第8話『情報戦とスキャンダル暴露』
日翔グループのスキャンダルが世間を騒がせてから三日。
ニュースは連日その話題で持ちきりになり、SNSには怒りの声と嘲笑、そして憶測が渦巻いていた。
〈E地区の子どもが救急搬送、原因は日翔製パンのカビ〉
〈元社員が証言「期限切れ薬品を再包装して販売」〉
〈内部監査記録、改竄の形跡〉
証拠のほとんどは、あの夜に俺が“復元”したものだ。
加賀たちが倉庫を入れ替え、あおいが世界中に流した瞬間から、情報は手のひらからこぼれる水のように広がっていった。
「やっぱり、あの一撃は効いたな」
アジトの片隅、古びたソファで加賀が笑う。
だが、その笑みにはどこか冷静な色があった。
「だが、奴らも黙ってはいない。日翔の背後には政府高官とSランク議員がいる。すぐに反撃に出てくるぞ」
「わかってる」
だからこそ、俺たちは次の一手を用意していた。
◆ ◆ ◆
その日の夜、あおいが俺に一枚のデータパッドを差し出した。
スクリーンには無数の名前と顔写真。そして肩書き――。
「……政治家、財界人、軍幹部……?」
「全部、日翔グループから裏金や便宜供与を受けている人物よ。表向きはクリーンでも、裏ではEランク地区の搾取に関わってる」
「なるほど……これを暴くわけか」
あおいは頷き、淡々と続ける。
「やり方は三段階。
一つ目――内部通信や口座記録をすべて抽出し、相互の癒着関係を可視化する。
二つ目――特定の有力者にだけ偽情報を流し込み、反応を観測することで関与の度合いを絞り込む。
三つ目――確定した人物のスキャンダルを、匿名の告発として一斉に拡散」
「……完全に情報戦だな」
「ええ。でも、これにはあなたの力が必要」
俺の力――記録改竄。
それを使えば、裏金の送金記録やメール履歴を“実在した”状態に戻せる。逆に、俺たちの痕跡は“存在しなかった”ことにできる。
つまり、証拠を生み出すと同時に、自分たちの影を完全に消すことができるのだ。
◆ ◆ ◆
翌晩、作戦は動き出した。
ターゲットは五人の上級議員と、三人の大企業役員。
あおいが用意した偽の投資案件をエサに、彼らの端末と口座に遠隔アクセスを仕掛ける。俺はその瞬間を狙い、記録改竄で封じられた裏金データを復元。さらに、それが“昨日の取引”として記録されるよう日付まで書き換える。
「……よし、一人目、完了」
「受信確認。証拠ファイル、転送済み」
次々とデータが積み上がっていく。
やがて、スクリーン上の全ターゲットの名前が赤く染まり、あおいがにやりと笑った。
「これで準備完了。あとは拡散するだけ」
その瞬間、加賀が低い声で警告を発した。
「待て。……外に監視ドローンだ」
モニターに映る黒い影。政府直属の情報局が使う最新型だ。
こいつに姿を撮られれば、どれだけ記録を消しても完全には逃げ切れない。
「蓮、やれるか?」
「……やる」
俺はドローンの識別コードにアクセス。
【監視対象:リベリオン構成員】を――【監視対象:無関係市民】に書き換える。さらに搭載カメラの映像記録を全消去。最後に、ドローンの飛行ルートを変更し、逆方向へと飛ばした。
――カチリ。
「クリアだ」
安堵の息が漏れる。だが、あおいはその横顔を見て小さく呟いた。
「……あなた、本当にこの世界を壊すつもりなのね」
「最初からそのつもりだ」
◆ ◆ ◆
三日後。
国内最大のニュースサイトが、突如として八人の名前と裏金スキャンダルを一斉に報じた。
〈政府高官の半数が日翔グループと癒着〉
〈軍幹部の不正発注、Eランク地区の物資を横流し〉
〈議員秘書、裏金受領の瞬間映像〉
映像や記録は精密で、言い逃れの余地はない。
街頭ビジョンでも繰り返し流され、怒り狂った市民が各地でデモを起こした。
だが、その裏で俺たちは知っていた。
この一撃は、Sランク支配層を本気で怒らせたということを。
次は、向こうが動く。
俺たちを潰すために。




