14 古竜に前立ちされて気を失わないなんて、素質あるよ
『下から来るよ』
私は重心を落として、腰の長剣を引き抜いた。
◇
ドンと突き上げるような衝撃が地面から湧き上がる。大きな破裂音がしてあらかじめかけておいた魔法円が一枚やられた。
「都合二枚です残り一枚」
私は周囲に声をかける。
何人かが強化魔法の詠唱を始める。エイミルはイルゼの腕を掴んで、SA冒険者の後ろまで走り、頭を低くさせる。
もう一度、ドンと突き上げがあり、破裂音がして二枚目の魔法円が割られた。モリモリモリモリと気味の悪い音とともに地面が盛り上がり、それから吹き出すように地中から竜が現れた。
土に塗れた錆色をしている。テオの入手した古竜の情報はおそらくこれだ。サイズ感も近いし、色味も地竜のそれだった。古竜にしては小柄だから移動も早いのだろう。この後もっとでかいのが来るなら早目に仕留めないとならない。
この竜は森林の入り口に直行したのだろうか。
方角的には先にローデリックたちのポイントを通過するはずだが。結界との接触で私に向かってきたのなら僥倖だ。けれど先頭集団がすでに壊滅しているのなら……。今は考えないでおこう。
私は冒険者らと円陣を組んだ。
1人に集中して竜の攻撃が向かわないようにローテーションして同じ火力で削り始める。事前の打ち合わせなく息が合うあたり、さすが上級冒険者たちだった。
私を入れて5人だが、正直、有象無象の100人よりよほど心強い。守るものが少ない方が実は楽に戦える。
竜は攻撃をした人間に突進する。すかさず別のアタッカーが背に回り込んで竜を振り向かせる。対人間でやっていたらずいぶん性格の悪い嫌がらせだ。
リズム良く削れ始めて、あとは時間の問題だった。2体目がくるまでに仕留めないと。
私は円陣の味方に速度向上の補助魔法をかける。ローテーションが早回りし始めた。おそらくあと2巡で倒せるだろう。
全員が安堵した時だった。
自分の体が光る。隣の冒険者も。急に回復魔法がかけられた。振り返るとイルゼだった。ああまずい、すごくまずい。勝手なことをするんじゃない。
「火力2倍でお願いします」
言って自分から竜に突っ込む。強いヘイトが溜まって竜から体当たりを受ける。背中側の冒険者がちょっかいをかけるが見向きもしない。
そこへまた私へ回復魔法がかけられる。竜はイルゼのほうを見た。
「イルゼさん、回復やめて」
竜がイルゼに向かって突進する。
「きゃああああああああああああ」
もう少し温存しておきたかったのに。私は昨日から魔力を練り込んでおいた短剣を、今にもイルゼに覆い被さろうとする竜に投げつけた。命中と貫通もつけている。これは天災竜にとっておこうと思った武器のひとつだった。
竜の後頭部に刺さるが尾で落とされる。しかし短剣は自立式だ。落とされた位置から最短距離で眼球を狙う。
竜の地響きのするような鳴き声が森林をこだました。振り落とされた短剣は再びもうひとつの眼球を狙う。
竜の両目を潰した。地竜だから視覚依存は低いが、それでも動きはずいぶん鈍った。S級らしき冒険者が竜の背を駆け上がり、自身の倍ほどもある長槍で頭蓋骨を貫く。
竜は力の限り咆哮すると、重い音をさせて横倒しに倒れた。
「ごめん、目玉潰しちゃいました。高く売れるのに」
「いや最善の判断だった」
「よくやった」
「お前もあそこでよく走ったよ」
「最後のあれ、仲間呼んでたな。次来るぞ」
5人は誰ともなしにイルゼを振り返る。
「回復魔法を使うと魔獣のターゲットになる。とくに顔認識できる竜との戦闘中は使わないように」
「え……あ……」
「心配してくれたんだろう。ありがとう。でもポーションもらってるから大丈夫だよ」
「あ……あ……すみません」
うなだれるイルゼとその横のエイミルのもとへ近づく。
「イルゼさん」
「エ、エルザさんも!!あんな遠隔で使える武器あるなら最初から使えばいいのに!!」
イルゼは女には謝れないタイプのようだ。
「繰り返し使えるものじゃないし、前日から仕込まないと無理なんです。あれが最後」
「え……そんな」
それを聞いて、イルゼは逆ギレをする。どうやら同性に謝ると死ぬ人種のようだった。
「ど、どうせ私には冒険者なんて向いてないと思ってるんでしょ!?」
私は彼女を慰める気は無かったけど、思ったことをそのまま伝えた。
「そう? 古竜に前立ちされて気を失わないなんて、素質あるよ」
「あ?……えっ?えっ?」
「次が来る前にバフかけてあげてくれる?みんなに」
「あれで終わりじゃないの!?まだ来るの!?」
「イルゼさん、今まで話聞いてました?」
最後に突っ込んだのはエイミルだった。




