第7話『階級差別企業に鉄槌を』
翌週の夜、リベリオンのアジトに再び集まった。
壁際に置かれた古いプロジェクターが、薄暗い天井に白い光を投げかける。そこには巨大な企業ビルの外観と、赤く囲まれたロゴが映し出されていた。
〈日翔グループ〉――。
食品から医療、エネルギーまで幅広く手掛ける超巨大コングロマリットだ。表向きは清廉潔白な企業として知られているが、Eランク地区では別名で呼ばれている。
――“搾取の牙”。
理由は単純だ。日翔は最下層に必要不可欠な物資や医薬品を独占的に供給し、価格をA〜Bランク向けの三倍以上に吊り上げていた。しかもEランク専用の商品には粗悪品を回し、事故や死亡例が出ても、記録の改竄で“存在しなかったこと”にしてしまう。
「……ここを狙うのか」
「そうだ」
加賀が低く頷いた。
スクリーンには日翔グループ本社のフロア図、セキュリティ配置、そして社内ランク分布が表示されていく。
「今回の目的は二つ。ひとつは、奴らの倉庫からEランク用の物資を奪い、本物の物資と入れ替えること。もうひとつは……」
「内部の不正記録を、全世界に流す」
あおいの言葉に、室内の空気がざわついた。
日翔の悪行は誰もが知っている。だが、それを証明する公式記録はどこにも存在しない。あらゆる証拠が消されてきたからだ。
「蓮、あんたの出番よ。奴らの内部記録を書き換えて、封じられたデータを“存在した”ことに戻す」
「つまり、隠された証拠を復元するわけか」
「そう。そして、そのデータは私が全世界にばら撒く」
作戦はこうだ。
潜入班が夜間に配送ゲートから侵入、俺がセキュリティの認証記録を書き換えて“誰も入っていない”ことにする。あおいは外部からデータベースへ侵入し、俺の改竄で解放されたファイルをコピー。加賀たちは倉庫から物資を運び出し、同時に粗悪品の在庫をすべて破壊する。
失敗すれば全員捕まる。いや、捕まる前に消される可能性だって高い。
「……いいな。やるぞ」
◆ ◆ ◆
深夜一時。
日翔グループの配送センター裏口に、俺たちは黒い作業服姿で現れた。
月明かりに照らされた鉄製のシャッターは無機質で、監視カメラが無言でこちらを見下ろしている。
「三十秒後に死角になる。そこからが勝負だ」
あおいの声がイヤーピース越しに響く。
俺はシャッター脇の認証パネルに手をかざし、管理記録を開く。
そこには、過去二十四時間の入退室ログがびっしり並んでいた。俺はその中に“これから行う潜入”のログを先回りで書き込み、ステータスを【正常業務】に変更。つまり、俺たちの侵入はシステム上「予定された配送作業」として記録される。
――カチリ。
わずかな音と共に、シャッターが静かに開いた。
「よし、行くぞ」
中は暗く、広大な倉庫が静まり返っていた。
積み上げられたコンテナのラベルには【E-LINE】と記されている。これがEランク向けの物資だ。
加賀がひとつ開けると、中からは変色したパンや使用期限を過ぎた薬品が出てきた。
「……やっぱりな」
俺は端末を操作し、在庫管理システムにアクセス。粗悪品の記録をすべて削除し、新しい物資の搬入記録を追加する。同時に、監視カメラの映像を一時間前に巻き戻し、以降の映像を全て“黒画面”に置き換えた。
その間に、加賀たちはコンテナを積み替え、本物の物資と入れ替えていく。
あおいからは時折、「データ復元、進行中……」「証拠映像、抽出完了」と冷静な報告が入る。
だが、作業が終盤に差し掛かった時だった。
「――おい、誰だ!」
懐中電灯の光が走り、二人の警備員が現れた。
胸元には【Bランク】の認証バッジ。即座に警棒を構える。
(……間に合うか?)
俺は迷わず視界の“文字列”に手を伸ばす。
【Bランク/巡回警備】を――【Eランク/臨時作業員】に上書き。
――カチリ。
「……あれ、俺ら、作業応援じゃなかったか?」
「……そうだな。よし、戻ろう」
拍子抜けするほどあっさりと、二人は背を向けて去っていった。
加賀が小さく笑う。
「便利な力だな」
「だろ?」
作業が完了し、俺たちは倉庫を後にした。
翌朝、日翔グループの株価は急落。ネット上にはEランク地区での搾取と粗悪品供給の証拠映像が溢れ、政府も調査に乗り出す事態となった。
初めて、目に見える形でこの国の階級構造に傷をつけた。
その快感は、胸の奥で静かに、しかし確かに燃え続けていた。




