第37話 それぞれの選択
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第37話では、レイナの葛藤と決断を描いています。
ここまで一緒に歩んできた時間。
支えてくれた存在。
そして、自分自身の可能性。
どれも大切だからこそ、簡単には選べない。
そんな中で出した答えは、
決して軽いものではありません。
誰かのためであり、
同時に自分のためでもある選択。
その瞬間を描いた回になっています。
夜。
部屋の中は静かだった。
レイナはソファに座ったまま、何もせずにいた。
スマホはテーブルの上。
通知は来ている。
でも、見ていない。
頭の中は、それどころじゃなかった。
「……どうすればいいんだろ」
小さくつぶやく。
答えは出ている気もする。
でも、それを選ぶ勇気がない。
恒一の顔が浮かぶ。
今日の表情。
あの言葉。
『任せた方がいいのかもな』
あれは、本心だったと思う。
無理して言ってる感じじゃなかった。
だからこそ、重い。
「……でも」
小さく息を吐く。
一緒にやってきた。
ここまで来れたのは、恒一がいたからだ。
あの時、拾ってくれなかったら。
あの時、信じてくれなかったら。
今の自分はいない。
「……離れたくない」
正直な気持ちだった。
でも——
同時に、別の感情もある。
「……試したい」
どこまでいけるのか。
今の流れの中で。
どこまで上に行けるのか。
それもまた、本音だった。
両方、本当。
だから、苦しい。
どちらかを選べば、どちらかを捨てることになる。
「……ずるいな」
誰に向けた言葉かわからない。
でも、出た。
しばらく沈黙。
それから。
ゆっくりとスマホを手に取る。
画面を開く。
恒一の名前。
少しだけ迷う。
でも——
かける。
⸻
「もしもし」
恒一の声。
いつも通り。
でも、少しだけ疲れている。
「……今、いい?」
「いいよ」
短い会話。
少し間。
「……ちゃんと話したくて」
「うん」
それだけで、伝わる。
⸻
数十分後。
事務所。
夜の静けさ。
二人だけ。
レイナはゆっくり言う。
「……昨日の話」
「ああ」
恒一は短く返す。
覚悟している顔だった。
「私、考えた」
「……うん」
言葉を選ぶ。
間違えたくない。
でも、正解なんてない。
「……行くことにする」
静かに言う。
空気が止まる。
「神代さんのところ」
はっきり言う。
逃げない。
恒一は、少しだけ目を閉じる。
「……そっか」
それだけ。
否定も、驚きもない。
ただ、受け止める。
「……でも」
レイナは続ける。
「これで終わりじゃないと思ってる」
少しだけ前に出る。
「私は、もっと上に行きたい」
「ちゃんと結果出したい」
「……うん」
「そのために、今はあっちの環境が必要だと思った」
まっすぐ言う。
言い訳はしない。
「……それに」
少しだけ声が揺れる。
「これ以上、恒一に負担かけたくない」
その一言。
静かに落ちる。
恒一の表情が、少しだけ変わる。
「……負担なんて」
「なってるよ」
はっきり言う。
「なってるの、見ててわかる」
少しだけ目を逸らす。
「……だから」
「ちゃんと、自分で行く」
その言葉は、強かった。
もう迷っていない。
恒一はしばらく何も言わない。
それから。
「……強くなったな」
小さく言う。
少しだけ笑う。
「最初の頃とは別人だ」
レイナも少しだけ笑う。
「そう?」
「そうだよ」
短い会話。
でも、そこにあったのは否定じゃない。
認める気持ちだった。
⸻
少し沈黙。
それから。
「佐倉さんのことなんだけど」
レイナが言う。
「あの人には……来てほしい」
恒一が顔を上げる。
「……ああ」
「ちゃんとやりたいから」
「環境も整えたいし」
「……うん」
恒一は頷く。
もう止めない。
⸻
数日後。
「私は、行きます」
佐倉が言う。
迷いはなかった。
「レイナについていきます」
恒一は少しだけ笑う。
「……だと思った」
「すみません」
「いいよ」
軽く言う。
「それが一番いいと思う」
本心だった。
⸻
事務所。
静かになる。
人が減る。
音が減る。
空気が変わる。
恒一は一人、椅子に座る。
何もない部屋。
少し前まで賑やかだった場所。
「……また一人か」
ぽつりとつぶやく。
でも。
不思議と、絶望はなかった。
ただ——
少しだけ、寂しかった。
スマホを見る。
レイナの名前。
連絡は来ていない。
当たり前だ。
もう、進んでいる。
それでいい。
「……やるしかねぇか」
小さく言う。
その声は、少しだけ前を向いていた。
⸻
一方。
新しいスタジオ。
レイナはその場に立っていた。
環境が違う。
空気が違う。
すべてが新しい。
でも。
怖くはなかった。
「……やる」
小さく言う。
それは、自分への言葉。
ここから——
本当の勝負が始まる。
第37話を読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは「別れと前進」です。
レイナは、自分の意志で一歩を踏み出しました。
それは成長であり、同時に痛みを伴う選択でもあります。
そして恒一。
彼は止めることを選ばず、
受け入れることを選びました。
この選択によって、
物語は大きく分岐します。
ここからは、それぞれの道。
それぞれの戦いが始まります。




