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魔法使いは知らない世界を旅する  作者: 絵狐
一章 新世界
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八話

「ティア……あんたはいつも元気だね」


 疲れた様に出てきた女性は炎の様な赤い髪で腕など服の間から見える肌には大きな傷跡が目立ち片目は眼帯だったが残った目は猛禽類の様だった。


「え?ベスパさん……この時間から飲んでたんですか?」


「飲んでない。アホ共が喧嘩を始めたからボコボコにして捨てきて、今やっと片付けが終わったから疲れてるんだよ。で?あんたは何をしに来たんだい」


「宿って空いてますか?命の恩人が安くて安全な宿を探してるとの事なので、元ステイルランクウォーカーが経営する宿に連れて来ました」


 頭を下げるソールをベスパさんと呼ばれた女性はじっと見つめた。


「二階なら空いてるね。少し高いかも知れないが一泊大銅貨一枚の50セルンでどうだい?朝食と夕食は食べるつもりなら出せるよ」


「ありがとうございます。では、まず十日ほどお願い出来ますか」


「分かった。あんたなら問題無いだろうけどウォーカーのごろつき共が寝泊まりする様な宿って事を一応覚えておきな。というかティア。さっきの命の恩人ってなんだい?」


 どういう訳かティアは腰に手を当て仁王立ちになってから自信満々にその時の事を答える。ヘルゲーターに襲われた事、助けてもらった事などなど。


「そういう訳です!それとウォーカー協会の執務室で聞いてましたが、ソールさんは海を渡って来たとの事ですのでむちゃくちゃ強いですよ」


「それですが普通に嘘なので夜にでもディアナさんに伝えておいてください」


 悪びれる様子も無くソールがそう答えたのでティアは少し考える。


「どうして嘘をつくんですか!?」


「それはもちろん人間関係を円滑に進める為ですね。よく知らない人に本当の事を言う必要はありませんし」


「そうかも知れませんけど…ソールさん変な所で冷めてますね」


「はい。温められた空気が空に上がって冷やされたりして雷が生まれますからね」


「へぇーそうなんですね。…………じゃ!無くてですね。はぁ……もういいです。少し変わっているかも知れませんが根はいい人だと思うのでベスパさん。ソールさんをよろしくお願いします。私は帰って晩ご飯の支度をしますので」


 少し疲れた様に歩いて帰るティアにソールは優しく手を振り見送った。


 その様子見てペスパは盛大にため息を付きソールを宿の中に入るように言った。


「ソールさんだっけか?あの娘はいい娘なんだからあんまりからかってやんな」


「はい。ああやって追い返さないといつまで経っても休息が取れませんからね」


「それで?本当の所どうなんだい?あんたみたいな装備を身につけてる人が泊まるような宿じゃないよ。海を渡ったってのは嘘だったとしてもどっかの国のお偉い魔術師か魔導師だろ?」


「ふつーに旅をしてる魔法使いじゃなくて魔術師ですよ。というかベスパさんは元ウォーカーとの事ですが、私の装備って変ですか?」


「変じゃないよ。魔術師はそんな感じの格好してるヤツも多いからね。何というか……高級感が半端ないのと神聖な感じがするんだよ」


「雷光がモチーフの特注ローブですし」


「どっかの国に仕えてる魔術師とか神官ですって言っても通用する格好ではあるね」


「なるほど……では話のネタで私の事を聞かれたら世間知らずのボンボンと答えておいて下さい。それと泊まるのは本当なので十日ほどお願いします。お金の調達が上手くいったら延長すると思います」


「ティアから聞いた話が本当ならあんたなら余裕で食っていけるよ」


「害獣駆除ならやりますけどぶっ殺すだけの生活はもういいかなと思うので他の仕事探します」


「あんた変わってるね」


「はい。たまーに言われます」


 先に十日分のお金を払うとベスパが宿を案内してくれる様で先を歩き二階へと向かった。


 ソールも後を追いながら建物造りを調べる。


 外観は石で作られていたが内部は石でも木でも無くどちらからと言えば砂を固めた様な物で作られ、壁はその上に壁紙の様な物が貼られていた。


 前の世界にも魔法で土を固めて建築物を造る工法があったので、ベスパに尋ねるとやはり似た様な工法で作られているとの事だった。


 ただこちらの世界の建築魔術の方が進んでいる様で壁の中には空気の層を作ってあったりと想像以上に軽くて丈夫だった。


 外観から見えるより宿の中は想像以上に広く一番奥の扉の前でベスパは三角錐でできた鍵を鍵穴に差し込む。するとドア全体が薄く光った後に解錠されドアが開いた。


「今みたいな感じで差し込むと鍵が開くからね。あと鍵穴は何処の部屋でも似た様な物だけど鍵と鍵穴の魔力が合わないと開かないから他の部屋では使えないよ」


「分かりました。ありがとうございます」


 ベスパもこの時間は余裕がある様で一緒に中に入りソールに使い方を説明する。


「灯りを」


 ベスパがそう言うと部屋の壁に取り付けられたランタンの様な物が光りはじめる。


「今みたいな感じで言えば部屋に明かりがつくよ」


「使う時に気をつける事ってありますか?」


「いや。特にないね。まぁ……寝言で灯りをっていえばつくにはつくから鬱陶しいとは聞くね」


 部屋の中にはベッドと窓際に一人用のテーブルがおいてあり、更に奥にもう一つ扉がありその中には浴槽が置いてあった。


「お風呂まであるんですね。桶に湯とか水入れて体を拭くだけかと思っていましたのでありがたいです」


「あんたはいつの時代の人間だよ。今時そんな宿を探す方が難しいよ。使い方だけど青い筒に触れば水がでて赤い筒に触れば湯が出るよ。シャワーを使いたいときはその菱形ヤツを上につけて流せばシャワーになるから好きにつかいな」


 ソールは礼を言ってから使い方を確かめると言われた通りに水や湯がでて聞いたよりはとても使いやすい物だった。


 使った後の掃除方法も魔導具の中に込められたクリーンという魔術のお陰で洗ったりしなくて良いとの事だった。


 ベッドのおいてある部屋に戻ってきて宝箱の様な物を指さして最後の注意を促す。


「その中に私物とか入れても良いけど貴重品は入れないようにしな。ウチの宿ではまだ無いけど、ウォーカーは基本的に荒っぽい奴が多いし馬鹿も多いから盗まれる事もあるからね」


「分かりました。そう言えば魔術とか魔導で収納系の術がありますが使用者が死んだらどうなるんです?取り出せるんですか?」


「あんた……魔術師なのに知らないのかい?」


「はい。世間知らずのボンボンですから」


「取り出せる術はある。持ち主が死んだ場所じゃないと回収できないね。あと例外もあって迷宮だと迷宮に捕られるから帰って来ないね」


 迷宮ってなんやねんとソールは思ったがこの世界においてその迷宮と言うのが一般的な物であれば調べればすぐに分かるので不用意に質問するのを止めた。


「後は何か聞きたい事はあるかい?」


「そうですね。言葉や魔術、魔導の事を学びたいのでそんなのが売っている所があれば教えて頂けると助かります」


「言葉は分かるが……あんたどっから見ても高位の魔術師なのに今更勉強が必要なのかい?」


「はい。私がいた国の魔術とは系統が違うのでその照らし合わせもあります。まぁあれですよ人生死ぬまで勉強と言うヤツです」


 めっちゃ疑われてんなーとベスパの方を見ながらそう思うが疑われた所で別に悪事を働く訳でも無いので気にしない事にした。


 ベスパの方も色々と諦めたのかソールが求めている物が売っていそうな街の通りを教えた。そして夕食の時間等を伝え部屋を出て一階へと下りて行った。


 それからソールは部屋に鍵をかけローブを脱ぎ壁にかけてからアイテムバッグの中から必要な物を取り出して休憩の準備をする。


 窓の近くのテーブルに今いれたお茶を置き見える異世界の街並みをぼーっと眺め、外で遊ぶ子供達と目があうと手を振ったりもした。


「魔物の脅威は多いでしょうが……いい街ですね」


 やる事も考えることもまだまだ沢山あったが夕日が沈みゆくこの景色を楽しんだ。


 ◆◆◆


 夕食にも寝るにも早い時間だったのでソールは少し散歩すると一階にいたベスパに伝え宿を出る。


 向かった先はベスパから聞いていた場所でその通りは武器や道具といった物が大量に並べられている市場の様な場所だった。


 街のそんな場所はソールが元いた世界にも同じ様な場所がありその雰囲気に懐かしや嬉しさを覚え楽しみながら店や露店等を眺める。


「ゲーターの外骨格一式そろってるよー!」


「こっちはオプキュティアの風切り羽だ!」


「今週は研ぎを安くやってるよ!魔導具の手入れ手直しもやってるよ!」


 もう日も暮れているが市場の活気はまだまだ高く外から帰ってきたであろう人達が武具の修理に出したり食材を買ったり素材相手に悩んだりしていた。


 ソールも元の世界にあったような物をみたり見慣れない物ばかり心を躍らせ進んで行く。そして少し暗くなった頃に目的の本などがおかれた店を見つけた。


 道具屋と言うには本当に本ばかりで中には古い木版や石版に字がびっしりと書かれた物が置かれていた。


 店内もそこそこ流行っているようでたぶん魔術師か魔導師であろう格好した人が数人おり、ソールの姿を見ると全員がびっくりするような仕草をしていた。


 (使う物は違いますが……魔法でも魔術でも魔導でも魔を知ろうと思うなら違いが分かるんでしょうね。まぁ……別の世界から来たとまでは分からないとは思いますが)


 そんな事を考えながらウォーカー協会で買った眼鏡をかけて本の表紙を見ると何が書かれているかが分かった。


 文字や言葉の本と地図を探そうとしているとエプロンと眼鏡をかけた人が話しかけてくる。


「あの~……ここは大衆が好むような本や初級魔術や初級魔導の本とかが置いてるお店なので……あなたの様な高位の魔術師様が読まれる本はないと思われます」


 他人から見てそう見えるなら装備を変えた方がよいかと考えるが、知らない世界でしかも防御関係はまともに弱体化してしている現状で装備を弱くして怪我の一つでもしたら目も開けられないなとその事に関しては諦めた。


「いえ。普通に旅をしているだけの世間知らずなので言葉の一つでも勉強しよと言葉の本を探しています。そういう本ってありますか?」


「そうなんですね。失礼しました。えっと……この辺りの国が使う共通語でいいんでしょうか?」


「はい。しばらくはこの辺りにいるのでそれでお願いします」


 その女性の後についていきソールは文字と言葉の本とこの辺り周辺の地図を買った。


 初級魔術や魔導の本も買おうとしたが本が思った以上に高く、財布の中に氷雪系魔法が吹き始めたので次の機会になった。


 本を教えてもらった女性に礼を言って頭を下げ外に出ると夜になっており、昨日の様に真っ黒な空ではなく黒に近い灰色になっていた。


 それでも街の中は安全なようで市場は先ほどより人が多くなり熱気に包まれていた。


 買う物を買いベスパの宿に向かって歩いていると後ろから名前を呼ばれた。


 振り返るとそこにはティアの姉のディアナが小走りでソールの方に向かっていた。


 そして会うやいなや頭を下げてソールに謝った。


「ソールさん。すみません……私に使って頂いた回復薬のお金をお渡しするのを忘れていました……」


「そうでしたね。明日ウォーカー協会に素材の買い取りにいくのでその時にお願い出来ますか?」


「分かりました。ソールさんの回復薬のお値段っていくらぐらいですが私が知ってる物より回復速度が速かったので……高価な物とは思いますが……」


 その話を聞いてソールは少し考えてから答える。


「そうですね……私がいた国の物とこちらの国の物と比べたいので、ディアナが同程度と思う回復薬を用意できますか?」


「はい。ソールさんが良いなら私としては問題ありませんが……大丈夫ですか?」


「はい。回復速度は速いが体に負担がかかる。回復速度は遅いが体に負担は無しとか回復薬にも色々あるのでその国その国の特色を知りたいのです」


「なるほど……分かりました。でしたらソールさんが来るまでに回復薬の種類も纏めて紙に書いておきます」


「ありがとうございますなんですが……昨日の今日で明日も仕事ってウォーカー協会も中々な組織ですね」


「まっまぁ……そうですね。でもソールさんにかけて貰った回復薬か飲んだお茶のお陰かは分からないんですが肩こり腰痛とか全部治ったのでかなり元気です」


「あーたぶんお茶の方ですね。葉で湿布作ったりするとすぐに腰痛とか治りますし」


「なるほど……海の向こうの世界には色々あるんですね。内陸でも知らない場所は多いのに世界は広いですね」


 空を見上げ見知らぬ大地を思い描くディアナにそれをぶち壊す様にソールは告げる。


「妹さんにも言いましたが、昼間のそれは嘘ですよ。旅はしていますが別に海を渡ったとは言ってません」


 そして少し間があった後に妹と同じ様な事を言う


「どうして嘘をつくんですか!?」


 場所も似た様な場所で二人の前には犬型のシルエットをした看板があった。

お読みいただきありがとうございます。次回の更新も明日の7時代予定。

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