第41話 崩れる前に
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第41話では、恒一の“力”に明確な変化が現れます。
これまで見えていたのは数字だけ。
しかし今回は、そこに意味を持つ“言葉”が加わります。
より具体的に。
より危険に。
力は確実に進化しています。
そしてその変化は、
恒一を一つの選択へと導きます。
昼下がり。
恒一はカフェの窓際に座り、ぼんやりと外を眺めていた。
行き交う人々。
その頭上に、時折浮かぶ数字。
もう驚きはない。
「……慣れって怖ぇな」
小さくつぶやく。
数字は、確かに意味を持っている。
それを理解することにも、慣れてきた。
だが——
「……これ」
さっき見えたもの。
あれは違った。
数字だけじゃない。
その横に。
“文字”があった。
⸻
数分前。
一人の男。
頭上に浮かんだ表示。
「3 遅」
一瞬だけ。
だが確かに見えた。
「……なんだよ、あれ」
思い返す。
そして。
その直後。
駅のアナウンス。
『人身事故の影響で、電車が遅れています』
「……遅」
ぴたりと一致する。
「……進化、してるのか」
小さくつぶやく。
数字だけじゃない。
意味が、より具体的になっている。
⸻
スマホを見る。
何気なく開いたSNS。
レイナの投稿。
今日も仕事。
順調。
笑顔。
「……ほんと、すげぇな」
思わず笑う。
そのときだった。
画面越しに。
ふと、違和感。
「……?」
目を細める。
レイナの顔。
その周辺に。
一瞬だけ——
表示が浮かぶ。
「1 崩」
⸻
「……は?」
思わず声が漏れる。
すぐに消える。
だが、見間違いじゃない。
「……崩?」
意味を考える。
崩れる。
何が?
仕事か。
体調か。
それとも——
「……嫌な感じだな」
胸の奥がざわつく。
ただの予感じゃない。
これまでの流れから考えれば。
“何かが起きる”
⸻
スマホを握る。
連絡するか。
迷う。
これは。
使うことになる。
能力を。
「……どうする」
自分に問いかける。
レイナのため。
そう思えばいい。
でも。
確信はない。
これが本当に安全なのか。
「……くそ」
舌打ちする。
考えてる時間はない。
⸻
発信。
⸻
「もしもし?」
レイナの声。
「……今どこだ」
「え?」
「仕事終わった?」
「ちょうど終わったとこ」
「これから、レンさんと打ち合わせ」
その一言で。
嫌な予感が強くなる。
「……場所は」
「ホテルのラウンジ」
⸻
“崩”
⸻
頭の中で、文字が浮かぶ。
「……そこ、やめとけ」
「え?」
「理由はいいから」
「人多いとこ行け」
レイナは少し黙る。
「……なに、どうしたの?」
「……なんとなくだ」
嘘じゃない。
でも全部じゃない。
⸻
「……わかった」
少しだけ、真剣な声。
「気をつける」
⸻
通話を切る。
恒一は立ち上がる。
「……念のため行くか」
完全には安心できない。
体が勝手に動く。
⸻
ホテル前。
少し離れた場所。
恒一は様子を見る。
しばらくして。
レイナが来る。
そして。
神代レン。
笑顔。
自然な会話。
だが——
「……出てるな」
レンの頭上。
数字と。
文字。
「2 誘」
⸻
「……誘?」
意味は明確だった。
⸻
2人は中へ入る。
恒一も距離を保って入る。
視線を切らさない。
⸻
ラウンジ。
会話。
穏やか。
だが。
徐々に。
距離が近づく。
レンの手が、自然にレイナに触れる。
その流れ。
違和感。
⸻
「……来るな」
恒一がつぶやく。
そのとき。
レンが立ち上がる。
「ちょっと上、いい?」
軽い調子。
だが意図は明確。
⸻
レイナは一瞬だけ迷う。
その瞬間。
恒一は動いた。
⸻
スマホ。
カメラ。
シャッター。
レンの手。
距離。
明確な“証拠”を押さえる。
⸻
「すみません」
恒一が声をかける。
2人が振り向く。
「……あれ、恒一さん?」
レイナが驚く。
レンは一瞬だけ表情を変える。
すぐに笑顔に戻る。
「どうしたの?」
⸻
「……仕事の話なら、ここでいいでしょ」
静かに言う。
スマホを少しだけ見せる。
さっきの写真。
⸻
レンの目が、一瞬だけ細くなる。
⸻
「……なるほどね」
小さく笑う。
「今日はやめとこうか」
あっさり引く。
だが。
その目は、笑っていない。
⸻
レイナは状況を理解しきれていない。
ただ。
恒一を見る。
「……助かった?」
「……まあな」
⸻
外に出る。
空気が軽い。
「……なんだったの?」
レイナが聞く。
「……勘だ」
短く答える。
それ以上は言わない。
⸻
レイナは少しだけ笑う。
「ありがと」
その一言。
それだけで——
十分だった。
⸻
その夜。
恒一は部屋で座っていた。
頭が、少し重い。
「……ん?」
軽い違和感。
こめかみの奥。
ズキ、と痛む。
「……気のせいか」
そう思おうとする。
だが。
ノートを開く。
今日のことを書く。
そして。
ふと気づく。
自分の手。
震えている。
⸻
「……使いすぎか?」
小さくつぶやく。
あのとき。
かなり集中した。
無理に“読んだ”
その結果——
⸻
スマホが震える。
ニュース。
『某ホテルで軽いトラブル』
内容は小さい。
大したことはない。
だが。
「……ズレたか」
ぽつりとつぶやく。
レイナは無事。
でも。
何かは起きている。
⸻
目を閉じる。
静かな部屋。
だが。
確実に理解する。
⸻
「……ただじゃ済まねぇな、この力」
第41話を読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは「進化と代償の兆し」です。
恒一は初めて、
自分の意思でこの力を使い、誰かを守りました。
その結果、レイナは無事でした。
ですが——
本当に何も起きていなかったのか。
ほんの小さなズレ。
小さなトラブル。
そして、恒一自身に現れ始めた違和感。
この力は、確かに便利です。
しかし同時に、
何かを引き換えにしている可能性も見え始めています。




