15 記録に残ってないほうが強いんだ
「地竜と翼竜、こことサカの泉、これ以外の目撃パターン聞いてますか」
「水竜」
私もエイミルも眉間に皺がよる。
「サビオラ湖で出た。昨日だ」
「地風水とくれば残りは火竜か」
「火竜はきっと天災竜だろ」
S級冒険者が抑揚の無い声で言う。
「そうではないかと俺も思っています」
「それで信号弾か。よい判断だ。ごちゃごちゃ言う者もいたが、疑わしければ打っていい」
「天災竜って火竜と決まってるのか?」
「いえ。ただ四竜でいちばん強いのは火竜種で、必然、生き残って超個体が出やすいんです」
「地震や噴火のときに現れるんだろう? 天災を感知するから天災竜なのか? それとも天災を引き起こしてるから天災竜?」
誰も答えないので、口を挟む。
「出現の記録が少なく実はわかっていません。出た時は得てして遭遇した人間が死んでるので」
一同がしんとなる。
そこへ重い空気をものともせず、ピンクブロンドが、恐縮せずに素人質問をした。
「水害だったら水竜が天災竜なの?」
「イルゼさん」
「な、何よ!」
イルゼはグーにした両手で口元を隠し、ぶりっ子ポーズをしながら私から体を仰け反らせる。
「素晴らしいです。水竜が天災竜の可能性も考えましょう」
「へ? あっそ」
そっけない返答をするが、イルゼの口角は上がっており、何だか嬉しそうだった。
「サビオラ湖の個体のサイズはわかりますか」
「先ほどの新しい可能性を考えると、わからんな。水面から出ていた部分は小型に見えたそうだが」
「では基本は火竜がボスと考えて動きましょう。全容が見えていない水竜もケアで。翼竜はエイミルにまず撃ち落としてもらいます」
「俺ですか?」
エイミルは目をぱちぱちさせている。
「命中と射程を上げる補助魔法をつけます。射手はエイミルだけなので、なんとか地上に落としてください」
「はい」
A級冒険者が質問する。
「三体同時に来たらどうする?撤退?」
「地竜を倒しているので……追尾で逃げ切れないと思います。翼竜だけでもここで刈り取りましょう」
それはここにいる皆に死ねと言っているようなものだった。
「火竜と水竜、どっちがオスだろうね」
「火竜だといいけどな」
「なんでだ?」
「討伐隊の記録には生存バイアスがある。記録に残ってないほうが強いんだ。水竜がオスのほうがやばいだろうな」
私はリーダー格のS級に願い出る。
「一度、ローデリックたちを見に行ってもいいですか? そう遠くはないはずで」
「生死を問わず陣営に連れてこないと約束できるなら」
「もし生きてて、縋りついてきたら気絶させます」
「けっこう」
S級は小声で私に耳打ちする。
「合流したらあの子の100倍厄介だと思う」
そう言ってピンクブロンドを顎で指す。
「俺も行きます」
陣営を離れようとする私に、エイミルが付いてくる。それを見てイルゼも付いてこようとしたら、
「お嬢ちゃんはまず自分に防御魔法をかけなさい。手持ちにあるヤツを全部」
とリーダー格に頭を押さえられ止められていた。
◇
ローデリックたちが進んだ道ならぬ道を分け入る。偵察スキルを持つエイミルと来たのは正解だった。この先に生命反応があるという。
「エルザさん」
「はい」
「死ぬの怖くないですか」
「怖くないかも」
「えっ」
「あー……麻痺してるだけだと思う。でも、死ぬ瞬間はいろいろ後悔しそう。あれをしておけば良かったなあ、とか」
「……エルザさん、俺」
「あっいた!」
前方に伏せている集団がいる。少しずつ近づくと、伏せている者もいたが、多くは仰向けでのびていた。私はすかさず、全員の呼吸と心音を確認する。
「全員生きてる。外傷もない。気絶してるだけみたい」
「あ! あそこに大穴空いてます」
周囲を確認していたエイミルが発見した。
「古竜が地面から飛び出して、竜に認識される前に気絶したんだね……運がいい」
「どうします?」
「このまま寝かせておく。その方が生存確率上がるから」
そうして私はメモを書き出す。
「何を書いてるんですか」
「古竜の情報。私たちだけやられて、この人たちが王都に戻れる可能性もあるから」
何枚か書いて、ローデリックと多少腕が立ちそうな者数人のポケットにメモをぐいぐいと挟んだ。
私は近くにあった草木で物理的にみんなを隠した後、プロテクトをいくつかかけた。
「戻ろうか」
そう言って振り返るとエイミルは何かメモに書いていて、それを丁寧に畳むと私に差し出してきた。
「エルザさんこれ」
「古竜の新しい情報?」
そう言って折り畳みを広げようとしたら、
「あっ個人的なものなので。今じゃなくて、無事王都に帰れたら読んでください」
「なんで今読んじゃダメなの」
「俺のほうが弱いんで、先にアレするかもしれないんで」
「えっ遺書的な」
「や、そんな重いものでは無いんですけど」
きちんと折り畳まれた紙をじっと見つめる。
「王都に戻ったらまたちょうだい」
私は紙のメモをエイミルに突き返した。
「いっしょに戻ろう」
そうして片手を差し出す。エイミルはふうと大きくため息をついてから「はい」と短く言って握手を返した。




