16 天災 vs 天才
陣営に戻った私とエイミルは、精鋭冒険者とイルゼに、ローデリックたちの報告をした。
イルゼはリーダー格のS級冒険者に短期間でずいぶん躾られたようで、借りてきた猫のように大人しくなっている。陣営内でエイミルにベタベタすることは無くなった。そんなことは王都に戻ったら存分にやれ、とS級冒険者が言う。
存分にやられても困るのだけど。
ただイルゼの経験が薄いからこその素人質問は案外、いつも的を得ていた。
「飛竜?翼竜でしたっけ? 飛べるわりには遅くないですかー?」
そうなのだ。ローデリックたちの様子を見に行ったとき、古竜の探知をしたらすぐ戻るつもりが、全員の健康観察をして、また歩いて戻ってくるくらいの時間の余裕があった。これは遅すぎる。
四竜の中で、飛竜は必ず飛行能力を持つ種だから、その移動速度を考えたらずいぶんと遅かった。他の竜種は飛べたり飛べなかったりで個体差がある。
水竜の古竜はおそらくその巨体の重量を考えると飛べないだろう。でもそれならどうやって湖に移動したんだ? 湖が地底や水路につながっているのだろうか。
「たしかに遅いな」
「お仲間と待ち合わせしてるのかもしれないね」
冒険者のひとりが乾いた笑いとともにそう言った。その冗談なのか推論なのかわからない言葉はその場にいる全員をぞくりとさせた。そのときだ。
「敵襲!!」
木の上でずっと監視をしていたエイミルが叫んだ。冒険者のみんながざわつく。詠唱を始める者もいる。
「2体確認! 左に翼竜、正面に火竜です!」
「竜って連携しなかったんじゃないのかよ……」
「2体同時は初です」
「俺もだよ」
最も戦況のわかるエイミルが、スコープの結果を叫ぶ。
「山火事です!!」
「エイミル、どういうこと!?」
「火竜が! 低空飛行で、山を焼きながら前進してます!」
A級冒険者のひとりが空を仰ぐ。するとS級冒険者がその人の背中をパンと叩く。
「馬鹿、諦めるな! 狩人、お前は翼竜を必ず撃ち落とせ!」
S級が周りを鼓舞して、指示して、立ち回る。
「ええと君は名前なんだっけ」
「エルザです」
「エルザ、水属性は?」
「基本のものしか」
「ピンクお前は?」
「イルゼです!!……四属性は何も持ってません」
私がたいして強くもない水魔法を使うくらいなら、回復とシールドにそのリソースを充てたほうがいいだろう。何か、何か策はないだろうか。
ずっと木の上から遠隔で攻撃をしていたエイミルに向かって翼竜が加速を始める。あっという間だった。翼竜が私たちの陣営ギリギリを飛行してアタックをかけてくる。エイミルめがけて尾を降り下ろす。咄嗟に避けたエイミルが木の上から転げ落ちてくる。地上に落とされて無防備になったエイミルに、2回目のアタックをしようと、翼竜は旋回して一度上げた高度を下げ始める。
「エイミル!」
もうダメだと皆が思ったとき、ドンと地響きがして翼竜が撃ち落とされた。
上空にいた翼竜は頭から落下を始める。四竜のなかでは比較的軽量だが、そうは言っても竜は竜だ。高度とその体の重さで、地面と接するや否や、ものすごい轟音と砂煙を撒き散らして、翼竜は地面にめり込んでいく。
さらにもう一度。先ほどよりも大きな地響きがドウンとあたり一帯に鳴り響く。今度は翼竜に続き、火竜が撃ち落とされた。
これはあれだ、あの人だ。私は後ろを振り返る。
「院長!!」
陣営の後方には到着したばかりの院長と、騎士団がいた。
院長がさらにグラビティを追唱すると、地面に大きなひび割れが生まれる。そこに吸い込まれるように周囲の木や土がめり込んでいく。院長が何度も詠唱を重ねて、燃え上がる森林ごと、地にできた割れ目に火竜を埋めていく。火竜は地中に埋まったまま自身の重みで動けない。
「すごい」
「天災 vs 天才って感じだな」
竜に向かって手をかざし、静かに佇んでいる院長に皆が羨望の眼差しを向ける。院長が振り返って私たちに微笑みかける。
「これ、有機物にしか効かないので!王都に入った後だと大変でした!食い止めていただいて、みなさんに大感謝ですっ」
危機的状況だったことが嘘みたいに、いつも通りの院長だった。イルゼが頬を染めて食い入るように見ている。
ずいぶん腕の立つ人間が加勢しに来た、しかも騎士団まで。戦況の好転に皆の表情が緩む。
「でも残念なお知らせです。あれは」
院長は皆を動揺させないようにか、テンションを抑え、珍しくゆっくりと伝えてくる。
「メスでした」
「メスって……天災竜じゃなかった……てことですか? 嘘でしょう? まさか、あれより強いの……!?」
ピンクブロンドが陣営の皆の心の中を代弁して言った。




