第39話 確かめたもの、残ったもの
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第39話では、恒一があの“力”と向き合い、
実際に試してみる回になっています。
危険かもしれない。
何かが起きるかもしれない。
それでも、確かめずにはいられない。
そんな衝動に従い、一歩踏み出します。
小さな行動ではありますが、
この選択が今後にどう影響していくのか。
その入口となる回です。
部屋は静かだった。
机の上にはスマホとメモ帳。
書かれた数字。
レース名。
出走馬。
恒一はそれをじっと見つめていた。
「……やるか」
小さくつぶやく。
頭ではわかっている。
危ないかもしれない。
何かが起きるかもしれない。
でも——
試したい。
その衝動が、消えない。
「……一回だけだ」
自分に言い聞かせる。
スマホを操作する。
競馬予想サイト。
登録は済ませてある。
投稿画面を開く。
少しだけ迷う。
指が止まる。
「……さすがに一点はまずいか」
苦笑する。
いくらなんでも露骨すぎる。
怪しまれる。
だから。
「本命、対抗……あとは流し」
自然な形に整える。
見た目は普通の予想。
でも中身は——
答えだ。
「……こんなもんか」
投稿する。
画面を閉じる。
心臓が少しだけ速い。
やってしまった。
そんな感覚。
でも同時に。
どこかスッとした感じもあった。
⸻
レース当日。
テレビの前。
恒一は無言で画面を見ていた。
結果は、わかっている。
でも——
ちゃんと見たい。
確認したい。
ゲートが開く。
馬が走る。
展開。
位置取り。
すべて、頭の中の通りに進む。
「……ほんとに来るな」
小さくつぶやく。
最後の直線。
そのまま——
決まる。
的中。
「……やっぱりな」
ため息のような声。
驚きは、もうない。
ただ、事実として受け止めるだけだ。
スマホを見る。
自分の予想。
その通りに当たっている。
「……さて」
問題はここからだ。
⸻
SNSを開く。
的中報告。
軽く書く。
「初投稿で的中」
それだけ。
反応は、まだ少ない。
当然だ。
無名のアカウント。
誰も見ていない。
「……まあ、こんなもんか」
つぶやく。
そして。
もう一つ。
スマホを握る。
レイナの名前。
少しだけ間を置いて、発信する。
⸻
「もしもし」
「……今いいか?」
「うん、大丈夫」
短いやり取り。
「……やった」
「え?」
「予想」
「当たった」
少し間。
「……ほんとに?」
「ほんとに」
シンプルに答える。
「で」
恒一は続ける。
「何かあったか?」
「……何かって?」
「お前の周りで」
少しだけ間。
レイナは考える。
「……特にはないかな」
「ほんとに?」
「うん」
はっきり言う。
「普通」
その一言で、少しだけ力が抜ける。
「……そっか」
小さく言う。
「でも」
レイナが続ける。
「まだ一回でしょ?」
「……まあな」
「もう少し見た方がいいと思う」
「……だよな」
納得する。
⸻
それから数日。
同じことを繰り返す。
予想を出す。
当たる。
また当たる。
5レース。
すべて的中。
「……やばいな」
思わず笑う。
普通じゃない。
でも——
それが現実だ。
SNSのフォロワーも、少しずつ増える。
反応も増える。
だが。
爆発的ではない。
「……まあ、そんな簡単じゃないか」
当然だ。
実績が少なすぎる。
信頼もない。
それでも。
確実に当たっている。
それだけで、十分すぎるはずだった。
⸻
だが。
「……ん?」
ふと、違和感。
SNSのコメント。
『この予想で大勝ちしました!』
『人生変わりそうです』
軽い言葉。
でも。
どこか引っかかる。
「……大げさだろ」
つぶやく。
でも。
ほんの一瞬。
胸の奥がざわつく。
すぐに消える。
気のせいだと思う。
⸻
その夜。
スマホを置く。
「……もういいか」
ぽつりと言う。
衝動は、収まっていた。
試したかった。
確かめたかった。
それは、もう終わった。
「……この力」
少し考える。
「わかったようで……わかんねぇな」
正直な感想だった。
完全に安全ではない気がする。
でも。
何も起きていない。
曖昧なまま。
「……やめとくか」
そう決める。
少なくとも、今は。
⸻
一方。
レイナ。
テレビの中。
笑っている。
バラエティ。
CM。
露出は明らかに増えている。
「……すげぇな」
恒一は画面を見ながらつぶやく。
別の世界の人間みたいに見える。
でも。
どこか誇らしい。
「……これでよかったんだな」
小さく言う。
自分の選択。
間違ってなかった。
そう思える。
⸻
そのとき。
画面が切り替わる。
新曲の告知。
「……新曲か」
神代レンの名前。
ソロ。
完全プロデュース。
「……いくな、これ」
確信する。
もう止まらない。
あっちの世界は、どんどん進んでいく。
⸻
テレビを消す。
部屋が静かになる。
現実に戻る。
何もない部屋。
何もない自分。
「……さて」
小さく言う。
「何やるか」
まだ、何も決まっていない。
でも——
ひとつだけ、わかっていることがある。
このままじゃ終わらない。
終われない。
少しだけ考える。
競馬。
予想。
流れ。
「……流れ、か」
ぽつりとつぶやく。
ふと、思う。
レースだけじゃない。
人も。
仕事も。
全部、流れがある。
「……読めるのか?」
その可能性が、頭をよぎる。
もし——
この力が、もっと広く使えるとしたら。
少しだけ、笑う。
「……試すか」
それは。
新しい一歩だった。
第39話を読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは「検証と違和感」です。
予想は的中し、
一見すると何も問題は起きていないように見えます。
ですが、完全に安全とは言い切れない。
どこかに引っかかるものが残っています。
そしてもう一つ。
恒一の中で、新しい視点が生まれ始めています。
“流れを読む”という考え方。
それがこの先、どのように広がっていくのか。
次回、第40話。
その力の使い方が変わり始めます。




