全然驚いていないじゃないか。まさかこのことを知っていたのか」

「いえ、突然のことでびっくりして。頭が動いて無いだけです」

「だよな」


一瞬、疑いの目を向けられてひやっとしたが、すぐにローデリックさんの矛先は書記官に戻った。


「うちのパーティには後衛がいないんだ。どうすればいいんだ」


「その場合は、次のメンバーが見つかるまで臨時の後衛職を討伐隊からアサインいたします。報酬は討伐隊人事のほうで持ちますのでご負担はありません」

「どんなやつが来るんだ。面接はいつになる?」

「あのぉ……」


書記官はまた首をかしげている。


「昨年にスタンピート大討伐がありましたでしょう?あのとき後衛の厚いパーティばかりが生還したんです。それ以来、後衛職は引く手数多(あまた)でして、パーティ側は選ぶことができず、むしろ後衛さんのほうがジャッジする立場と言いますか」

書記官は付け加える。

「ですから()()ではなく()()です。候補日はこちらに」


ローデリックさんは書かれたメモを奪うように受け取る。


「次の討伐の直前じゃないか。こんな突貫のパーティで大丈夫なのか。連携とかあるだろ」

「いえ近頃はどこも即席メンバーが大半ですよ。ああ、なるほど」

書記官は手元の資料に目を落とす。

「あなたの所属するパーティは……最近加入された方以外は2年以上固定メンバーなんですね。これはかなり珍しいです。どなたも死傷離脱していないなんて上位数パーセントの帰還率じゃないでしょうか。よほど優秀な後衛さんなんですねぇ」

「優秀なのは 前 衛 だ」


言い捨てると、ローデリックさんはどすどすと乱暴に音を立てて勝手に窓口を出ていく。俺は書記官に軽く頭を下げる。書記官は「あなたも大変ですねぇ」と言いながら「これ」とまとまったお金を布袋で渡してきた。


「パーティ構成にリスクがあるので、私の独断と()()で勝手にいま申請しました。サインしていただいても?」


書面を見ると、補助金の申請書だった。


「ざっと戦闘データを分析するに、今回抜けた方の功績が大き過ぎます。規定上、1人脱退につき1人までしか臨時を雇えませんから、差分の戦力を埋めるために、補助金を使って上級回復薬を常備してください」


「こんな申請あるんですね」

「あまり平時には申請できないんですが、許可します。総合的に判断しました」


許可……?と思って書面を見ると、申請区分の但し書きに『その他、討伐隊本部局長が特別に認める場合』という一文があって、今書いたばかりらしい乾いていないインクで署名がしてある。俺はびっくりして顔を上げた。


「局長が窓口やってるんですか」

「今日はみんな揃ってランチ行ってるんで。私だけ呼ばれてないんですが」


ローデリックさんのクレームにも淡々と対応していた局長が初めて感情を見せて、ちょっと寂しそうにした。


取り計らいに御礼を言って、隊舎を出る。そうだせっかくだから、薬作りをエルザさんに頼もうと考える。エルザさんがダメでもリンデン先生に頼めばいい。これで、会えそうな口実がひとつできた、などと頭の中で算段していると、隊舎の外でわいわいやっている連中がいる。


「このケーキって何ケーキ?」

「フルーツタルト」

「あの人、バラ科ダメだったよ確か」

「何それほぼ果物全滅じゃん」

「局長の就任祝いなのに」

「まあみんなで分けましょう。指を咥えて見ててもらいましょう」


他にも綺麗な包みをいくつか抱えている人がいる。

局長、心配無用でしたよ、と心の中で思いながら、自分もエルザさんに就任祝いを贈りたいなあ、でもそれはちょっと重いかなあ?などと考えるのだった。




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