第26話 決めたこと
ここまで読んでいただきありがとうございます。
物語はここで一つの区切りを迎えます。
“当たる力”という異質なものを手にした恒一たちが、
それをどう扱うのか。
そして、レイナが選んだ道。
楽に進むこともできる中で、
あえて遠回りを選ぶ理由。
この先の展開に大きく関わる、大切な回になっています。
ここからは、
“どうやって上に行くのか”ではなく、
“どうやって積み上げていくのか”の物語です。
引き続きお楽しみいただければ嬉しいです。
事務所の会議室。
三人だけの空間。
いつもより静かで、少し張り詰めていた。
「……整理しようか」
佐倉が口を開く。
恒一は黙って頷く。
レイナも同じだった。
「この力はある」
「当たる」
「でも、代償がある」
淡々と並べられる言葉。
だが、その一つ一つが軽くはない。
「しかも、歪みはレイナの周りで起きる」
空気が少し沈む。
レイナは視線を落としたまま、何も言わない。
「……どうする?」
佐倉が二人を見る。
答えを待つ目。
逃げられない。
恒一は少しだけ考えてから言う。
「……使わねぇ」
短い言葉。
だが、はっきりしていた。
レイナが顔を上げる。
佐倉も静かに目を細める。
「基本はな」
恒一は続ける。
「どうしても必要なときだけ」
「必要な分だけ使う」
「……一人じゃ決めない」
ゆっくりと言葉を重ねる。
「三人で決める」
その場に、静かな決意が落ちる。
逃げじゃない。
選択だった。
佐倉が小さく頷く。
「……いいと思う」
「少なくとも、無計画に使うよりはいい」
レイナは少しだけ考える。
そして。
「……うん」
静かに頷いた。
「それでいい」
その声には、迷いがなかった。
恒一が少しだけ息を吐く。
「じゃあ決まりだな」
一区切り。
そうなるはずだった。
だが。
「……でもさ」
レイナが口を開く。
二人の視線が向く。
「これだけじゃ、足りないよね」
静かな声。
だが、核心を突いていた。
「……何がだ」
恒一が聞く。
レイナは少しだけ視線を落とし、そして顔を上げる。
「私」
「もう一回、ちゃんとやりたい」
その言葉で、空気が変わる。
「ちゃんとって?」
佐倉が聞く。
「……自分で」
レイナは言う。
「ちゃんと、自分で勝ちたい」
静かな声。
だが、芯がある。
「前はさ」
「流れに乗ってただけだった気がする」
「人気も、仕事も」
「全部、なんとなく来てただけで」
少しだけ笑う。
どこか悔しそうに。
「だから、落ちたんだと思う」
誰も否定しない。
できない。
その通りだからだ。
「……でも今は違う」
レイナは続ける。
「ちゃんとやりたい」
「ちゃんと積み上げて」
「ちゃんと届く形で」
一瞬だけ間を置く。
そして。
「……ちゃんと残るところまで行きたい」
その言葉。
軽くはない。
覚悟そのものだった。
恒一は少しだけ目を細める。
「……簡単じゃねぇぞ」
「わかってる」
即答だった。
「だから、やる」
迷いはない。
佐倉がふっと笑う。
「……いいね」
「その方が面白い」
レイナも少しだけ笑う。
だが、その奥には決意がある。
恒一が口を開く。
「……じゃあ俺は」
二人が見る。
「最後の一押しだけやる」
静かな声。
「どうしても必要なときだけ」
「その代わり」
レイナを見る。
「そこまでは、自分で行け」
一瞬の沈黙。
そして。
「……うん」
レイナが頷く。
「行く」
その一言は、強かった。
⸻
数日後。
小さなライブハウス。
客は多くない。
むしろ、少ない。
十数人ほど。
かつての姿からは想像できない光景だった。
だが。
レイナはステージに立っていた。
ライトが当たる。
マイクを握る。
深く息を吸う。
客席を見る。
知らない顔ばかり。
それでも——
逃げない。
「……はじめまして」
声を出す。
少しだけ震えている。
だが、止まらない。
「今日、初めて聞いてくれる人も多いと思います」
小さく笑う。
「……私、ここからやり直します」
その言葉。
誰に向けたものでもない。
だが、確かに届く。
恒一と佐倉が、後ろから見ている。
何も言わない。
ただ、見ている。
レイナが目を閉じる。
そして。
歌い出す。
静かに。
ゆっくりと。
その声は——
確かに、前より強くなっていた。
第26話を読んでいただきありがとうございました。
この回で、能力のルールと方向性が決まりました。
正直、この物語はここで分岐します。
能力に頼る物語にもできましたが、
あえて「頼らない選択」をさせています。
その理由はシンプルで、
その方が“応援したくなる物語”になるからです。
そしてレイナのセリフ。
「ちゃんと残るところまで行きたい」
ここがこの章の核になります。
この先は、
小さなライブ、少ない観客、伸びない数字——
そんな現実の中で少しずつ積み上げていきます。
ですが、必ずどこかで跳ねます。
その瞬間を楽しみにしていただけたら嬉しいです。




