第9話『元Aランクの裏切りと加勢』
日翔グループと政府高官の癒着スキャンダルが吹き荒れてから、一週間。
街は混沌としていた。至る所で抗議デモが起こり、警備隊と市民が衝突。階級制度そのものを疑う声も、少しずつだが大きくなってきていた。
――だが、その分だけ、Sランク支配層の監視も厳しくなった。
「外の哨戒ドローンが倍増してる。下手に動けばすぐマークされるぞ」
加賀の言葉に、アジトの空気が重くなる。
俺たちの一連の行動は、表沙汰にはなっていないものの、間違いなく〈反逆勢力〉として把握されているはずだ。
そんな緊張感の中、アジトの入口で物音がした。
「おい……誰だ?」
見張り役の声。次いで、ゆっくりと姿を現したのは――スーツ姿の男だった。
肩までの乱れた黒髪、薄く笑みを浮かべた口元。その胸元のバッジは、かつての【Aランク】を示しているが、上から無造作にガムテープが貼られていた。
「……元Aランクか?」
「ああ。元だ」
男は周囲の視線を気にも留めず、ずかずかと中に入る。
「名は神城隼人。今はただの無所属……いや、亡命者だ」
加賀が警戒を解かずに問いかける。
「何の用だ。スパイなら容赦しねえぞ」
「心配するな。俺はSランクの腐った連中と決別した。……理由は簡単だ。奴らの命令で、Eランク地区に爆弾を落とす任務を押し付けられたからだ」
空気が一気に張り詰める。
SランクがEランク地区を“削除”することは、極秘ながら珍しくない。だが、当事者の口から語られるのは異例だった。
神城は、懐からデータチップを取り出した。
「これが、奴らの次の計画書だ。標的はE-17地区。人口およそ二万。その全員を“反逆予備軍”として処分する予定になっている」
テーブルに置かれたチップを、あおいが素早く回収し、端末に接続。
瞬時に、衛星監視データと攻撃スケジュールがホログラムで浮かび上がった。
「……本物ね」
あおいの声は低く、しかし確信に満ちていた。
俺は拳を握る。
E-17地区――そこは俺が生まれ育った場所だ。今も、数少ない幼馴染や、あの時助けられなかった顔見知りの人たちが住んでいる。
「……これを止める」
神城が笑った。
「そう言うと思った。だが、奴らの防衛網は並じゃない。中央管理庁のサーバーと軍の防衛システムがリンクしてる。正面から突っ込めば蜂の巣だ」
「じゃあ、どうする」
「内部から食うんだよ」
神城は、元Aランクの肩書きと人脈を使って、中枢への潜入ルートを持っていた。
俺の力とあおいの解析能力、そして加賀たちの現場戦闘力を組み合わせれば、ギリギリだが防衛システムの中枢まで辿り着ける可能性があるという。
「リスクは?」と加賀。
「全員、帰ってこれない確率……五割だな」
静まり返るアジト。
その中で、俺は迷わなかった。
「やるしかないだろ。――俺たちは、この国のルールを壊すために集まったんだ」
神城がゆっくりと頷いた。
「いい目だ。お前、名前は?」
「真嶋蓮」
「覚えておく。今日から、お前は俺の相棒だ」
そう言って差し出された手を、俺は握り返した。
力強く、迷いのない握手だった。
この瞬間、リベリオンは“元Aランクの裏切り者”を仲間に加えた。
そしてそれは、Sランクとの直接対決が避けられない未来を意味していた。




