九話
ディアナ・トルマは丘都市ブルトンのウォーカー協会で受付やその他の雑用などをする職員だ。
ブルトンから魔導車で三日の所にある村、スブランが大きな土砂崩れに巻き込まれ甚大な被害が出たと聞いた時、直ちに救援に向かう事が協会で決定された。だが本当はすぐに向かうべきではないと考えていた。
村の人達の事を考えれば直ちに向かうべきなのだが、魔物が最も強く狂暴になる黒い月の日が近いからだ。
月の出てない昼間でも魔物達は黒い月の影響を少しでも受けるので私は反対したがウォーカー長や他の重役の決意は固かった。
危険なルートを迂回し、ウォーカー達を護衛につけるといっても高位ランクに守ってもらえる訳ではない。せいぜい協会から出せる資金ではゴルディーランクが限界だ。
スブランの人達が困っているのは確かでディアナもすぐにでも救援に行きたいとは考えてはいたが、本当に日が悪い。場所や地域、魔物の強さにもよるが黒い月の夜は本当に魔物が強く中位のゴルディーやステイルでも仕事でもない限り不用意に街から出るのはさけるものだ。
一人の職員が反対した所でどうなる訳でもないので素早く用意しできるだけ速く村に着く様に気持ちを切り替え仕事をする。
ただ悪い事は続くもので、ブルトンで主に活動しているゴルディーランクパーティーは任務で出ており、残っていた人達もソロで活動する人や護衛には向かいと断られた。
一つ上のステイルランクのパーティーを傭う事を提案するがステイルランクより上は実力が跳ね上がる代わりに値段も跳ね上がる。
ウォーカーも命をかけて魔物を狩ったりするので値下げしてまで危険な仕事をする者はいない。
「ウォーカー長!流石にシバルランクでは無理ですよ!普段ならともかく黒い月が近いんですよ!」
「いや、安全なルートは通るしシバルの2PTで護衛させるから不安は残るが大丈夫だ。その2PTはもうすぐゴルディーランクだからな。この依頼が成功したらそいつらはゴルディーにあげる」
「……実力的にはゴルディーランクの下位って所ですね」
「ああ。そんな感じだ。俺的にはそれで問題ないと判断しているし、協会からしてもそれで決定だ」
「はぁ……分かりましたよ。私よりそのパーティーの方が実力も経験も圧倒的に上ですからね。言いたい事はあっても文句は言えませんよ」
「俺が行ってもいいが……優秀な部下に仕事を任せるのも優秀な上司の仕事だからな」
「そうですねー。その優秀な部下が死なない様に祈っててください」
「祈る暇があったら俺は手を動かすな。仕事が溜まってるんでな。あとは……そうだな。お前の妹のティアも連れて行け。見習いだだが実力はブロンの真ん中ぐらいだ。今回の依頼が終わったらブロンランクにする。護衛の任務がどういう者か見せておけ」
「お断りします!危険と何度も言っているでしょう!妹まで巻き込まないでください!」
「お前な……ウォーカーの仕事に楽な物があると思ってるのか?そんなものはない。それにウォーカーになりたいと言って頑張っているのはお前の妹であってお前じゃない。いい加減妹離れしろ」
その言い方に血が湧き上がる様な感覚にとらわれ目の前の男を殴りそうになるが、殴った所で何も解決はしないし、そもそも元ミスティスランクの人間に当たる訳がないと冷静になる。
(だけど流石にむかつくので戻ったら友人と結託して仕事を増やしてやろう。うん。そうしよう)
これ以上話をしても無駄だし無駄にするぐらいなら少しでも出発する時間を早めようとディアナは執務室を出て準備を始める。
友人や他の職員に手伝ってもらい魔導車への食糧や衣料品や衣類といった物の積み込みはすぐに終わった。そしてウォーカー達も準備しておりすぐに出発となったので妹に声をかける。
「ティア。断ってもいいけど貴女も行くわよね?」
「はい!この依頼がおわったら見習い卒業ですし!お姉ちゃんが心配なので行きます!」
「はぁ……もういいわ。もし本当に危なくなったら貴女だけでも逃げなさい。足は速いし体力あるんだから」
「シバルランクが2PT護衛についてて壊滅するならたぶん逃げ切れないので私がお姉ちゃんを守ってあげますよ」
これは言っても無駄だと分かったが先ほどのやり取りも思いだし、なんかむかつくのでディアナは妹の頭を小突いてから出発前の最終チェックを行う。
そして出発してから一日目、その日の夜はもうすぐゴルディーになるというパーティーだけあってディアナの心配が杞憂に終わるほど安全だった。
索敵能力、戦闘能力ともに何も問題はなくパーティー同士で連携も上手く言っており、ゲーターやその他も魔物が襲って来ても何も問題はなかった。
ただ二日目の朝に問題が起きた。
攻撃を躱した時に魔物が魔導車の近くにあった岩にぶつかりその破片が運悪く一台の魔導車に直撃し破損する。
こういう時の為に魔導車を整備できる技師も連れて来ていたが、当たり所の運が悪く交換用の部品もないので応急処置を行い今日はその場で野営となった。
野営地で皆と話し合いが行われる。それは村に行くまでのルートの事だ。本来なら安全なルートで明日の昼過ぎには着くはずだったが故障が原因でどうやっても安全なルートだと明後日の昼になる。
それはとても危険で明日の夜は黒い月の日でいくら安全なルートだといっても魔物は強化され活性化する為に思いもよらない凶悪な魔物が出現する恐れがある。
他に時間をかなり短縮できるルートがあるがそこはゲーターやヘルゲーターの巣になっており、一匹ならともかく群れでヘルゲーターに囲まれたらパーティーといえどシバルランクではキツい相手だった。
どちらにしろ危険なのは分かっているがディアナ達、協会職員ではどちらの危険度が高いか判断が難しいのでウォーカー達に判断を任せる。
「そういう訳で皆さんの意見を聞きたいのですが……」
「そうだな……俺達もそれについて話していたが危険なルートを通って早く村につく方がいいと思う。理由だが安全なルートと言っても黒い月の夜なら全ての魔物が強化され本当に危険だ……視界も夜で悪いしな。危険なルートはヘルゲーターはいるだろうが明るい分、視界は開けているし夜じゃないからそこまで活発じゃない。それに一匹ずつならヘルゲーターでも倒せる。シバルランクとは言え2PTだしな」
「なるほど……私達では経験不足なので皆さんの考えに便乗していいでしょうか?」
「ああ。そうしてくれた方がいい。何が出るかわからん黒い月の夜は本当に避けるべきだからな」
「分かりました……どちらを通っても危険なので最短距離で向かいましょう」
「分かった。それで行こう。明日は今日より大変だ。あんたらはしっかり寝て休んでくれ。見張りは俺達の仕事だ」
「ありがとうございます」
魔導車に戻る時に妹の方にふと目を向けると自分なりにウォーカー達から学ぼうと話をしたり見張りを手伝う様子が見えた。
(ウォーカー長が言う様に妹離れしないと駄目ね……)
その選択が正しかったと思えたのは最短ルートに入って少し走った所までだった。
空は晴れているのどういう訳か雷鳴が鳴り響き始める。
それに関しては幸運で魔物達も何かに怯え迂闊に行動するのを控えていた。
そして大きな光と音と供に何処かに雷が落ちる。
(晴れているのに雷が落ちた……)
それから少し走るとゲーターの巣に近づいた様で少しずつ戦闘の回数が多くなっていく。
ウォーカー達の言っていた様にゲーターなら問題無く撃破しヘルゲーター一匹なら難なく撃破し先を急いだ。
ゲーター達も知恵があり襲ってくる度にこちらの戦力を調べる様な戦い方をしてくるので戦う度にウォーカー達の傷がふえていく。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……今の所は問題ないが、巣を抜けるまで持つか……と言った所だな。連中も馬鹿じゃない」
「分かりました……人命最優先で行動します。村の方には食糧の蓄えも残っているでしょうから、魔導車に乗ってる食糧を捨てて軽くし最速で巣を抜けましょう」
「こちらは助かるがいいのか?」
「問題ありません。村に必要なのは医療品がメインですからね。向こうに着いたらウォーカー協会に連絡しまた送らせます」
分かったと返事を魔導車に積んだ食糧を捨てながら先を進む。
その判断は正しかったようで捨てた食糧に魔物が群がり、軽くなった事でゲーターでは追いつけない速度となった。
だが相手も簡単には逃しはしないようで行く分走ったとことで何匹ものヘルゲーターが待ち構えていた。
ウォーカー達の実力も高く一匹、二匹なら問題なかったが群れではどうしようもなく一台、また一台と魔導車は破壊され、ディアナも外へと投げ出された。
その時にゲーターに足を切られ、その傷は骨まで達し這いずる事しかできなかった。
「おっおねちゃん!大丈夫」
迫ってきたゲーターの喉元に剣を突き立て妹のティアが庇う様に現れる。
「ティア……大丈夫じゃないから貴女だけでも逃げて……流石に全滅よ」
ディアナは辺りに目を向けるとヘルゲーター四体に囲まれ、シバルランクのウォーカー達もその凶悪な鎌や顎に一人また一人と倒れていった。
「私一人残っても意味ないですよ!応援が来るまで頑張ります!」
その辺に落ちていた木の棒を拾いガタガタと震えながらも自分も前に立つ妹の背中がとても大きく立派に見える。
「ティア……立派になったね。もうすぐお父さんとお母さんに会えるね」
「……はい!話したい事はいっぱいあります」
最後の一人になったウォーカーの人も倒され獲物が逃げない様にヘルゲーターが姉妹を囲む。
助かる事は諦め死後の世界に先に旅だった父と母に会ったら私はともかく妹は立派だったと話そうなどとそんな事を考える。
すると視界の隅に街道を駆け抜ける一筋の雷が見える。
おかしい
雷は本来、空から地上に落ちる物であり街道の上を流れる物ではないはずだ。
その速度も本物の雷の様に速くあっという間にディアナ達が認識できる距離まで接近した。
人だ! とディアナが思った頃には透き通った美しい声が聞こえる。
「ライトニング」
その声と供に小さな落雷を思わせる程の電撃が発生し四匹のヘルゲーターを飲み込み絶命させる。
地響きと供に捕食者は倒れその姿も音もなく崩れていった。
助かったのかを確認する為に視線を動かすとそこにはとても美しい女性が立っていた。
白を基調とし細かな青と金色の装飾が施されたローブを身に纏い、腰にはそのローブには遙かに見劣りする何の変哲もないショートソードらしき武器を携え、左手には自身より大きな何かの骨で作られたであろう大きな杖を持っていた。
姉妹を見る瞳は青空の様に青くその薄い銀色の髪は少し空の色を映し青く耳と肩の間ぐらいまで長かった。
何より特徴的だったのは整った顔の額には緋色の宝石の様な物があった。
雷を纏うその女性にディアナは目が離せなかった。
「綺麗……」
何に対してそう言ったのかはディアナにも分からなかった。
「◆◆◆◆◆◆?」
その女性が話しかけた事でティアもようやく我に返ったようで慌ててディアナに話しかける。
「おっ!お姉ちゃん!たぶん助かったよ!足!足!足!大丈夫!」
慌てた妹に言われた事で大怪我をした事を思い出すと足に激痛が走りそれどころではなくなった。
「つぅぅぅ……ティア。悪いけどまだ大丈夫だと思うからひっくり返った魔導車から中位以上の回復薬を探してきてくれる……」
「わっわかったけど、ちょっと待ってね。止血しないと」
服を破りディアナの傷口を縛っていると白いローブの女性が近づいてきて傷口を見た後に小さなカバンをゴソゴソと探し始める。
目的の物が見つかったようでそれは小さな小瓶に入っておりその液体をディアナの傷口に振りかけた。
すると傷口はうっすらと発光しすぐに血が止まった後に切られた骨がくっつき、肉が盛り上がった後に傷は消えていった。
「治り方は中級回復薬だけど治る速度は上級回復薬並み……すごいじゃなくて……お礼を言わないと……」
怪我は本当に綺麗さっぱり治っている様で立ち上がっても全く痛みはなかった。
そして頭をさげてお礼を言っていると姉が元気になり危機が去った事でティアが気を失い倒れる。
白いローブの女性が倒れるティアを抱き留めたので倒れて怪我をすると言う事は無かった。
その女性に言葉は通じなかったので近くの木の根元に寝かせるように頼む動作をすると伝わったようでティアをそこに寝かせた。
(ちゃんとお礼も言いたいし……そうだ!村でもしもの時の為に持って来た翻訳機が魔導車に積んであったはず!)
すこし待ってもらう様にジェスチャーすると伝わった様で女性はコクンと頷いた。そして倒れた魔導車に向かうと目的の物はすぐに見つかった。
「私の声が聞こえていますか?」
◆◆◆◆◆
「あの時のソールさんは本当にかっこよかった」
無事に丘都市に帰還し数日が経ち仕事にも復帰し同僚の女性にディアナは愚痴をこぼす。
「今でも十分に格好いいと思うよ?見た目に反して話しやすいしウォーカーの人達とも仲いいし。あんな感じの魔術師って気難しい人が多いのだけれどソールさんはそうでも無いし」
「そうなんだけどそうじゃない……」
「乙女だねー」
亡くなったウォーカーや職員の弔いも終わり村への再救援も終わり少しずつだが助かったウォーカー協会の職員は日常を取り戻しつつあった。
お読みいただきありがとうございます。次回の更新も7時過ぎぐらいの予定。




