第13話 もう一度来る
第13話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、止まっていた“流れ”が再び動き出す回になります。
あの感覚が戻ったとき、何が起きるのか——
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
ドクン。
心臓が、大きく鳴る。
黒沢恒一は、ゆっくりと視線を落とした。
レース表。
紙の上に並ぶ、馬の名前。
なのに。
「……」
頭の奥が、熱を持つ。
懐かしい感覚。
忘れていたはずの“あれ”。
(……来てる)
はっきりとわかる。
1年前。
あのときと同じ。
いや、それ以上に強い。
理由はわかっている。
すぐ隣にいる存在。
如月レイナ。
(……やっぱり、お前か)
視線を向ける。
その瞬間、感覚がさらに強くなる。
確信に近い何か。
そして、浮かぶ。
3。
7。
12。
「……」
息が止まる。
順番まで、はっきりと。
(……これ、当たる)
理由なんてない。
だが、わかる。
確実に来る。
「……ちょっと、買ってくる」
「え?」
「すぐ戻る」
それだけ言って、歩き出す。
馬券売り場。
財布を開く。
入っている現金。
3万5千円。
「……全部だな」
少しだけ笑う。
迷いはない。
これは“確認”だ。
「3連単、一点」
「3—7—12」
紙を受け取る。
それだけで、すべてが決まる。
レースが始まる。
ゲートが開く。
歓声。
馬が走る。
恒一は、動かない。
ただ見ている。
(……来る)
直線。
先頭。
「……3……!」
抜け出す。
そのままゴール。
息を止める。
2着。
「……7」
3着。
「……12」
完全一致。
「……はは」
笑いが漏れる。
「……マジかよ」
手が震える。
画面を見る。
133倍。
払い戻し。
「……465万」
現実感がない。
たった一撃。
それだけで。
3万5千円が、465万5000円。
「……なんだよ、これ」
言葉が、自然とこぼれる。
「……黒沢?」
声。
振り向く。
レイナが、少し不思議そうに見ている。
「……当たったの?」
「……ああ」
短く答える。
だが次の瞬間。
「……すげぇぞ、これ」
思わず、言葉が溢れる。
「3連単、一点だ」
「え?」
「全部当たった」
レイナの目が大きく開く。
「……すご」
少し遅れて笑う。
「え、ほんとに?」
「マジだ」
スマホの画面を見せる。
配当。
数字。
「……やば」
小さく笑う。
「何それ、漫画じゃん」
「だろ?」
自然と笑い合う。
さっきまでとは違う空気。
軽い。
明るい。
そのとき。
恒一の中で、何かが弾けた。
「……なあ」
「ん?」
「時間、あるか」
「え?」
「……飯、行かねぇか」
一瞬の沈黙。
やっちまった、と思う。
だが。
「……いいよ」
レイナが、少しだけ笑う。
「ちょうど暇だし」
「……そうか」
短く答える。
だが内心は。
(……マジか)
少しだけ、心臓が速くなる。
そのとき。
少し離れた場所で、怒鳴り声が上がる。
「ふざけんなよ!」
男の声。
揉めている。
人が集まる。
小さな騒ぎ。
「……」
恒一は一瞬そちらを見る。
ただのトラブル。
どこにでもある光景。
のはずだった。
ドクン。
心臓が鳴る。
さっきの当たり。
そして、今の騒ぎ。
(……なんだよ)
違和感だけが残る。
だが。
今は、それよりも。
「……行くか」
レイナと並んで歩き出す。
久しぶりの高揚。
勝った感覚。
そして。
少しだけ、近くなった距離。
その裏で何が起きているのか。
このときの恒一は、まだ知らない。
第13話を読んでいただきありがとうございました。
久しぶりに訪れた“当たり”。
その爽快感と同時に、どこかに残る違和感。
すべては偶然なのか、それとも——
そして、二人の距離も少しだけ動き出しました。
次回は、その流れの中で起きる“はっきりした出来事”へ。
ここから少しずつ、見えてくるものがあるかもしれません。
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引き続きよろしくお願いします。




