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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第46話 始

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第46話は、大きな出来事のあとに訪れた「静かな再生」の回です。


すべてが崩れたように見えた状況の中で、

レイナは少しずつ元気を取り戻していきます。


そして——


これまでの自分を一度手放すような選択も描かれています。


環境も、立場も、すべてが変わった今。


だからこそ見えるものがあります。

レイナの休養が決まってから、数日が経った。


 表向きは静かになった。


 ニュースも少しずつ別の話題へ移り、あれだけ騒がしかった空気は嘘みたいに引いていった。


 だが、完全に消えたわけではない。


 ただ、表に出なくなっただけだ。


「……どうするかだな」


 恒一がぼそっと言う。


 場所は、いつものリビング。


 向かいには佐倉が座っていた。


「そうですね」


 短く返す。


「レイナはしばらく動けませんし、無理に戻る必要もないと思います」


「事務所の方は?」


「正式に離脱で話を進めています」


 レン側の事務所は、すでにまともに機能していなかった。


 連絡も遅く、対応も曖昧。


 それどころではない、というのが伝わってくる。


「まあ……あっちはもう無理だな」


「はい」


 会話は短い。


 でも、方向は決まっていた。


 もう戻らない。


 それだけは、はっきりしている。


 そのとき。


 部屋の扉が開く。


「……おはよう」


 レイナが顔を出した。


 少し眠そうな顔。


 でも、前よりはずっといい。


「起きたか」


「うん」


 ゆっくりと中に入ってくる。


「……だいぶ楽になった」


「それならよかった」


 佐倉が微笑む。


 少しだけ、空気が軽くなる。


 レイナはそのまま椅子に座る。


 そして、ふっと言う。


「……ちょっと、どこか行きたいかも」


 ぽつりとした一言だった。


「外?」


 恒一が聞く。


「うん。でも……」


 言葉を濁す。


「まあ、バレるか」


「だろうな」


 即答だった。


 レイナが苦笑する。


「だよね」


 少しだけ考える沈黙。


 そのあと、恒一が言う。


「……じゃあさ」


「変えるか」


「え?」


「見た目」


 レイナが目を瞬かせる。


「……イメチェン?」


「そう」


「別人みたいにすりゃ、気づかれにくいだろ」


 少しの沈黙。


 レイナは自分の髪に触れる。


 長い髪。


 今までずっと守ってきたスタイル。


 アイドルとしての“自分”。


「……切る?」


 小さく言う。


「切るなら、思い切ってな」


 軽く返す。


 レイナは少しだけ目を閉じる。


 そして——


「……うん、切る」


 はっきりと言った。



 美容院。


 鏡の前に座るレイナ。


 フードもマスクも外している。


 久しぶりに、何も隠していない状態。


「どのくらい切りますか?」


 美容師が聞く。


 レイナは鏡の中の自分を見る。


 そして。


「……短くしてください」


「バッサリ」


 少しだけ迷いはあった。


 でも、言い切った。


「わかりました」


 ハサミが入る。


 長い髪が、ゆっくりと落ちていく。


 床に積もっていく。


 その光景を、レイナはじっと見ていた。


 過去が、切り落とされていくような感覚だった。


 しばらくして。


「はい、こんな感じでどうですか?」


 鏡に映る自分。


 ショートヘア。


 今までとはまるで違う。


「……すご」


 思わず漏れる。


 別人みたいだった。


「いいじゃん」


 後ろで見ていた恒一が言う。


「ほんとにバレなさそう」


「そこ?」


 レイナが笑う。


 久しぶりに、自然な笑いだった。



 数日後。


 3人は沖縄にいた。


 まだ冬。


 海に入るには寒い。


 でも、空は青く、風は柔らかい。


「……あったかい」


 レイナが言う。


 帽子にメガネ、マスク。


 完全に別人だった。


「これなら大丈夫そうだな」


 恒一が周囲を見ながら言う。


「うん」


 佐倉も頷く。


 誰も気づかない。


 ただの観光客。


 それだけだった。


 昼はのんびりと過ごす。


 特に何をするわけでもない。


 それでも、十分だった。


 そして夜。


 ホテルの外。


 静かな海。


 波の音だけが響いている。


 レイナは手すりにもたれて、海を見ていた。


「……怖かった」


 ぽつりと漏れる。


 恒一は隣に立つ。


「……知ってる」


 短く返す。


「全部壊れるかと思った」


「うん」


「ていうか、壊れたし」


 少し笑う。


 でも、その声は弱かった。


 恒一は何も否定しない。


「……でもさ」


 レイナが続ける。


「こうやって、まだいるじゃん」


「ここに」


 その言葉に、恒一は少しだけ視線を逸らす。


「まあな」


「それでいい気もする」


 静かな時間。


 波の音。


 少しだけ距離が近い。


「……これからどうする?」


 レイナが聞く。


 少しだけ不安そうに。


 恒一は少し考える。


 そして。


「またやるか」


「……え?」


「今度は、ちゃんと」


「自分たちで」


 言葉は少ない。


 でも、意味は伝わる。


 レイナはしばらく黙る。


 そして、ゆっくり頷いた。


「……うん」


「やりたい」


 その目は、もう逃げていなかった。


 佐倉も後ろから静かに言う。


「私も、もう一度やりたいです」


 3人。


 同じ方向を向く。


 もう誰かに任せるんじゃない。


 自分たちでやる。


 小さくてもいい。


 ゼロからでもいい。


 そのとき。


 恒一の視界に、ふっと何かが浮かぶ。


「……」


 数字と、単語。


 はっきりと見えた。


「7……始」


 小さくつぶやく。


「え?」


 レイナが聞く。


 恒一は少しだけ笑う。


「……いや、なんでもない」


 でも。


 これはきっと。


 悪いものじゃない。


 そう思えた。


 波の音が続く。


 夜の海は静かで、広い。


 その向こうに、まだ見えない未来がある。


 でも——


 今はそれでいい。


 ここから、また始めればいい。

第46話を読んでいただきありがとうございました。


今回のテーマは「始まり」です。


イメチェンという外側の変化だけでなく、

内側の気持ちにも大きな変化が生まれました。


沖縄での時間。


何も背負わずに過ごすひととき。


そして、夜の会話。


そこで交わされた言葉が、

3人のこれからを決定づけています。


もう一度、自分たちの手でやる。


それは簡単な道ではありませんが、

だからこそ意味があります。


最後に見えた「7 始」。

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