第27話 最初の反応
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第26話で「どう進むか」を決め、
第27話では「実際に一歩踏み出す」回になります。
大きな成功はまだありません。
むしろ現実は厳しく、数字も小さいままです。
ですが、この回で描きたかったのは
“ゼロではない”という感覚です。
一人のコメント。
一人のリピーター。
その積み重ねが、どこまで届くのか。
そして——
その小さなステージの中に、
次へ繋がるきっかけが紛れ込んでいます。
ここから物語は一段階進みます。
ライブが終わった。
拍手はあった。
だが、多くはない。
十数人。
その中の何人かが、少しだけ強く手を叩いていた。
それが、すべてだった。
「……お疲れ」
裏に戻ると、佐倉が声をかける。
レイナは小さく頷いた。
「……どうだった?」
恒一が聞く。
レイナは少しだけ考える。
「……楽しかった」
それが最初の言葉だった。
だが。
「でも、悔しい」
正直だった。
隠さない。
「……だろうな」
恒一が苦笑する。
「客、少なかったしな」
「うん」
レイナは頷く。
「でもさ」
少しだけ顔を上げる。
「ちゃんと聞いてくれてた」
その言葉に嘘はない。
前の方にいた数人。
真剣に、最後まで聞いていた。
「……それでいい」
恒一が言う。
「最初はそれで十分だ」
レイナは小さく笑う。
そして、ぽつりと言う。
「……さっきの曲さ」
「うん?」
佐倉が反応する。
「昔のやつ」
少しだけ遠くを見る。
「デビューした頃に作ってもらった曲」
アイドルらしい、明るくて少し切ない曲。
当時は、それなりに売れた。
でも——
「……あの頃は、ちゃんと歌えてなかった気がする」
レイナはそう言った。
恒一は何も言わない。
ただ聞いている。
「今日、歌って思った」
「やっと、ちゃんと歌えた気がする」
その言葉。
それだけで、十分だった。
「……いいじゃねぇか」
恒一が言う。
「うん」
レイナは頷く。
そして現実に戻る。
「……でも広げないとね」
佐倉がスマホを操作する。
「一応、動画は上げといた」
「さっきの曲、一曲分」
「もう?」
「もう」
恒一が覗く。
「……再生、少ねぇな」
「当たり前」
佐倉が即答する。
「そんな簡単にいかない」
現実だった。
それでも——
「……あ」
レイナが小さく声を出す。
「コメント来てる」
『声、めっちゃいい』
短い一言。
でも。
「……うれしい」
自然と笑う。
恒一がぽつりと言う。
「……こういうの、増やしてくしかねぇな」
「一人ずつでいい」
「ちゃんと届いてるなら、それでいい」
レイナは頷く。
「……うん」
⸻
数日後。
同じライブハウス。
同じくらいの客。
だが。
前回来ていた客が、またいる。
「……リピーターだな」
佐倉が言う。
レイナは何も言わない。
でも、少しだけ嬉しそうだった。
ステージに立つ。
マイクを握る。
深く息を吸う。
「……今日もありがとうございます」
そして歌い出す。
同じ曲。
でも。
前よりも届く。
確実に。
⸻
終演後。
「……増えてる」
佐倉がスマホを見ながら言う。
「再生、少しずつ伸びてる」
コメントも増えていた。
『また聞きに来ました』
『なんか残る』
『この曲好き』
レイナはそれを見て。
「……いけるかも」
小さくつぶやく。
その時だった。
佐倉のスマホが鳴る。
「……ん?」
画面を見る。
一瞬、固まる。
「……え?」
「どうした?」
恒一が聞く。
佐倉はゆっくり顔を上げる。
「……これ、本物?」
「何がだよ」
スマホを見せる。
そこに表示されている名前。
それを見て——
恒一も止まる。
「……おい」
「マジか」
レイナも覗き込む。
「……誰?」
佐倉がゆっくり言う。
「……神代レン」
一瞬、空気が止まる。
「……え?」
レイナの思考が止まる。
「“ライブ見ました”って」
「“あの曲、すごくいい”って」
レイナの目が揺れる。
信じられない。
「“もしよければ、新曲、一緒に作りませんか?”」
沈黙。
完全に止まる。
過去の曲をきっかけに——
未来の話が来ている。
「……コラボ、だな」
恒一が言う。
静かに。
でも、確実に。
佐倉が笑う。
「……来たね」
レイナはスマホを見つめたまま。
「……やばい」
小さく言う。
「やばい……」
でも、その顔は——
笑っていた。
第27話を読んでいただきありがとうございました。
今回は「小さな手応え」と「大きなチャンス」を同時に描いています。
レイナが歌ったのは過去のオリジナル曲。
それを“今の自分”で歌い直すことで、
ようやく意味を持つようになりました。
そして登場した神代レン。
この人物は、今後の展開において
非常に重要な役割を持つ存在です。
ただのコラボでは終わりません。
ここからは、
「本当に通用するのか?」という
現実の壁と向き合うフェーズに入っていきます。
小さなライブから始まった物語が、
どこまで広がるのか




