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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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53/58

第53話 そのままでいい

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第53話では、レイナの楽曲が少しずつ広がり、

確かな手応えを感じ始める回となっています。


派手な成功ではないけれど、

一歩一歩積み上げてきたものが形になり始める——


そんな“兆し”の回です。


そして同時に、

レイナの中である感情がはっきりと形になります。


仕事と感情、両方が動き出す重要な一話です。


最初の曲は、静かに広がっていった。


 タイトルは——


「夜の余白」


 完成した動画とともに投稿されたそれは、派手さはない。


 だが、確実に届いていた。


 再生数は、少しずつ伸びていく。


 コメントも増えていく。


『雰囲気いい』


『落ち着く』


『声が好き』


 爆発ではない。


 でも、ちゃんと届いている。


「……いいスタートだね」


 レイナがスマホを見ながら言う。


 恒一も横から覗き込む。


「上出来だろ」


「うん」


 自然に笑う。


 肩の力が抜けた、素直な笑顔だった。


⸻


 数日後。


 2曲目が完成する。


 タイトルは——


「そのままでいい」


 この曲は、少し違った。


 レイナ自身が強くこだわった一曲。


 録音のときから、空気が違っていた。


「……これ、出していいのかな」


 レイナがぽつりと言う。


「なんで?」


「ちょっと……近すぎる気がして」


 誰に、とは言わない。


 でも、恒一にはわかる。


「いいんじゃない」


 あえて軽く言う。


「それが歌だろ」


 レイナは少し黙って、頷く。


「……うん」


⸻


 投稿。


 最初は、いつも通り。


 ゆっくりと再生が伸びていく。


 だが——


 数時間後。


「……あれ?」


 レイナがスマホを見る。


 再生数の伸び方が明らかに違う。


 コメントの勢いも増えている。


『これやばい』


『泣いた』


『なんか刺さる』


『誰に向けてるのこれ』


 拡散が始まっていた。


「……すごい」


 レイナが小さくつぶやく。


 恒一も画面を見る。


 わかる。


 これは——当たっている。


「……来たな」


 ぽつりと呟く。


 レイナは少しだけ笑う。


「うん」


 でも、その表情は少しだけ照れていた。


⸻


 夜。


 今日は佐倉が泊まる日だった。


 3人で軽く食事をして、それぞれの部屋へ。


 レイナの部屋。


 ベッドに座りながら、スマホを見ている。


 隣には佐倉。


「……伸びてるね」


「うん……ちょっと怖いくらい」


「いいことじゃん」


 佐倉は軽く笑う。


「ちゃんと届いてるってことだし」


 レイナはスマホを見たまま、少しだけ黙る。


 指が止まる。


「……ね、佐倉さん」


「ん?」


「変なこと聞いていい?」


「いいよ」


 少し間。


 そして——


「私さ……本気なんだ」


 佐倉の手が止まる。


「……黒沢さんのこと」


「……え?」


 思わず声が出る。


 レイナは前を見たまま続ける。


「最初はさ、助けてもらってばっかで」


「すごい人だなって思ってて」


「でも……気づいたら」


 少し笑う。


「いないとダメになってた」


 佐倉は言葉を失う。


 想像はしていた。


 でもここまでとは思っていなかった。


「……マジで?」


「うん」


 迷いのない返事だった。


⸻


 少しの沈黙。


 佐倉がふっと息を吐く。


「……あの曲さ」


「え?」


「『そのままでいい』」


 レイナの肩が少しだけ動く。


「……黒沢さんのことだよね?」


 一瞬、空気が止まる。


 レイナは目を伏せる。


 そして、ゆっくり頷く。


「……うん」


 小さく、でもはっきりと。


⸻


「……やっぱりか」


 佐倉が天井を見る。


「なんとなくそんな気はしてたけど」


「……バレてた?」


「バレるって」


 即答だった。


「最近めっちゃわかりやすいもん」


「え、うそ」


「うそじゃない」


 佐倉は笑う。


「顔違うし」


「楽しそうだし」


 レイナは少しだけ照れる。


「……そっか」


「そっか、じゃないでしょ」


 少しだけ真面目な顔になる。


「で、どうすんの?」


 レイナは少しだけ考える。


 でも、すぐに答える。


「ちゃんと伝える」


 まっすぐに言う。


「逃げたくない」


 その目は、揺れていなかった。


⸻


 佐倉は少しだけ黙って、それから笑う。


「……いいじゃん」


「え?」


「レイナらしい」


 軽く肩を叩く。


「でもさ」


「うん?」


「相手、あの人だよ?」


「うん」


「めんどくさいぞ、あれ」


 レイナが吹き出す。


「わかる」


「でしょ?」


 2人で笑う。


⸻


「でもさ」


 レイナがぽつりと言う。


「それでもいいんだよね」


 佐倉は少しだけ優しく頷く。


「……うん」


「たぶん、そういうもんなんだと思う」


⸻


 その頃。


 リビング。


 恒一は一人、ソファに座っていた。


 スマホの画面には、再生数が伸び続けている曲。


「……すげぇな」


 小さくつぶやく。


 でも。


 頭の中は別のことでいっぱいだった。


 さっきの距離。


 抱きしめた感触。


 あの表情。


「……まずいな」


 苦笑する。


 完全に、意識している。


 そのとき。


 視界に浮かぶ。


「……3」


「加速」


「……?」


 短い言葉。


 意味はまだわからない。


 でも——


 何かが、一気に動き始めている気がした。


第53話を読んでいただきありがとうございました。


今回のテーマは「本気」です。


レイナの気持ちは、ここで完全に確定しました。


迷いではなく、憧れでもなく、

しっかりとした“意志”としての想い。


そして、それが作品として外に出たことで、

思わぬ反響へと繋がっていきます。


歌は嘘をつけない。


だからこそ、人の心に届く。


その強さが少し見えた回でもあります。


一方で恒一は、まだ葛藤の中にいます。


気持ちは動いている。

でも、それをどう扱うかがわからない。


この“ズレ”が、これからどうなるのか。

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