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地底の星  作者: 広育 春美


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2/5

大きな月の夜

 一日目の夜。

 夜空の美しさに感動し、三人は静かにそれを眺めていた。やがて一息ついた瞬間、寝不足と身体の酷使が一気に押し寄せ、強い眠気に襲われる。

 二十一時過ぎ――三人はそれぞれのテントに入るや否や、深い眠りへと落ちた。空が薄明るくなり始めた頃。しかし、周囲はまだ完全な闇に包まれていた。

 澪は、テントの周囲の砂利を踏む、微かな足音で目を覚ました。

 声を上げようとして、咄嗟に口を押さえる。そのまま息を殺し、耳を澄ました。ゆっくりと、テントの端から中心へと身体を寄せる。

 ――ジャリッ

 やはり、何かがいる。

 しかも一方向ではない。別の場所からも、同じような音が聞こえてくる。何の動物かは分からない。ただ、複数がテントの周囲をうろついている。

 外が真っ暗であることだけは分かる。完全な闇の中で、不安だけが膨らんでいく。

 富貴と颯は気づいていないのか――そんな思いが胸を締めつけた。

 ――ジャリッ、ジャリッ、ジャッ

 すぐ真横にいる。

 そう感じた瞬間、澪は目を閉じ、頭を抱えた。息を吐く音すら立てないよう、全身を強張らせる。

 その時――

 スマホが何かを受信し、淡い光がテント内を照らした。

 まずい――

 慌ててスマホを裏返した、その瞬間。低く、太く、押し潰すような唸り声。

 次の瞬間――

 世界が反転した。テントごと持ち上げられ、洗濯機の中のように激しく回転する。布が裂ける音。澪は、耐えきれず叫んだ。その叫びに呼応するように、三匹の雄叫びが闇に重なる。

 隣のテントから、澪の名前を叫ぶ声が聞こえた。だが、その声が届くはずもない。恐怖がすべてを塗り潰し、澪はただ叫び続けた。

 その時だった。

 獣たちの姿を照らす、強い光。光に気づいた獣たちは、その方向を向き、何かを悟ったかのように動きを止める。

 そして次の瞬間。逃げるように、森の奥へと駆け去っていった。

 転がったテントの中から、澪は薄明るくなり始めた空を見上げた。だが、安堵は訪れない。

獣たちが恐れていた――“次”が来るかもしれない。その想像が、背筋を冷やす。

 澪は手元のタオルケットを頭から被り、誰もいないかのように身を隠した。気配を消すように、ただ静かに、時が過ぎるのを待った。


 隣のテントのチャックが開く音がした。澪はそれを聞いた瞬間、反射的に叫んだ。

 「開けたらあかーん!」

 ――ジ、ジ、ジ

 その声に呼応するかのように、何かがこちらへ近づいてくる音が、確実に距離を詰めてきた。

 「大丈夫かのぅ」

 ふいに、柔らかな声が響いた。

 澪はタオルケットの隙間から外を覗く。姿は見えない。だが――助けが来たと直感した。

 「うぉい、うぉい、大丈夫かのぅ」

 その声を確かに“人”のものだと理解し、澪は空の見える裂け目から顔を出した。次の瞬間、強い光が顔を照らす。思わず手で遮る。

 「うぉい、ごめんごめん」

 懐中電灯の光の向こうに浮かび上がったのは、深い皺の刻まれた顔だった。影が強調され、一瞬ひるむ。だが――すぐにそれが老婆だと分かった。

 「婆ちゃんが助けてくれたの?」

 声を聞きつけ、富貴と颯も駆け寄ってくる。

 「うぉい、うぉい、三人とも何ともなくて良かったのぅ」

 澪はひっくり返ったテントを直しながら、半泣きで老婆に駆け寄った。

 「ほんま助かりました……もうあかんか思った。婆ちゃんは命の恩人や。ほんまにありがとう」

 「ここら辺はツキノワグマがおるんけん、気ぃつけなの」

 富貴と颯も深く頭を下げる。

 「あとちょっとで、あかるぅなるけんの。それまで一緒におろうかの」

 富貴が応じた。

 「そう言って頂けると助かります。あの……お婆さん、熊は怖くないんですか」

 光の影で、皺なのか目なのか判別のつかない表情が浮かぶ。そのまま、老婆は笑った。

 「熊よりワシの方が怖いからのぅ。ふふぉふふぉ」

 冗談とも本気ともつかない、不穏な笑い方。富貴はわずかに引きながら答える。

 「そ、……そうですか。何にしても、助かりました」

 やがて周囲が明るくなり、老婆の姿がはっきりと見えてきた。顔は年相応に皺だらけだが、背筋は不自然なほど真っ直ぐに伸びている。座り方も歩き方も、三人よりよほどしっかりしていた。

 「あかるぅなったけど、あいつらはまだそこにおるけんの。三人ともワシの家に来た方がえぇ。テント片付けて、ついてこればえぇ」

 三人はまだ薄暗い中、急いでテントを片付けると、川上へ向かって歩き出した老婆の後を追った。

 「後、ちょっとやけんの」

 老婆は軽い足取りで進んでいく。だが三人は、それに付いていくだけで精一杯だった。息を切らしながら、ただ頷くことしかできない。細い山道を三百メートルほど進むと、森の奥に――周囲と明らかに異質な茅葺の小さな家が現れた。

 完全な森の中。傾斜がなければ、来た道すら見失いそうな場所だった。

 家に入ると、玄関の先に一室だけ。障子を開けると、囲炉裏のある部屋がぽつんと存在していた。生活の気配はない。台所も、水回りも見当たらない。

 ただ――囲炉裏だけがある。

 奥にはもう一枚、障子。家の大きさからして、その向こうは一、二畳ほどの小部屋だろうと想像できた。

 「ここに人が来ることはないからの。何もないんじゃ。茶も出せずにすまんのぅ」

 富貴が軽く手を振る。

 「いえいえ、もう少し明るくなるまでですので、お構いなく」

 四人は囲炉裏を囲んで座る。すると、老婆がゆっくりと口を開いた。

 「この辺は危ないけんの。立ち入り禁止の看板も立てとったんじゃが……気づかんかったかのぅ」

 三人は顔を見合わせる。

 「えっ、そんなん見たか?」

 「いや、見てへんわ。富貴も?」

 「見てないけど……草が多くて倒れてたとか、気づかなかったのかも」

 「それや、それしかないわ」

 老婆は、にこやかな笑顔のまま――まるで固まったように表情を変えず、続けた。

 「一つや二つやない。ようけあるから、見落とすことはないはずじゃがのぅ……まぁ、来てしもたもんは仕方ないわい」

 澪が首をかしげる。

 「婆ちゃんは、そんな危ない場所やのに入ってええの?」

 「入らんと、この家に帰れなくなるのぅ」

 一瞬の間。そして三人は笑った。

 「婆ちゃん、ごめんな。家あるならしゃーないね。けど、住んでんのは、この家ちゃうんやろ?」

 「家はここじゃ」

 「けど、ここ何もないやん」

 「あっちの部屋にあるんじゃ」

 老婆は奥の障子を指差す。

 「……」

 空気が一瞬だけ止まった。富貴が割って入る。

 「澪、もういいじゃん。恩人のお婆ちゃんの家に寄らせて頂いているだけ感謝しないと」

 「あっ、そやな。婆ちゃんごめんな。変に疑ってもうて」

 「うぉい、うぉい。それで、お前らはどこへ向かっとるんじゃ」

 富貴が少し言い淀んで答える。

 「私達、その……宝物探しに来てるんです」

 「……宝探し。こんな山の中でか」

 「はい。剣山に埋められたって話があって」

 「ふぉふぉふぉ」

 老婆は静かに笑った。

 「宝が見つかったらええのぉ。けどな、この先は行かん方がえぇ。ここから先は熊が増える。川沿いに戻って、人のいる方へ帰るんじゃ」

 「そうですね……熊が出るなんて、全然考えてなかったです」

 その後、三人は老婆からこの土地の昔話や剣山の話、四国山脈のことを聞いた。やがて、外が完全に明るくなり始める。

 三人は改めて礼を言い、家を後にした。


 川沿いに戻り、お婆さんに教えられた道へ向かう前に、三人は川べりに腰を下ろした。昨晩のうちに用意しておいたおにぎりを取り出し、静かな水の音を聞きながら朝食をとる。

 「しかし、変わった婆さんやったなー」

 颯がぼそりと呟く。

 「そうだねー、ちょっと変わった人だった」

 澪も頷く。

 「話してる時に聞こうか迷って、結局聞けんかったけど……あの婆ちゃん、どうやって熊追い払ったんやろな」

 「確かにそれは不思議ね。ほんと、どうやったんだろ」

 「自分で熊より強い言うてたしな。熊もそれ分かっとって、恐れてたんかも知れんな」

 三人は軽く笑い合う。だが、その笑いはどこかぎこちなかった。その時、地図を広げていた颯が顔を上げる。

 「今ここに居てる。この川のカーブのとこな」

 指で現在地を示しながら続ける。

 「で、ここが展望台のパーキング。このまま婆さんの言う道行ってもええけど……車通る道の方が絶対安全やろ」

 「まぁ、そっちの方が安心やな」

 「せやろ。でな、反対ルートを五百メートルほど行けば、ここに出れる」

 「でも、それってまた森の中通ることになるわよ?」

 「二百メートルくらいな。それぐらいなら大丈夫やろ。昨日はもっと深い森の中、歩いてたし、人の手が入っとる場所に近づくんやから、熊も近づかんやろ。四国で熊のニュースなんて聞いたことないしな」

 「せやな……颯の言うことも分かる気する。富貴リーダー、任せるわ」

 「なんで急にリーダーなるのよ」

 そう言いながらも、富貴は少し考え込む。

 「うーん……川下に戻るより距離は短いし……静かに用心して進めば大丈夫かな」

 「大丈夫やって。三人で気ぃ張っとけば問題ないやろ」

 完全には納得していない様子で、富貴はゆっくりと頷いた。

 「じゃあ、行こうか。けど、熊以外でも動物の気配が多かったら引き返すわよ」

 「せやな、あのドキドキはもう勘弁や」

 三人は立ち上がり、川上へと歩き出した。


 しばらく進むと、坂の上の方に白い鉄格子が見えた。駐車場を囲う柵のようだった。

 「あれあれっ、もうすぐやな。けどここから森やし、気ぃ抜かんと行こう」

 再び、ひんやりとした森へ入る。三人は自然と肩を寄せ合い、周囲に目を配りながら静かに進んだ。

 ――そろそろ道に出てもいいはず。

 誰もがそう思いながら歩いていた。

 だが。

 いつまで経っても、県道らしきものは現れない。それどころか、森は徐々に濃く、深くなっていく。

 「……ちょっと待って。おかしくない?」

 富貴が足を止めた。

 「そろそろ道が見えてもいい頃じゃない?結構進んだよね」

 「……俺もそう思ってた」

 「何かおかしい。迷うような道じゃなかったよね」

 「変なこと言わんといてや……不安になるやん」

 澪が言いかけて、言葉を止める。

 「……えっ」

 指差す先。そこには、小さな洞窟が口を開けていた。

 「なんで、こんな所に洞窟があんの」

 「その洞窟の崖の上が駐車場ちゃうか。行ってみよう」

 近づいてみると、洞窟のある崖は思っていた以上に険しかった。その上には、大きな木々が覆いかぶさるように生い茂っている。

 「やばいって、これ。引き返した方がええ」

 「颯に賛成。戻ろう」

 富貴は無言で振り返る。そして――立ち止まった。

 「……ちょっと待って」

 声がわずかに震える。

 「森が……違う」

 二人も振り返る。

 「……」

 そこにあったのは――

 明らかに、さっきまでいた森とは別物だった。光が届かない。空気が重い。奥行きが、異様に深い。

 「いったい……どこ」

 富貴はスマホを取り出す。画面には、無機質な「圏外」の表示。

 「……とりあえず、戻ろう」

 その一言で、三人は来た道へと引き返した。


 無言だった。ただ、必死に歩いた。枝をかき分け、足を取られながらも進み続ける。

 そして――

 森が開けた。

 「戻れた……?」

 その言葉は、最後まで続かなかった。目の前にあったのは――あの洞窟だった。

 何度も試した。戻って、戻って、戻って。

だが。辿り着く場所は、必ず同じ。洞窟の前。


 三人は、ついにその場に崩れ落ちた。

 「ごめん……俺が近いとか言い出したばっかりに……」

 颯の声は震えていた。涙が頬を伝う。

 「そんなん言わんといて。誰も悪くないから」

 澪も涙目で首を振る。時間だけが、無情に流れていく。やがて、辺りは再び薄暗くなり始めた。

 「……もう無理や」

 澪が小さく呟く。

 「ここでテント張るしかない。暗くなる前に準備しよ」

 「……ごめん、富貴。一緒させて」

 「もちろん。そのつもりよ。ちょっと狭いけど、全然大丈夫」

 颯は洞窟の中を覗き込む。だが、そこには――何も見えない闇だけがあった。

 「なぁ……ここ、なんか出てきそうやし、ちょっと離れた方がええんとちゃう?」

 二人も洞窟を見る。そして、静かに頷いた。

 「そうね……あの岩陰にしよっか。少しでも安心できる場所の方がいい」

 三人は、洞窟から距離を取るように、岩陰へと移動した。


 昨日と同じように火を起こし、手早く用意していた肉を焼いた。火が通ると、明かりが目立つのを避けるため、すぐに火は消した。だが、その夜は満月が異様なほど明るく、周囲を見渡せるほどだった。おかげで、真っ暗闇の中で食事をするような惨めさはなかった。食事を終えると、三人は「明日にはきっと帰れる」と、なるべく明るい話を交わした。やがて言葉も途切れ、虫たちの合唱だけが辺りを満たす中、三人は無言で満月を見上げていた。

 その時だった。

 草をかき分けながら、誰かが歩いてくる音がした。一番先にその音に気づいた颯が、人差し指を立てて二人を制す。そっと立ち上がり、岩陰から気配のする方を窺った。

 そして、息を呑む。

 あのお婆さんが、ひょこひょこと歩きながら、まるで自分の家に帰るかのような足取りで――洞窟の中へ入っていった。

 「えっ」

 澪が颯の服を掴む。颯は小さく身を縮めている二人を振り返り、低い声で言った。

 「あの婆さんが、洞窟に入っていった」

 「はっ?」

 二人の声が、ぴたりと重なる。

 「あの助けてくれた婆さんが、洞窟に入っていった」

 「えっ、どういうこと?」

 「どういう事かは知らんけど、見間違いやない。それだけは確実や」

 「なんで婆ちゃんが、こんなとこにおんのよ」

 「せやから知らんって……」

 沈黙が落ちる。先に口を開いたのは澪だった。

 「颯、ちょっと洞窟見てきてくれへん」

 「……えっ。俺一人で?」

 「俺一人で」

 「まじで」

 「まじで。まさか女の子に行けって言わんよね?」

 「……」

 そこへ富貴が割って入った。

 「三人で行きましょう」

 だが颯は、立ち上がろうとした富貴を手で制した。

 「いや、俺が見てくる。二人はここから俺の様子を見といて。もし何かやばいのが出てきたら……隠れて」

 一拍置いて、颯は続ける。

 「俺はどうなるかわからんけど、逃げられたら森の中に逃げる。何もなかったら呼ぶ」

 そう言うと、颯は崖沿いに身を寄せながら、静かに洞窟へ向かっていった。洞窟の前で足を止める。一度深く息を吸い、そっと中を覗き込んだ。

 完全な闇を想像していた。だが、違った。洞窟の奥。そこに、三つの黄色い点が浮かんでいた。

くるくると。

 同じ場所を、静かに、確かに回っている。颯は思わず顔を引っ込めた。深呼吸を一つ。もう一度、確かめるように覗く。

やはりあった。発光する虫ではない。機械のランプのようでもない。ただ、黄色い光の点だけが、宙に浮き、同じ場所で回転している。

 颯は二人へ手招きした。二人は息を殺しながら近づき、洞窟の中を覗く。

 「奥の方……見える?黄色い点が回ってる」

 「何、あれ……」

 「何かあるわね」

 三人は一度、岩陰まで戻った。

 「初めて見るもんやな……何やろ。機械のLEDか?」

 「分からんわ。夕方に中を見た時は、あんなの無かった」

 「どうする?入ってみる?」

 「やばいって、絶対やばいって。今の状況、どう考えてもおかしいやろ。現実で“世にも奇妙な”みたいなこと起きてるんやで。絶対やばいって」

 「けど、婆さんは普通に入っていったし」

 「それほんまなん?見間違いやないの?」

 「澪、お前な。この状況で適当なこと言うわけないやろ」

 「……それもそやけど。どうする、リーダー?」

 「だから、私は入ってみるかって聞いてる側でしょ。こういう時だけリーダー扱いするのやめて」

 そのやり取りのあと、颯が口元を引き締めた。

 「……OK。俺が先に行く。後ろからちゃんと見といてくれ。婆さんが消えたこと考えたら、多分やけど、あの黄色いのはスイッチや。押したら何か開くんやと思う」

 再び、洞窟へ。颯は慎重に奥へ進み、黄色い光へ近づいていく。近くで見ると、それはスイッチなどではなかった。ただ、宙に浮かぶ光の点だった。

 そして、その真下――

 入口からは死角になっていて見えなかった場所に、円形の板のようなものが置かれていた。その上には、絵のような、文字のような、呪文のような模様がびっしりと並んでいる。

 颯は息を呑み、しゃがみ込んだ。そして、その板に触れようとした――その瞬間。身体が、黄色く発光した。

 一瞬だった。

 本当に、一瞬。

 颯の全身が眩く染まり――消えた。

 「えぇぇぇぇーー!」

 富貴と澪の悲鳴が洞窟に響く。我に返った二人は、すぐに叫んだ。

 「はーやーてー!」

 返事はない。当然だった。颯は、消えたのだ。確かに、目の前で。二人は顔を見合わせる。

 「黄色の点の下……何かに触れようとした時に消えたよね」

 「うん……そうやけど」

 「じゃあ、あそこに何かあるってことよね」

 「ちょ、ちょっと待って富貴。私、ほんまに怖い。これ、現実やんな?」

 「颯が消えたのは現実よ。でも、だからって放ってはおけないでしょ」

 「それは、そうやけど……」

 「行くしかないでしょ」

 「……」

 澪は唇を噛み、やがて観念したように頷いた。

 「よし……もうええ。私が見てくるわ」

 「駄目。ここは二人で行く」

 富貴の声は静かだったが、迷いがなかった。

 「助けが来る見込みはないし、もし澪まで消えたら、結局私も一人で行くことになる。それなら最初から二人で行った方がいい」

 二人は手を繋いだまま、洞窟の奥へ進んだ。黄色い光が、近づくほどに不気味さを増していく。

 「ここから見る分には何もなさそうね。けど、近づくと駄目みたい」

 「これやわ……下に何かある。何て書いてるんか富貴はわかる?」

 富貴は足元の円形の板を見つめた。

 だが、そこに刻まれているものは、見たこともない記号ばかりだった。

 「……全然わからない」

 短い沈黙。そして、富貴が決めた。

 「とりあえず……この光の点に触れてみる」

 手を伸ばした、その瞬間。足元から、黄色い光が噴き上がった。二人の身体を包み込むように。息を呑む間もなかった。

 次の瞬間――

 二人は、その場から消えた。


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