第52話 距離
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第52話では、新たな創作のスタートとともに、
レイナの活動が次の段階へと進んでいきます。
仲間が増え、作品が形になり、
少しずつ“流れ”が生まれ始める。
そんな前向きな空気の中で、
2人の関係にも静かな変化が訪れます。
大きく動くわけではないけれど、
確かに距離が変わる——
そんな回になっています。
2人が出会ってから2年が経とうとしていた。
新しい拠点での生活は、少しずつ形になってきていた。
広めのリビングには機材が並び、簡易スタジオとしても機能している。
撮影用の部屋。
レイナの部屋。
もう一部屋は、来客や休憩用。
3人で決めた場所。
ここから、もう一度始める。
⸻
「そろそろ、ちゃんと仕上げたいよね」
レイナが、ノートを閉じながら言う。
「今のままでもいいけど……やっぱり“作品”にしたい」
佐倉が頷く。
「アレンジャーを入れましょう。ツテがあります」
「お願いします」
迷いはなかった。
⸻
数日後。
スタジオに現れたのは、水無瀬 蓮。
無駄のない動きと、淡々とした口調。
「曲、聴かせてもらいました」
レイナが少しだけ緊張する。
「……どうでした?」
水無瀬は一瞬だけ考える。
「素材はいい」
それだけ。
そして続ける。
「歌、強いな」
短い評価。
だが、その一言で十分だった。
レイナの肩の力が、少しだけ抜ける。
「じゃあ、やりますか」
それ以上は語らない。
もう仕事は始まっている。
⸻
数日後。
デモ音源が届いた。
オケが乗った曲。
レイナはイヤホンをつける。
再生。
音が広がる。
「……え」
思わず声が漏れる。
同じ曲なのに、全く違う。
深さも、感情も、全部が増幅されている。
「……全然違う」
隣で恒一も聴く。
「……すげぇな」
素直な言葉だった。
曲が“作品”になった瞬間だった。
⸻
「これ、映像つけたい」
レイナが言う。
「イメージがあるの。ちゃんと見せたい」
佐倉が頷く。
「SNSで探しましょう」
⸻
数日後。
レイナはスマホを見ていた。
短いアニメーション。
フォロワーは多くない。
でも——
「……この人いい」
つぶやく。
雨宮ソラ。
色と空気の使い方が、どこか似ていた。
「この人にお願いしたい」
DMを送る。
少しして——返信。
『ぜひやらせてください』
レイナは、少しだけ笑った。
⸻
数週間後。
完成した動画。
曲と映像が、完全に一つになっていた。
「……これ、いけるかも」
レイナが言う。
佐倉も頷く。
「まずは一本、流れを作りましょう」
投稿。
数分、反応なし。
数時間後。
再生が少しずつ増える。
コメントが一つ。
『なんかいい』
たったそれだけ。
でも——
確かな手応えだった。
⸻
夜。
作業が終わり、リビングには2人だけが残る。
静かな時間。
「……どうだった?」
レイナが聞く。
少しだけ不安そうに。
「良かった」
恒一は答える。
「ちゃんと届くと思う」
レイナは小さく息を吐く。
「よかった」
少し沈黙。
いつもより長い。
距離が近い。
レイナが、ゆっくり一歩近づく。
「……ね」
「ん?」
「私、頑張るから」
真っ直ぐな目。
「ちゃんと上に行く」
「うん」
「……見ててくれる?」
ただの言葉じゃない。
もっと深い意味。
恒一は少しだけ息を吐く。
逃げることもできた。
でも——
「……ああ」
「ずっと見てる」
その一言で、レイナの表情が崩れる。
安心したように、少し笑う。
「よかった」
そして——
レイナが、そっと近づく。
距離が、ほとんどなくなる。
恒一は動かない。
避けない。
ただ、受け入れる。
そのまま——
レイナが抱きついた。
「……ありがと」
小さな声。
恒一は一瞬だけ迷う。
でも。
ゆっくりと、抱き返す。
「無理すんなよ」
低く、静かに言う。
それだけだった。
それ以上は言えない。
でも——
腕は、離さなかった。
⸻
その夜。
恒一は一人、ソファに座っていた。
静かな部屋。
「……50、か」
ぽつりとつぶやく。
現実。
重い数字。
そして——
レイナは24。
26歳差。
普通じゃない。
わかっている。
全部。
「……でもな」
小さく笑う。
さっきの温もりが残っている。
あれを、なかったことにはできない。
したくもない。
そのとき。
視界に浮かぶ。
「……57」
「距離」
短い言葉。
恒一はそれを見つめる。
「……距離、ね」
縮めるべきか。
保つべきか。
答えはまだ出ない。
でも——
もう、離れることはできない気がしていた。
第52話を読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは「距離」です。
仕事としての距離。
仲間としての距離。
そして、2人の距離。
近づいたからこそ見えるものと、
近づいたからこそ悩むこと。
恒一は受け入れながらも、
その内側で葛藤を抱えています。
年齢差、立場、これからの未来——
どれも簡単に答えが出るものではありません。
それでも、レイナの想いはまっすぐで、
その温度が少しずつ恒一の心を動かしています。
また、創作面では新たなチームが動き出しました。
曲、アレンジ、映像。
すべてが重なったとき、
どんな景色が見えるのか。
次回、第53話。
この「距離」がどう変化していくのか、ぜひ見届けてください。




