04 パーティが全滅しない理由
森に入ってしばらく薬草を摘んでいると、交戦している音が聞こえた。私はコンテナを足元に置き、音のするほうへ走る。
みると狼型の魔獣数匹に囲まれている人間がいた。私は腰の短剣を4本抜くと、詠唱を重ねて短剣を次々に大ぶりに投げる。距離があったので1匹は仕留め損ねた。落ちた短剣は浮き上がり、自立して2投目となる。残りの1匹も倒したのを確認すると、襲われていた人間のもとへ駆け寄る。
「大丈夫ですか」
「ありがとうございま…ス……エルザさん!?」
近づいたときにはうずくまっていたので気づかなかった。顔をあげたのは同じパーティメンバーのエイミルだった。
「飛び道具もできるんですね」
「あ……器用貧乏なんで」
狩人の前で投げ物は失礼だったかな、テリトリーを荒らしてしまったろうかと心配していると、エイミルは目を輝かせて
「すごいです!!」
と絶賛してきた。騎士学校の男たちは領分を荒らされるのをひどく警戒するところがあったから、エイミルが手放しに褒めてくれたのが意外だった。
エイミルは足からだらだらと血を流していたが
「さっきの2巡目ってどうやったんです?」
と興味津々だった。
「まずは止血しましょう」
私は片膝をつき流血部分に手をかざす。温かい光が傷口を塞ぐ。
エイミルを木陰に座らせ休ませると、次は横たわっている魔獣のところまで行って短剣を回収する。魔獣は小一時間もすると土に還るので、今のうちにいちばん傷が目立たない個体の毛皮を剥いだ。狼獣の毛皮が先生の欲しい素材リストにあったのを思い出したからだ。きっと治癒素材ではなく冬支度に使うのだろう。手早く皮を切り離すと、コンテナの場所まで戻る。
コンテナを背負ってエイミルの休んでいる場所にあらためて荷物を置き、敷物を広げた。私はエイミルの足を触る。
「もう塞がったね、若いね」
「いえ、エルザさんの処置が良かったんです」
「辛かったら寝転がってもいいよ」
敷物の上をぽんぽんと叩くと
「いえ……あ、やっぱり、はい、お言葉に甘えて」
とエイミルは仰向けになった。
森の風が通り抜けていく。私はコンテナの1段目からバスケットを取り出す。素材狩りに行くというと、先生がお茶の時間のために用意したサンドイッチをそのまま持たせてくれた。
私は三角座りでサンドイッチを無言で頬張る。最後の一個を大口を開けて食べようとしたときに、横で寝転がるエイミルが私をじっと見ていることに気がついた。
「ごめん、お腹空いていた?」
「いえ……あ、空いています」
私は手に持っていたサンドイッチをエイミルの口に押し込んだ。そうして自分は簡易ポットに入ったお茶を飲む。エイミルがまたじっと見てくるので、欲しいと言いづらいのかなと思い、抱き起こしてお茶も飲ませてやった。エイミルが飲み干すとまた寝転がらせる。横になっていたほうが回復が早いのだ。
エイミルが何か言いたそうにしていたので、私は口を開いた。
「ああ、さっきのだよね。短剣のほうに追尾の詠唱をかけている」
「詠唱短くないですか!?」
「本当は長いよ。これはけっこうかかる。だから出かける前にかけておく。さっきは起動の詠唱だけ」
「なるほど」
「ソロの時はあれこれ仕込みをしておく」
「というか追尾って」
「あまり聞かないでしょう?私の先生は何でも知っていてすごいんだ。あ、ちょっと遠かったからさっきの短剣は命中も詠唱してあるよ。1匹外しちゃったけど」
「俺たちのパーティが全滅しない理由がわかりました」
エイミルが苦笑いする。
「エルザさんってここよく来るんですか」
「まあ時々。先生の家から近いし」
「明日も来ますか」
「あー……明日は用事があって来れない」
「何の用事ですか」
エイミルに勘づかれたのだろうか。転職の面接に行くとは言いづらい。私が口ごもっているとエイミルは質問を変えた。
「先生ってエルザさんの恋人ですか」
「えっ、ちが」
私は考えた。先生をそういうふうに見たことはない。
「先生はお父さんみたいな感じの人」
「ふーん」
エイミルはこの話を引っ張った。
「先生はそれ聞いたら喜びそうです?」
「喜ぶんじゃないかな。あ、お兄さんじゃないの?とか言いそう」
「若いんだ」
エイミルはぼそっと言ってまた質問を変えた。
「あの、明後日は来ますか」
「明後日も……わからないなあ」
もしも、もしもだけど王立治療院に採用されたら、明後日は手続きがあるかもしれないし、試用ですぐ入ってくれと言われるかもしれない。そんな夢みたいな妄想をしていたら自然と笑みが溢れる。
ふと我に返ると、エイミル眉を寄せて辛そうな表情でこちらを見ていた。
「あの、これからいっしょに治療院に行く?先生のところなんだけど。そんな遠くないし。もしかしたら私じゃ治しきれてないかもしれないし」
突然の申し出にエイミルはびっくりしていたけれど、しっかりとした口調で
「行きます」
と返事がきた。
本編外小話
◇◇
『じゃあ俺が10%減、エルザさん10%減ではどうですか』
あのときの自分の台詞を思い出す。
何を言ってるんだ。どうしても前衛の報酬を上げるというなら俺が20%減、エルザさんはそのままだったな……。エルザさんを低く見積もっていたのは俺も同じだった。
そう思って自分の頬を思いっきり叩くと、
「え大丈夫?毒か呪いでも喰らった?」
エルザさんは寝転ぶ俺の額に直接手を当ててもう一度、治癒魔法をかけてくれた。




