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05 エルザは騎士学校の首席だよ?


治療院まで肩を貸すというとエイミルに断られた。クロスボウを持つと言っても断られた。怪我人に何もさせてもらえない、と無の表情をすると、


「じゃあゆっくり歩いてもらってもいいですか」


とだけ頼まれた。

エイミルをおぶって走れば10分くらいで着くのに、と思うが本人の希望に合わせる。


ゆっくり話しながら歩いて、先生の治療院に到着した。前庭にはたくさんの薬草やハーブが群生していて、奥に可愛らしい青い屋根の一軒家が見える。家の横の大きな2本の木の間にはハンモックがかかっていた。朝は無かったから私がごろごろするために取り付けてくれたんだろうか。

ベルのついた治療院の観音扉を開けると、リンデル先生のほかにアンもいた。「店主が二日酔いで薬だけもらいに」と説明しながら、エイミルを見て会釈した。



「どこも悪くないじゃないか。傷も塞がってる」


診察室でリンデル先生がエイミルをじと目で見る。エイミルは視線を逸らして明後日のほうに目を泳がす。


「あれ、さっきはけっこう辛そうで」

連れてきた手前、私はエイミルの症状の悪さを訴える。


「若いからじゃないですか」

とアンが口を挟んだ。

「若いからかも」

言われて私も同じことを言う。リンデル先生はサラサラっと診断書を書いてエイミルに渡す。


「診察としては終わり。お茶にしよう」

「先生お茶してばっかだね」

「いいのいいの」


リンデル先生はみんなに作業場に移るように言い、キッチンからお茶とお菓子を取ってきた。みんなで大きな木のテーブルの前に座る。


「ええと、討伐隊で同じチームの」

「エイミルです」

エイミルが自分でぺこと頭を下げた。


「こちらは今さらだけどリンデル先生。そしてこちらが」

「アンです!昨日お店にいましたよね?」


アンがにっこりしてエイミルに話しかける。エイミルはとたんに暗い顔になった。


「アンとは友だちなの」

「そうなんですね」

エイミルはまた元気が無くなった。


「エルザ、お前は先に帰りなさい」

「え」


「ほら、明日も早いだろう」

と先生に耳打ちされた。


そうだった。すっかり忘れていた。明日は面接だ。今日は早く寝ないと。


「じゃあお先に失礼します」


そう言ってから、リンデル先生を見た。リンデル先生は分かっているという風にうんうんと頷く。エイミルをパーティメンバーだと紹介した。リンデル先生は勝手に転職活動についてペラペラ話すような人ではないけれど……間違ってポロッと言ってしまわないか心配だった。


扉を閉める前にエイミルを見る。なんとなくしょんぼりしている。もう一度戻ってエイミルの肩をぽんぽんと叩き、

「お大事に」

というと少し笑顔になった。



◇◇



「エルザさんを送らなくていいんでしょうか」


「彼女は君より強い」

「エルザは騎士学校の首席だよ?女だからって理由で代表挨拶は次点の男がやったけど」


リンデル先生とアンさんがそれぞれ自慢して言う。


「首席……?なのに後衛をやってるんですか」

「いろいろあるんだよ〜少年」

「いや俺、もう成人しています」


出してもらったお茶に口をつける。何この時間。


「もしかして俺の値踏みですか」


「そこまでじゃないけど、エルザがいきなりここに連れてきて、君に怪我がなかったろ?過去に似たような感じで付け込んできたヤツがいたから、心配だった」

「ああ、なるほど」


「俺が落ち込んでいたら具合悪いのと勘違いされました。でも、内容説明しづらくて」

2人が俺の言葉の続きを待っている。

「落ち込んだ理由がエルザさんだから」

「ほう」「へぇ」



「先生、彼はうちの店でローデリックに抗議してましたよ。まともな人かと」

「なら良かった」


アンさんの言葉に少しホッとした。どこかで聞いていたのだろうか。リーダーを止められなくて、もっと責められるのかと思った。


「でもエルザさんを守れませんでした。誰も俺の意見は聞いてくれなくて」

「それでも声をあげてくれる人がいるって支えになるよ。パーティにいい人が入って良かったよね先生」

「あ?うん」


リンデル先生の歯切れが悪い。次に会う機会があるかどうかわからないから思い切ってたずねる。


「リンデル先生はエルザさんのこと、どう思ってるんですか」


ストレートに聞くと、アンさんがきゃあと飛び跳ねた。

リンデル先生は優しい顔になる。


「エルザを女性としていいなと思った時期も正直あったよ。でも無邪気に(なつ)かれてしまってねぇ、ぼくはエルザのお兄さんでいようって決めたんだ」

俺はエルザさんの台詞を思い出す。

「お兄さんじゃなくてお父さんでは?」

「何でわかるの!?」


アンさんが爆笑していた。


「というか君、エルザの前とキャラ違わない?」

「俺も自分がこんなに性格悪いの初めて知りました」


そう言ってあれ?と気づく。


「ローデリックさんって」

「好きなんだろうねえ。初等部男子レベルの恋愛偏差値で」

「拗らせすぎよねぇ、もう1ミリも見込みないのに」

リンデル先生がやれやれと言った感じで言い、アンさんがトドメを刺した。


「拗らせちゃうから、ちょっと好きかな?くらいの頃に告白しちゃうのがお互いに良いよね。ダメでもさらっと戻れるし」

「あ、俺もうその辺り一気に過ぎちゃいました。どうしよう」

「新人くん、いいねえ」


「でもアレでですか、本当に気づきませんでした」

「本人も気づいてないと思う」


「エルザを後衛に置いたのも、最初はいくら騎士だからって若い女性の顔に傷でもついたらって心配していた」

「そういう時期もあったわねぇ」

「傷があってもエルザさんが素敵なことには変わりません」


「君、いいねえ。私は君を推そう」

アンさんが身を乗り出す。


「アン、こういうのは当事者のものだから、事件性が無いとわかれば自然にまかせるべきだよ」

「はーい」


「とりあえず三人で飲もっか♪」

「アンちゃん?」


話聞いてた?とお小言をいうリンデル先生をかわしながらアンさんがサムズアップしてくるのが見えた。



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