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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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43/58

第43話 露

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第43話では、レイナが紅白という大舞台に立ち、

誰もが認める存在へと到達します。


しかしその直後——


一気に現実が動き出します。


これまで順調に見えていた流れに、

“歪み”のようなものが現れ始める回でもあります。


恒一の能力が示す違和感。


そして、それが意味するものとは何なのか。


頂点の光と、その裏側を描いた一話です。


大晦日。


 テレビの前で、恒一は一人座っていた。


 部屋は静かだった。


 テーブルの上には、開けたままの缶ビールと、ほとんど手をつけていないつまみ。


 視線は、ずっと画面に向いている。


「……出るか」


 ぽつりとつぶやく。


 紅白歌合戦。


 その名前を聞くだけで、もう別世界だと思っていた。


 そこに、レイナが出る。


 ついこの前まで、小さなライブハウスで歌っていたはずなのに。


 いや、もっと前なら、コンビニでたまたま会うだけの存在だった。


 それが今は。


 全国の人間が見る舞台の上に立とうとしている。


 司会の声。


 会場のざわめき。


 カメラが切り替わる。


 そして。


「……来た」


 画面の中に、レイナが現れる。


 ライトを受けて立つ姿は、もう知っているレイナとは少し違って見えた。


 衣装。


 表情。


 立ち方。


 どれも完璧だった。


 だが、それ以上に。


「……すげぇな」


 思わず声が漏れる。


 オーラがあった。


 ただ有名なだけじゃない。


 この場に立つべくして立っている人間の空気。


 スターの空気。


 歌が始まる。


 会場の空気を一瞬で持っていく。


 緊張なんて見えない。


 いや、あるのかもしれない。


 でも、それすら飲み込んで前に出ている。


 サビ。


 一気に広がる。


 恒一は、ただ見ていた。


 誇らしいとか、寂しいとか、そういう言葉じゃ足りない。


 ただ、圧倒される。


 その時だった。


「……っ」


 画面越しに。


 レイナの周囲に、何かが浮いた。


 一瞬だけ。


 数字と、単語。


「1……露?」


 思わず前のめりになる。


 次の瞬間には、もう消えていた。


「……なんだよ、それ」


 胸の奥がざわつく。


 “露”。


 露出。


 露見。


 頭の中に嫌な言葉ばかりが浮かぶ。


 だが、今はどうにもできない。


 画面の中のレイナは、最後まで歌い切る。


 拍手。


 歓声。


 司会の絶賛。


 間違いなく、この日の主役の一人だった。


 恒一はしばらく動けなかった。


 画面の中の光景と、さっき見えた文字が頭の中で重なる。


「……嫌な感じしかしねぇな」


 小さくつぶやく。


 だが、その日はそれ以上何も起きなかった。



 年が明けた。


 元日の朝から、スマホの通知がうるさい。


 恒一は寝起きの頭のまま画面を見る。


 そして。


「……は?」


 目が一気に覚める。


 ニュースサイト。


 SNS。


 動画の切り抜き。


 どこを見ても、同じ話題。


『レイナ、神代レンと熱愛か』


『紅白直後の密会報道』


『人気絶頂の歌姫にスキャンダル』


「……マジかよ」


 すぐに記事を開く。


 ホテル前での写真。


 角度が悪い。


 いや、良すぎる。


 誤解されるように撮られている。


 レンとレイナが並んでいるだけなのに、妙に近く見える。


「……露、これか」


 昨日見た文字が頭をよぎる。


 嫌な予感は、やはり当たっていた。


 スマホが鳴る。


 レイナからだった。


「もしもし」


『……ごめん』


 出た瞬間、それだった。


「いや、なんでお前が謝るんだよ」


『なんか、すごいことになってる』


「見た」


 少し沈黙。


 向こうの息が浅い。


「どこだ、今」


『マンション』


「一人か?」


『……うん』


「記者は」


『下にいる』


 短い返事の中に、張り詰めたものが混じっている。


 恒一はすぐに立ち上がる。


「そこ動くな」


『え?』


「今から行く」


『でも——』


「いいから」


 少し強めに言う。


 レイナはそれ以上何も言わなかった。



 マンションの周辺は、予想以上だった。


 車。


 記者。


 スマホを構える連中。


 年明け早々とは思えない騒がしさだ。


「……うわ」


 恒一は思わず顔をしかめる。


 どう考えても、普通じゃない。


 これではまともに外にも出られない。


 少し離れた場所から状況を見て、すぐにレイナへ連絡する。


「裏、使えるか?」


『たぶん……管理用の通路がある』


「よし」


 短く作戦を決める。


 二十分後。


 なんとか人目を避けながら、レイナを外へ出す。


 フードを深くかぶったレイナは、明らかに疲れていた。


 顔色が悪い。


「……大丈夫か」


「大丈夫じゃない」


 即答だった。


 でも、その声に少しだけ安心する。


 まだ、ちゃんとレイナだ。


「どうするの?」


「……お前の家、もう危ねぇな」


「うん」


 レイナもすぐに頷く。


 否定できない。


「……うち来るか」


 その言葉に、レイナが顔を上げる。


「え?」


「実家」


「しばらくならいける」


 少し間。


 レイナは迷った。


 だが、後ろを振り返る。


 まだ遠くに人影が見える。


 自分の家なのに、もう安心できる場所じゃない。


「……行く」


 小さく言う。


「お願い」


 その声は、思っていたよりずっと弱かった。



 恒一の実家。


 玄関を開けると、母がすぐに出てきた。


「あら」


 一瞬だけ驚いた顔をする。


 だが、それもすぐに柔らかくほどけた。


「寒かったでしょ。とにかく入りなさい」


 レイナは少し戸惑いながら頭を下げる。


「……突然すみません」


「いいのよ、そんなの」


 母はあっさり言う。


「恒一が人連れてくるなんて珍しいんだから、むしろこっちがびっくりしたくらい」


「おい」


 恒一が小さく止める。


 母は気にせず笑う。


「ほら、上がって。お茶入れるから」


 その自然さに、レイナの肩から少しだけ力が抜ける。


 リビングに入る。


 暖房の効いた空気。


 湯気の立つお茶。


 テレビの小さな音。


 外の騒がしさが嘘みたいだった。


「……すごい」


 レイナがぽつりとつぶやく。


「ん?」


「なんか……普通」


 恒一は少し笑う。


「普通だろ」


「うん」


 レイナも少しだけ笑う。


「こういうの、久しぶりかも」


 その言葉に、恒一は何も返せなかった。


 母が煮物を持ってくる。


「お腹空いてるでしょ。大したものないけど」


「そんな、ありがとうございます」


「しばらくお邪魔します」


 レイナが改めて頭を下げると、母は優しく笑った。


「好きなだけいなさい」


「女の子一人であんなの、怖かったでしょう」


 その声は、本当にただの優しさだった。


 計算も、駆け引きもない。


 レイナの目が少しだけ潤む。


「……はい」


 小さく答える。


 その夜。


 レイナは客間に布団を敷いてもらい、ようやく一息ついていた。


 スマホは切ってある。


 テレビも見ない。


 何も入ってこない静かな時間。


 それだけで、少しずつ呼吸が整う。


 襖の向こうから、恒一の声がする。


「もう寝るか?」


「……まだ」


 少し間を置いてから答える。


 恒一が襖を少しだけ開ける。


「なんかいるもんあるか」


「……ううん、大丈夫」


 また少し沈黙。


 レイナが先に言う。


「……ありがと」


「ん?」


「今日、来てくれて」


 恒一は少しだけ視線を逸らす。


「まあ、あれくらいはな」


「……あれくらいじゃないよ」


 レイナが小さく言う。


「結構、助かった」


 その声は、思っていたより真っ直ぐだった。


 恒一は返す言葉に少し迷って、結局いつもの調子で言う。


「そりゃよかった」


「……なにそれ」


 レイナが少し笑う。


 その笑い声に、ようやく今日初めて安心した気がした。


「おやすみ」


「うん、おやすみ」


 襖が閉まる。


 静かな夜。


 恒一は廊下に立ったまま、少しだけ天井を見上げた。


「……また守っちまったな」


 小さくつぶやく。


 そのとき。


 客間の方から、ほんの一瞬だけ気配を感じる。


 視線を向ける。


 そして。


「……3、崩」


 小さく漏れる。


 また見えた。


 レイナの側に、数字と単語。


 まだ終わっていない。


 守れたと思ったのに。


 いや、守ったからこそ、どこかでズレるのか。


 頭の奥が、少しだけ痛む。


「……くそ」


 恒一は目を閉じる。


 静かな家の中で。


 安心と、不安が同時に広がっていた。


第43話を読んでいただきありがとうございました。


今回のテーマは「露と崩」です。


紅白という大きな成功の裏で、

すぐに訪れるスキャンダル。


そして、恒一が見た“露”という言葉。


それは偶然ではなく、

確実に何かを示しています。


一方で、恒一の実家で過ごす時間は、

これまでとは違う静けさと安心をもたらしました。


スターであるレイナと、

普通の生活。


そのギャップが、二人の距離を少しだけ近づけています。


ですが——


物語はまだ落ち着きません。


最後に見えた「崩」。


それは何を意味するのか。

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