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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第36話 手放すという選択

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第36話では、これまで積み重なってきた違和感が

ついに“はっきりとした形”として現れます。


ダブルブッキングという致命的なミス。


それは単なる偶然なのか、

それとも流れの中で起きるべくして起きたものなのか。


ここまで順調に進んできた分、

その反動のようにも見える出来事です。


そしてこの一件が、

それぞれの立場や考え方に変化をもたらしていきます。

佐倉が復帰した。


「ご迷惑おかけしました」


 事務所に入るなり、深く頭を下げる。


「いや、いいって」


 恒一が軽く手を振る。


「無理すんなよ、マジで」


「はい」


 笑う。


 いつも通りの佐倉。


 でも、どこか少しだけ無理をしているようにも見えた。


「大丈夫そう?」


 レイナが心配そうに聞く。


「大丈夫です」


「ちゃんと休みましたから」


 そう言いながらも、すぐに資料に目を通し始める。


 その姿に、少しだけ安心する。


 だが——


 その安心は、長くは続かなかった。


⸻


「……え?」


 恒一の声が、事務所に響く。


 手に持っていた資料を見つめたまま固まっている。


「どうした?」


 佐倉が顔を上げる。


「これ……」


 恒一がゆっくり言う。


「同じ時間に、2件入ってる」


 空気が止まる。


「……は?」


 佐倉が立ち上がる。


 資料を覗き込む。


「……ほんとだ」


 完全に被っている。


 移動も含めて、どうやっても無理な時間。


「なんで……」


 恒一がつぶやく。


「こんなミス……」


 自分の手帳。


 スケジュール。


 確認する。


 どちらも、自分が入れている。


「……俺か」


 小さく言う。


 否定できない。


「……確認、足りてなかったかも」


 声が少し落ちる。


 佐倉は少しだけ考える。


「とりあえず、どちらか調整を——」


「無理だ」


 恒一が言う。


「どっちも動かせない」


 沈黙。


 重い空気。


 結局——


 両方とも断ることになった。


⸻


 その日の帰り。


 恒一は、事務所の椅子に座ったまま動かなかった。


「……やったな」


 ぽつりとつぶやく。


 誰もいない部屋。


 静かすぎる。


 頭の中で、何度も繰り返す。


 どうしてこうなったのか。


 なぜ気づかなかったのか。


「……終わってるな」


 小さく笑う。


 でも、その笑いは全然笑っていなかった。


 そこへ。


 ドアが開く。


「……まだいたんだ」


 レイナだった。


「帰ってなかったの?」


「……ちょっとな」


 視線を逸らす。


 レイナはゆっくり近づく。


「……気にしてる?」


「そりゃするだろ」


 即答だった。


「普通にやばいミスだぞ」


「うん」


 レイナは否定しない。


 でも。


「でもさ」


 少しだけ前に立つ。


「誰だってミスはあるよ」


 まっすぐ言う。


「……いや、レベルが違うだろ」


「違わないよ」


 すぐに返す。


「人間なんだから」


 少し間。


「今まで、ずっとちゃんとやってきたじゃん」


 その言葉に、恒一は何も言えなくなる。


「たまたま重なっただけだよ」


「……そうかな」


「そうだよ」


 レイナは笑う。


 優しく。


「私だって、いっぱいミスしてきたし」


「でも、ここまで来れたでしょ」


 恒一は少しだけ下を向く。


 その言葉は、刺さる。


 でも同時に——


 どこか遠く感じた。


⸻


 そのとき。


 スマホが鳴る。


「……神代?」


 画面を見る。


 少しだけ迷う。


 それから出る。


「もしもし」


「お疲れ」


 いつもの軽い声。


「ちょっといい?」


「……ああ」


 短く返す。


「レイナさん、今どう?」


 少し間。


「……問題ないけど」


「そっか」


 軽く言う。


 それから——


「ちょっとさ、考えてたんだけど」


 声のトーンが少し変わる。


「うちで一旦預かるの、どう?」


 空気が止まる。


「……は?」


 思わず声が出る。


「いや、悪い話じゃないと思うよ」


 レンは淡々と続ける。


「今の流れ的に、もっと広げられるし」


「こっちの体制なら、取りこぼしも減る」


 その言葉が、刺さる。


 さっきのミスが、頭をよぎる。


「……別に、奪うつもりはないよ」


「一時的でもいいし」


「その方がレイナさんのためになると思うけど」


 静かな提案。


 でも。


 逃げ場のない言葉。


 恒一は何も言えない。


 否定したい。


 でも——


 できない。


「……考えとく」


 それだけ言う。


「うん」


 レンは軽く返す。


「いい判断してね」


 通話が切れる。


⸻


 沈黙。


 レイナが見る。


「……誰?」


「……レン」


 短く答える。


「何て?」


 少し迷う。


 でも。


「……お前を預かりたいってさ」


 正直に言う。


 レイナの表情が少しだけ止まる。


「……そうなんだ」


 それだけ。


 否定もしない。


 肯定もしない。


 その反応が、逆に重い。


 恒一はゆっくり言う。


「……俺さ」


 少し間。


「正直、思った」


 レイナを見る。


「……限界かもしれないって」


 言葉が、落ちる。


「今のままじゃ、もっと上には行けない」


「お前はもっといけるのに」


 レイナが何か言おうとする。


 でも、言えない。


「だから……」


 少しだけ視線を逸らす。


「任せた方がいいのかもな」


 その言葉は、静かだった。


 でも。


 決定的だった。


⸻


 レイナは何も言えない。


 ただ、そこに立っている。


 目の前で。


 何かが、変わろうとしている。


第36話を読んでいただきありがとうございました。


今回のテーマは「限界と選択」です。


恒一のミス。


それは一つの出来事でありながら、

彼自身の中にあった迷いや不安を

一気に表に引き出すきっかけとなりました。


そして神代レンからの提案。


レイナにとっても、

そして恒一にとっても、

無視できない選択肢が提示されます。


ここから先は、

“誰と進むのか”が問われる段階に入ります。


次回、第37話。

選ぶのは、誰なのか。

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