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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第57話 残された時間

【前書き】


ここまで読んでいただきありがとうございます。


物語はいよいよ終盤に入りました。


この回では、「選ぶこと」と「選ばないこと」、どちらも同じくらい重いというテーマを書いています。


助かる可能性があるのに、それを選ばないという決断。

簡単には受け入れられないし、正解もない。


それでも恒一は、自分なりの答えを出しました。


そしてレイナも、ただ支えるだけではなく「一緒に背負う」という選択をしています。


2人の関係も、ここで一段階深くなりました。


残された時間の中で、2人は何を選ぶのか。

ぜひ最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

病室の空気は、どこか静かすぎた。


 窓の外は晴れているのに、光は妙に遠く見える。


 白いシーツ。


 白い壁。


 淡い消毒液の匂い。


 その全部が、今の現実を何度も突きつけてくる。


 恒一はベッドの上で、ただ黙っていた。


 隣にはレイナ。


 椅子に座ったまま、ずっとそばにいる。


 少し前まで、そんなの当たり前じゃなかった。


 けれど今は、その存在だけが妙に救いだった。


「今日、先生来るって」


 レイナが小さく言う。


「ああ」


 短く返す。


 本当は、それすら聞きたくなかった。


 でも、逃げてもどうにもならない。


 しばらくして、医師が病室に入ってきた。


 前回よりも、少しだけ表情が重い。


「黒沢さん」


 名前を呼ばれる。


 レイナも自然に背筋を伸ばす。


「検査結果と、今後の方針についてお話しします」


 淡々とした口調。


 でも、その一言一言が重い。


「腫瘍は悪性です。進行も比較的早い部類に入ります」


 わかっていた。


 覚悟もしていた。


 それでも、改めて言葉にされると違う。


「現在の場所が良くありません。手術は可能ですが、成功率は決して高くないです」


 医師は資料をめくる。


「国内で対応できる施設は限られていますが、このタイプに関しては海外の専門機関の方が可能性があります」


「……可能性は、あるんですか」


 レイナが聞く。


 その声は少しだけ震えていた。


「ゼロではありません」


 医師ははっきり言う。


「ただし、非常に特殊な症例です。成功率は高くなく、費用もかなりかかります」


「どれくらい……ですか」


 レイナが続ける。


 医師は少しだけ間を置いて答えた。


「渡航費や滞在費、治療費、その後のリハビリも含めると……相当な額になります。少なく見積もっても数億円、条件次第ではさらに上がる可能性があります」


 病室が静まり返る。


 数億。


 言葉としては短い。


 でも、その重さはすぐにわかった。


「それと」


 医師が続ける。


「治療を受けたとしても、完治が保証されるわけではありません」


 そこまで聞いて、恒一は小さく息を吐いた。


 現実は想像以上に重かった。


 医師が去ったあともしばらく、誰も喋らなかった。


 レイナが最初に口を開いたのは、数分後だった。


「……あるんだね」


 ぽつりとした声だった。


「可能性」


 恒一は目を閉じる。


「あるって言っても、だいぶ薄いだろ」


「でもゼロじゃない」


 レイナはすぐに言う。


 その反応は、予想していた。


 だからこそ、恒一は少しだけ苦く笑う。


「お前、そう言うと思った」


「だってそうじゃん」


 レイナの目は真っ直ぐだった。


「助かる可能性があるなら、考えるでしょ」


「簡単に言うなよ」


 恒一の声が少しだけ低くなる。


「簡単じゃないよ!」


 レイナもすぐに返す。


 病室の空気がぴんと張る。


「簡単じゃないってわかってるよ。でも——」


 そこで言葉が詰まる。


 泣くのをこらえているのがわかる。


「でも、何もしないで諦める方が嫌だよ」


 その言葉は、痛かった。


 正しいからだ。


 でも、正しいだけでは動けないこともある。


「俺はやらない」


 恒一は静かに言った。


 レイナの表情が止まる。


「……なんで」


「成功率が低い」


「金もかかる」


「しかも、その金を使い切って助からなかったら、何も残らねぇ」


「そんなの、今考えることじゃないでしょ!」


 レイナが立ち上がる。


「助かるかもしれないんだよ?」


「だったら——」


「だったら何だよ」


 恒一も声を上げる。


 レイナが言葉を止める。


 恒一は自分でも驚くくらい感情が出ていた。


「俺のために全部使うのか?」


「お前のこれからも、佐倉のこれからも、全部巻き込んで?」


「そんなの、できるわけねぇだろ」


 レイナの目に涙がたまる。


「なんで勝手に決めるの」


 小さな声だった。


 でも、その一言が一番刺さる。


「私のこと、勝手に外に出さないでよ」


 恒一は息を飲む。


 レイナは泣きながら続ける。


「一緒にいるって決めたの、私だよ」


「だから、そこも一緒に悩ませてよ」


 言葉が、何も返させてくれない。


 しばらく沈黙が続いた。


 そのあと、恒一はゆっくりと口を開く。


「……この力のせいかもしれねぇ」


 レイナが顔を上げる。


「え?」


「今まで、数字が見えて」


「使えば当たって」


「そのたびに頭が痛くなってた」


 言いながら、自分でも整理していく。


「最近は数字だけじゃない。単語も見える」


「どんどん強くなってる」


 レイナは黙って聞いている。


「母さんも同じ病気だった」


「遺伝かもしれねぇし、関係ないのかもしれねぇ」


「でも、もし関係あるなら——」


 そこで言葉を切る。


「使えば使うほど、削られてたのかもな」


 レイナの表情が揺れる。


 その可能性を、初めてはっきりと形にした瞬間だった。


「じゃあ……」


 レイナが絞り出すように言う。


「じゃあ、最後に使えばいいじゃん」


 恒一がゆっくり顔を向ける。


「治療費のために」


「一回だけなら……」


 その言葉は、ある意味で正しかった。


 でも、それが一番怖いと恒一は思った。


「自分のために使ったらどうなると思う?」


 低く言う。


 レイナは黙る。


「今までは、レイナのためとか、誰かのためって言い聞かせて使ってきた」


「でも、自分の命を助けるために使ったら——」


 そこまで言って、口をつぐむ。


 答えなんてない。


 でも、嫌な想像だけははっきりしていた。


「……お前に何か起きるかもしれねぇ」


 その一言で、レイナの顔が変わる。


「そんなの」


 小さく首を振る。


「それでも——」


「駄目だ」


 恒一ははっきり言った。


「それだけは駄目だ」


 自分でも驚くほど即答だった。


「俺のために、お前が傷つく可能性あるなら」


「そんなもん、最初から選ばねぇよ」


 病室の空気が、また静かになる。


 レイナは涙を拭わない。


 ただ、じっと恒一を見ていた。


「……ずるい」


「何が」


「そういうこと、迷わず言えるとこ」


 泣きながら笑う。


 その表情が、たまらなく苦しかった。


 恒一は少しだけ目を逸らす。


「……やらない」


 もう一度言う。


「治療は、受けられる範囲で考える」


「でも、力は使わない」


 レイナはしばらく黙っていた。


 怒るかと思った。


 泣き崩れるかと思った。


 でも、違った。


「……わかった」


 小さく言う。


「ただし」


 そこで少しだけ表情が変わる。


「諦めるわけじゃない」


 真っ直ぐだった。


「使わないなら、使わない方法で考える」


「仕事もする」


「LUNAも続ける」


「お金も集める」


「方法も探す」


「一緒に」


 その最後の言葉に、恒一は少しだけ笑う。


「……しつこいな」


「知ってる」


 即答だった。


 それで少しだけ、空気が緩む。


「じゃあさ」


 レイナが椅子に座り直しながら言う。


「これからの時間、ちゃんと使おうよ」


「……時間?」


「うん」


「まだ終わってないんだから」


 病気はある。


 怖さもある。


 でも、今この瞬間に全部を奪われたわけじゃない。


 そのことを、レイナは誰よりも信じていた。


「……ハワイ」


 恒一がふと言う。


「え?」


「この前、言ったろ」


「行くならハワイって」


 レイナの目が少しだけ丸くなる。


 それから、ゆっくりと笑った。


「うん」


「行こうよ」


 その一言に、前の夜の記憶が重なる。


 まだ叶っていない夢。


 でも、今はそれを口にするだけでも意味がある気がした。


「……そうだな」


 恒一が静かに答える。


「行けたら、いいな」


「行くの」


 レイナがはっきりと言う。


「一緒に」


 その言葉には、強引さと優しさが同時にあった。


 恒一はもう何も言わなかった。


 ただ、レイナの手に自分の手を重ねる。


 温かい。


 それだけで、少しだけ救われる。


 その夜、レイナは病室を出ようとしなかった。


「帰れよ」


「帰らない」


「佐倉もいるし」


「それでも帰らない」


 いつものやり取りみたいなのに、そこにある意味は前よりずっと深かった。


「……強ぇな」


「今さら?」


 レイナが少しだけ笑う。


 それから、恒一のベッド脇の椅子に座り直し、静かに手を握った。


「ねえ」


「ん?」


「これから先も、勝手に一人で決めないで」


 恒一は少しだけ黙る。


「……善処する」


「なにそれ」


「精一杯だよ」


 レイナが笑う。


 泣いたあとに笑う顔は、どこか危ういのにきれいだった。


 ふと、その瞬間、恒一の視界にまた文字が浮かぶ。


「……62」


「命」


 それだけじゃない。


 その下に、今までより少しだけはっきりした文字が滲む。


「……継」


 一瞬で消えた。


「どうしたの?」


 レイナが聞く。


「いや……なんでもねぇ」


 そう言いながらも、胸の奥が少しだけざわつく。


 命。


 継ぐ。


 意味はまだわからない。


 でも、どこかで繋がる気がした。


 病室の窓の外は、もう夜が深い。


 静かな闇。


 その先に未来があるかどうかは、まだわからない。


 でも、今はまだ終わっていない。


 だから——


 せめて、この手だけは離さずにいたいと思った。

【後書き】


第57話、ありがとうございました。


ここで一気に現実を突きつける形になりました。


余命、治療、そして能力の代償。

今までぼかしていたものが、少しずつ繋がってきています。


そして何より大事なのは、

「何を守るか」という選択。


恒一は自分の命よりも、レイナを選びました。


この選択が正しかったのかどうか。

それは、最後まで読んでいただければ感じてもらえると思います。


次回はいよいよ最終回です。


ここまで積み上げてきたものが、どういう形で結実するのか。

しっかり締めにいきますので、ぜひ最後までお付き合いください。

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