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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第51話 再スタート

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第51話では、物語の大きな転換として

新しい拠点と、新しいスタートが描かれます。


これまで守る側だった恒一が、

改めて“選択”をする回でもあります。


そして、その選択がどんな意味を持つのか。

少しずつ見え始めていきます。


新しい場所が必要だった。


 それは、もう誰の目にも明らかだった。


 今のままでは、レイナは動きにくい。


 恒一の実家は落ち着ける場所ではあったが、ずっとそこにいるわけにもいかない。


 生活の場であり、仕事の場でもある場所。


 安全で、最低限の機材も置けて、配信や打ち合わせもできる場所。


「……やっぱり、借りるしかないよね」


 レイナが小さく言う。


 リビングのテーブルには、いくつかの物件情報が並んでいた。


 佐倉が資料を見ながら頷く。


「そうですね。今後のことを考えると、拠点は必要です」


「ただ、問題は資金ですね」


 恒一は黙っていた。


 わかっている。


 必要なことも、現実的な問題も。


 しばらく沈黙が流れる。


 そのあと、恒一が口を開いた。


「……やるか」


 短い一言。


 レイナと佐倉が顔を上げる。


「え?」


「競馬」


 その言葉で、空気が少し変わる。


 レイナの表情が引き締まる。


 佐倉もすぐに意味を理解した。


「……使うんですか」


「一度だけ」


 恒一は言う。


「必要な分だけ」


 テーブルの上に置かれた物件資料を見る。


「レイナのために使うなら、今までの感じだと大丈夫なはずだ」


「……たぶん」


 最後だけ、少しだけ曖昧になる。


 絶対ではない。


 そこが怖い。


 レイナは少し黙った。


「……いいの?」


「よくはねぇよ」


 恒一は苦笑する。


「でも、必要なんだろ」


 レイナは何も言えない。


 その通りだったからだ。


「……反動があったら」


「その時は、その時だ」


 そう言いながらも、恒一の声は少しだけ低かった。


 本当は怖い。


 使えば何かが起きるかもしれない。


 それでも——


「レイナのためだ」


 はっきり言う。


 それで、決まった。



 レース当日。


 場外売り場に向かう途中、恒一の足取りはいつもより重かった。


 レイナと佐倉も一緒だった。


 3人とも、妙に静かだった。


「本当にやるんですね」


 佐倉がぽつりと言う。


「ああ」


 恒一は短く返す。


「レイナのためだ」


 その言葉に、レイナは少しだけ目を伏せた。


「……ありがとう」


 声は小さかった。


 でも、はっきりしていた。


 恒一はそれには答えず、前を向いたまま歩く。


 売り場に着く。


 人のざわめき。


 券売機の音。


 いつもの光景。


 だが、今日は少し違う。


 恒一が視線を上げた瞬間。


 見えた。


「……10」


 小さくつぶやく。


 その横に、単語。


「崩」


 頭の奥がわずかに重くなる。


 嫌な感じだった。


 今まで見たどの言葉よりも、少しだけ不穏だった。


「どうしたの?」


 レイナがすぐに気づく。


「……いや」


 恒一は少しだけ迷う。


 言うかどうか。


 結局、短く言った。


「嫌な数字が出た」


 レイナの顔色が少し変わる。


「やめる?」


 その問いに、恒一はすぐには答えなかった。


 少し考える。


 だが——


「やる」


 はっきり言う。


「これはレイナのためだ」


「必要な分だけって決めた」


「だったら、ここで逃げるわけにいかねぇ」


 レイナは少しだけ唇を噛んだ。


 佐倉も何も言わない。


 止められない空気だった。


 券売機の前に立つ。


 深く息を吸う。


 3連単。


 1点。


 10万円。


 指がボタンを押す。


 もう後戻りはできない。



 レースは、思っていたより堅かった。


 人気どころで決まる流れ。


 だが、配当はそれなりにつく。


「……これ、来るんだよね」


 レイナが小さく言う。


「ああ」


 恒一は画面から目を離さない。


 展開。


 位置取り。


 全部、頭の中の通り。


 最後の直線。


 前が粘る。


 差してくる。


 そして——


「……決まった」


 佐倉が小さく息を吐く。


 3連単、的中。


 85.5倍。


 10万円が、855万円になる。


 少しの沈黙。


 誰もすぐには声を出せなかった。


「……すご」


 最初に言ったのはレイナだった。


「いや……ほんとに」


 恒一も小さく息を吐く。


 当たるとわかっていたはずなのに、実際に数字として出ると重みが違う。


「税金の分は残すとしても、最初の資金としては十分ですね」


 佐倉が落ち着いた声で言う。


「これなら動けます」


 レイナが恒一を見る。


 少しだけ、目が潤んでいる。


「……ほんとに、ありがとう」


「まだ早い」


 恒一はぶっきらぼうに返す。


「何も起きてねぇなら、な」


 その言葉で、また少しだけ空気が引き締まる。



 だが、その日も、翌日も。


 目立った異変は起きなかった。


 レイナの周りにも、佐倉にも、特に何もない。


「……大丈夫、なのかな」


 レイナが言う。


「まだわからないですけど……少なくとも今のところは」


 佐倉が答える。


 恒一は何も言わなかった。


 安心しきれない。


 だが、動くしかない。



 物件探しは思ったより早く進んだ。


 条件ははっきりしている。


 駅から遠すぎない。


 人目を避けられる。


 配信も撮影もできる。


 そして、できるだけ安全。


 最終的に決まったのは、3LDKのマンションだった。


 広めのリビング。


 日当たりもいい。


 防音もそこそこある。


「ここ、いいね」


 レイナが部屋を見回しながら言う。


 久しぶりに、少しだけ明るい顔だった。


「リビングは打ち合わせと配信に使えますね」


 佐倉が確認する。


「奥の一部屋は撮影用」


「もう一部屋はレイナの部屋で」


「残りは?」


 レイナが聞く。


「休憩用でもいいですし、来客用でもいいと思います」


 佐倉が答える。


「黒沢さんが泊まる時にも使えますし」


「俺が?」


 恒一が少しだけ眉を上げる。


「1人にしないって決めたんです」


 佐倉ははっきり言う。


「レイナを守れるように」


 その言葉に、レイナも静かに頷いた。


「……うん」


 もう、あの夜みたいなことは繰り返したくない。


 その気持ちは、3人とも同じだった。


 荷物は多くない。


 最小限で始める。


 それでも、部屋に少しずつ物が置かれていくと、不思議と“拠点”になっていく。


 レイナは自分の部屋のドアを開けて、中を見た。


 まだ何もない。


 ベッドもこれから。


 カーテンも仮。


 でも——


「……ここからだね」


 ぽつりと言う。


 その言葉には、ちゃんと前を向く力があった。


「だな」


 恒一も短く返す。


 佐倉が笑う。


「今度こそ、ですね」



 その夜。


 一通りの確認が終わって、少しだけ静かになった。


 佐倉は先に帰り、リビングにはレイナと恒一だけが残った。


 まだ家具も少なくて、部屋は少し広く感じる。


「……なんか変な感じ」


 レイナが言う。


「何が」


「新しすぎて」


「まあ、そうだな」


 少しだけ沈黙。


 レイナは窓の外を見る。


「今日、来てくれてよかった」


 静かな声だった。


 恒一が視線を向ける。


「……引っ越し手伝っただけだろ」


「そうじゃなくて」


 レイナは少しだけ笑う。


「ここまで」


 その一言で、意味がわかった。


 今までの全部。


 助けてくれたこと。


 支えてくれたこと。


 見てくれていたこと。


 恒一は少しだけ視線を逸らす。


「……まあな」


 不器用な返事。


 でも、レイナはそれで十分だった。


 少しだけ距離が近い。


 でも、まだ触れない。


 その曖昧さが、逆に心地よかった。


 そのとき。


 恒一の視界に、ふっと浮かぶ。


「……42」


「基」


 小さくつぶやく。


「え?」


 レイナが振り向く。


「いや、なんでもない」


 でも、今度の言葉は少しだけ意味がわかった。


 基盤。


 土台。


 始まりのための場所。


 そういうことなのかもしれない。


 まだ何が起こるかはわからない。


 でも。


 この場所が、次のすべての始まりになる。


 そんな気がした。

第51話を読んでいただきありがとうございました。


今回のテーマは「再スタート」です。


新しい場所、新しい環境。

そして、もう一度前に進むための準備。


ですが、その裏では

恒一の能力に対する“違和感”や“不安”も

確実に積み重なっています。


「レイナのためなら大丈夫なのか」


この問いは、今後かなり重要になっていきます。


また、3人の関係もここで一つ形になりました。


ただの協力関係ではなく、

同じ目的に向かう“チーム”としての結束。


そして、レイナと恒一の距離も

少しずつ、確実に近づいています。


まだ言葉にはならない。

でも、確かに変わっている。


次回、第52話。

この新しい拠点で、物語はさらに動き出します。


引き続きよろしくお願いします。

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