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02 エルザなんかどこへ行っても通用しない


席に戻ると、私を見て、みなが急に話を止めた。

報酬の件を再度持ちかけようとローデリックが切り出したそうにしている。私はすかさず「ごめん、ちょっと遠征の疲れが出たみたい。今日はお先に失礼するわね」

一方的に言い切って、少し多めに食事代をテーブルに置き、荷物を背負った。


自分のしたい話の続きができなかったので、ローデリックは中座に不満そうだった。皆に聞こえるか聞こえないかの声で「疲れるほど働いてないだろ」とボソボソ嫌味を言ってきた。


私は聞こえなかったふりをして、さっさと店を出る。ふだんなら訓練も兼ねて歩いて帰るが、もう訓練は必要ないし、心身ともにくたくただった。辻馬車を見つけようと大通りで肩の荷物を下ろす。


「エルザさん」

誰かがこちらに駆けてくると思ったら新人のエイミルだった。

「ほんと今回の遠征では、ハァハァ、いちから仕事を教えていただいて、ハァハァ、ありがとうございました」

「どういたしまして」

急いで走ってきたようで息切れをしている。

「遠征休み明け、また会えるのを楽しみにしています」

「私も」


嘘だった。辞めるなら遠征休み中にフェードアウトが最適だ。


「あの…」

エイミルが何か言いかけたときに馬車がきた。


「じゃあ」

「はい、お気をつけて」


乗り合い馬車で後ろ向きの席しかなかった。エイミルがずっとこちらに手を振っている。胸が痛まないように私は馬車の中で目を閉じた。



◇◇



エルザさんともう少し話したかったが、馬車がきてしまった。

とぼとぼと夜道を食堂に向かって戻る。


俺は討伐隊に入り立てで、しかも低ランクの狩人だったから、なかなか入れてもらえるチームがなかった。ローデリックさんのパーティでも難色を示された。やはり新人は足手まといなのだ。経験がないとパーティに入れてもらえないが、そもそもパーティに所属しないと経験を得られない。この門前払いの無限ループは一体どうしたらいいんだろう。

そんな時「じゃあ私がひと通りのことを教えるから、それならどう」とエルザさんが助け舟を出してくれた。

ローデリックさんは「エルザがぜんぶ面倒見るっていうならまあいいけど。新人、絶対に他のメンバーに迷惑をかけるなよ」と言って了承した。


その時の言葉通りにエルザさんはギルドに出す書類仕事から戦闘の連携パターンまで丁寧に教えてくれた。

たまたまエルザさんがいない日に何かを聞こうとすると「それはエルザに聞いて」とみんなに言われた。ローデリックさんに至っては「迷惑かけないって約束だったよな?」とイライラとした口調で睨んできた。その仕事自体ローデリックさんに頼まれたものなのに、ということもあって、俺はこの人が苦手だった。


エルザさんはいい人だけど、他の人たちはずいぶんな個人主義というか、あまり共闘するチームメンバーという感じはしなかった。早く一人前になって、他のパーティに移籍したいと密かに思う。そして移る時にはエルザさんにも声をかけたい。

いっしょに移籍しませんか、と。

ローデリックさんとは長い付き合いのようなので、俺は断られてしまうだろうか。せっかく仕事を教えたのにと彼女にがっかりされるだろうか。



食堂のテーブルに戻ると「遅かったな」とローデリックさんに言われた。俺は用を足しに行ったことになっている。エルザさんを見送りに行くだなんて言ったらローデリックさんはごちゃごちゃとうるさそうだったから。


「今、配分を考えていたんだ」

「配分?何のですか」


ローデリックさんは注文用の黒板に数字を書き始める。


「前衛の報酬を10%上げる」

「は?勝手に何決めてんの?中衛は下げるわけ?」


アデルさんの剣幕にローデリックさんは慌てて付け加える。

「中衛は変わらない、そのままだ」

アデルさんが脊髄反射で文句を言わなかったらこれは下がっていただろうな、と俺は思った。

「ええとじゃあその分はエルザから減らす。前衛は2人だからエルザは20%減になるかな」

「新人の俺よりエルザさんのほうが少なくなるんですか」

「新人かどうかは関係ない。さっきも言ったがこれは危険手当なんだ」

俺は納得いかなかった。

「そうは言ってもおかしいです。じゃあ俺が10%減、エルザさん10%減ではどうですか」

「ちょっと、中衛の減俸事例を作らないでくれる?」

同じく中衛のアデルさんに睨まれた。

「新人かどうかは関係ないと言ってるだろ」

ローデリックさんからも呆れてため息をつかれる。

前衛のギルベルトさんは我関せずといったふうで黙々と目の前の食事をもりもり食べている。


「こんな報酬ルールにして、エルザさんが他のパーティに行ってしまったらどうするんですか」

「エルザが他のパーティにだって?無理無理」


ローデリックさんは笑い飛ばす。


「エルザなんかどこへ行っても通用しないよ。治癒騎士なんてのは、治癒士にしては魔力が足りず、騎士にしては火力が足りずの貧乏職なんだよ。昔のよしみで俺がパーティに誘ってやったから今のエルザは何とかやっていけてるだけ」



そういってローデリックさんはエルザさんのいない場所で、エルザさんの減俸を雑に勝手に決めてしまった。




パーティ紹介

◇◇

前衛】

黒騎士ローデリック

銀騎士ギルベルト


中衛】

魔道士アデル

狩人エイミル(新人)


後衛】

治癒騎士エルザ

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