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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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45/58

第45話 裂

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第45話では、レイナにとって避けられなかった現実が一気に押し寄せます。


紅白という大舞台のあと。


静かな時間があったからこそ、

その反動のように状況は大きく動き始めました。


報道、疑惑、周囲の変化。


目に見えるものも、見えない空気も、

少しずつ壊れていきます。


正月休みは、終わった。


 恒一の実家で過ごした数日。


 あの静かな時間が、少し遠く感じる。


 今日からまた、現実に戻る。


「……大丈夫?」


 玄関先で恒一が声をかける。


 レイナは帽子を深くかぶり、マスク越しに小さく頷いた。


「うん、大丈夫」


 その声は、少しだけ弱かった。


 外には、佐倉がタクシーと一緒に待っている。


「表はまだ人が多いので、裏から入りましょう」


「うん」


 短く返す。


「俺も行く」


 恒一が言う。


 レイナが少しだけ振り向く。


「……心配なんでしょ」


 少しだけ柔らかく言う。


「まあな」


「じゃあ、一緒に来て」


 その一言で、少しだけ空気が軽くなる。


 タクシーに乗り込む。


 車内は静かだった。


 外の景色が流れていく。


 どこにでもある日常。


 でも今の自分には、少し遠い。


 現場に近づくにつれて、空気が変わる。


 嫌な予感。


「このまま裏に回ります」


 佐倉が言う。


 だが——


 車が建物の脇に差しかかった瞬間。


「いた!」


 声。


 フラッシュ。


 人影。


「……っ」


 レイナが息を呑む。


「急いで!」


 ドアが開く。


 恒一が先に降り、レイナの前に立つ。


 だが、すぐに囲まれる。


「神代レンさんとの関係は!」


「密会報道について説明を!」


「交際は事実ですか!」


 次々と浴びせられる言葉。


 逃げ場がない。


 レイナは一瞬だけ視線を落とす。


 でも——


 ゆっくりと顔を上げた。


「違います」


 はっきりとした声。


 空気がわずかに止まる。


「そういう事実はありません」


「仕事の話をしていただけです」


「それ以上でも、それ以下でもありません」


 落ち着いた口調。


 しっかりと前を見て言う。


 一瞬だけ、空気が変わる。


 だが、すぐにまたざわつきが戻る。


 恒一が前に出る。


「もういいだろ」


 低い声。


 一瞬だけ、記者の動きが止まる。


 その隙に、佐倉がレイナの腕を引いた。


「行こう」


 3人はそのまま中へ入る。


 控室に入った瞬間、レイナが大きく息を吐いた。


「……はあ」


 力が抜ける。


「大丈夫?」


 佐倉が静かに聞く。


「……なんとか」


 そう答えながらも、手は少し震えていた。


 恒一は周囲を見る。


 スタッフたちの空気。


 それが、明らかに違っていた。


 目を合わせない人。


 距離を取る人。


 逆に必要以上に気を使う人。


 空気が、割れている。


「……これか」


 小さくつぶやく。


 信じるか、疑うか。


 それだけで、人の態度は変わる。


 現場は、もう一枚岩じゃなかった。


 それでも仕事は進む。


 レイナは笑顔を作り、求められる役割をこなす。


 だが、終わった頃には明らかに消耗していた。


「……大丈夫?」


 帰りの車で恒一が聞く。


「うん、大丈夫」


 少し間を置いて答える。


 その“少し”が、すべてを物語っていた。


 翌日。


 状況はさらに悪化する。


 ネットが荒れる。


 ニュースが増える。


「……レンの、覚醒剤疑惑?」


 佐倉が画面を見つめたまま言う。


 空気が一気に冷える。


「そんなの……」


 レイナの声が揺れる。


 信じられない。


 でも、否定もできない。


『関係のあったレイナにも疑惑』


 その一文が刺さる。


「……最悪だな」


 恒一が低く言う。


 そこからは早かった。


 仕事は次々と止まる。


 予定が崩れる。


 連絡が増える。


 確認が続く。


 レイナは必死に耐えていた。


 でも——


 限界は近かった。


 食事は減り。


 睡眠も取れていない。


 それでも立ち続けようとする。


 そして。


 打ち合わせの最中だった。


 レイナの視線が、ふっと落ちる。


「……レイナ?」


 呼びかける声。


 返事はない。


 そのまま体が崩れる。


「危ない!」


 恒一が支える。


 軽かった。


 驚くほどに。


 病院。


 診断は、過労とストレス。


「しばらく休養が必要です」


 医者の言葉ははっきりしていた。


 廊下で。


 佐倉が静かに言う。


「……もう休もう」


 その言葉には、迷いがなかった。


 恒一も頷く。


 レイナが目を覚ます。


「……あれ」


「病院」


 恒一が答える。


「倒れたの?」


「うん」


 少しだけ沈黙。


「……ごめん」


「謝らなくていい」


 恒一がすぐに言う。


「頑張りすぎただけだろ」


 レイナの目に、少しだけ涙が浮かぶ。


 ツアーは中止。


 活動も一時休止。


 そして。


「……事務所、離れる」


 レイナが言う。


 静かに。


 でも、はっきりと。


「それでいいと思う」


 佐倉が頷く。


 恒一は少しだけ考えてから口を開く。


「……じゃあさ」


 レイナが顔を向ける。


「これで終わりにするんじゃなくて」


「また、最初からやればいいんじゃないか」


「ゆっくりでもいいし、小さくてもいいから」


 言葉は不器用だった。


 でも、真っ直ぐだった。


 レイナは少しだけ目を見開く。


「……また、やり直すってこと?」


「そう」


 短く頷く。


 少しの沈黙。


 そして——


 レイナが、ほんの少しだけ笑った。


「……ほんと、そういうとこだよ」


「なにが」


「わかんない」


 でも。


 その表情は、さっきより少しだけ軽くなっていた。


 終わりじゃない。


 たぶん。


 まだ、ここから。

第45話を読んでいただきありがとうございました。


今回のテーマは「裂」と「限界」です。


現場の空気が分かれていく感覚。


信じる人と、疑う人。


それは表には出なくても、確実に存在しています。


そして、その中で無理を続けた結果、

レイナはついに限界を迎えてしまいました。


ですが——


完全に終わったわけではありません。


事務所を離れるという決断。


そして、恒一の言葉。


「やり直せばいい」


それは決して簡単なことではありませんが、

それでも前に進むための一歩です。

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