45話
戻って来た職員は何度も深呼吸した後にソールの顔をと銀色に輝くウォーカーブレスレットを何度も何度も見比べようやく口を開いた。
「えぇと……ソールさん?」
「はい。ソールさんです」
「……どうしてシバルランクなんでしょうか?」
「どうしても言われても困りますが真面目に答えるなら大きな理由は三つあります」
一つ。ソール自身の戦闘力は高いがこの地に来てまだ間もなく言葉などは分かるが常識や色々な物が足りない事。
二つ。魔物の存在。元いた世界にも魔物はいたがこちらの世界とは生態が違いすぎる事。同種でも外と迷宮で脅威度が異なりそれに対応する知識が足りない事。
三つ。魔術や魔導に関する事。高ランクになり依頼等で他のウォーカーと強制的にパーティーを組む事がある場合。まともに魔術が使えないソールが足を引っ張る可能性があるからだ。今のソールの魔術での戦い方は魔力量に物を言わせてぶっ放すのが基本であり仲間を巻き込む事が恐れがあるからだ。
別の世界から来たとかスキルの事などは伝えなかったが、他の地域から来て未だにこの地域の事をほとんど知らないのでシバルランクが妥当だと伝える。
「なるほど……丘都市のウォーカー長のトーバさんが言ってたのと少し違いますが……話は分かりました」
「ん?トーバパパと知り合いですか?」
「ん?そのトーバパパとは何でしょう?」
「トーバさんのニックネームですね。呼ぶと喜んでくれますよ?」
「次に通話する時はそう呼びます。改めましてソールさん。私がこの協会のウォーカー長のリエル・ランベルです」
そう言って頭を下げるリエルをソールは驚きながら見つめるが確かに言われて見ればそんな感じの片鱗はあったなと少し納得する。
「あれ?ソールさん。あんまり驚いてないですね?他のウォーカー長に比べたら若いのでネタばらしすると皆さん驚かれるんですが」
「驚いてはいますが……すぐに鑑定師連れてきたりこの場にいる他の職員はベテランばかりっぽいですし、仕事も速く珈琲も入れるのが上手いのでただ者では無いと思っていましたので」
「最後のって関係あります?」
「その人の歩んだ道のりが味に出るんですよ」
「そうなんですか!?」
「いえ。今考えただけです」
「トーバさんが言ってた感じの人ですね」
「パパさんは何と?」
ウォーカー長には通信用の魔導具がありそれで近い都市どうしでは定期的に連絡を取っているとの事でその時にソールという魔術師が迷宮都市に行くという話になったそうだ。
「ソールとか言う変な魔術師がそっちに行くから喧嘩売るなよ……ですよ?どう思います?」
「トーバさんが喧嘩売ってますね」
「間違い無いですね。しかも他の所から来る魔術師がどれだけいるんだと言う話ですし……ソールさんが一回でも依頼を受けてくれたらブレスレットで分かる様にはしてたんですけど……一回も受けていないので分かりませんしね」
「まぁでも変な魔術師がうろついていたのは間違いないですけどね」
「いや~ミスティスランクとかマジで頭おかしいので、ソールさんがここに来たくらいだと面白い魔術師さんがきた位しか皆さん思いませんよ?しかもパパさん戦闘力が高いとか言ってませんし」
そう言われたので久しぶりにトーバの顔を思いだして考える。ディアナなティアの間接的な親でもありプロークラブぐらいなら楽勝で殴り殺す様なイメージだが、ソールのイメージは情に脆く他人の意見を尊重し行動できる人だと思っていた。
(余計な事では無いですけど……変な先入観を持たれない様に私の事を伝えていないのならありがたいことですね)
心の中で丘都市のウォーカー協会で仕事をしているであろうトーバにソールは礼を言った。
それから改めてソールとリエルはお互いに挨拶を交わす。ソールもリエルも少しは似ている所もあるのでお互いの素性が分かったからと言って特に付き合い方が変わる訳でも無く同じ様に接した。
「それでソールさん。ステイルランクまで上げていいですか?」
「駄目です」
「即答ですね……戦闘能力を考えてもミスティスに入れたいんですが……ミスティスになるのは試験がありますからね」
「高いのは本当に戦闘能力だけです。薬になる草花でもそうですが、何が役に立って何が危険なのか本当に知識不足なんですよ。そんな人物が高ランクの方が協会の品性を疑われませんか?」
「大丈夫です!そこまで考えてくれているのなら問題ありません!ミスティスとか頭沸いてる奴の方が多いので!そういう訳でせめてゴルディーランクになりませんか?」
断る事は簡単だったがしばらくの間は迷宮都市に滞在する。それに目の前のリエルには世話になっているしこれからも世話になるだろうと考えソールは昇格を決意する。
(よほどの時は降格するかウォーカーを止めればいいのでせっかく言ってくれている事を蔑ろにしなくてもいいですね)
ゴルディーランクになる事を伝え、自身の方に問題があればすぐにシバルランクでもブロンランクにでも下げてくれと頼むと分かりましたと言ってリエルはまた奥へと消えていた。
リエルが戻って来る間、時間があったのでソールは近くにいた別の職員にランクの事を尋ねる。
ウォーカーで一番多いランク帯はゴルディーランクだが、シバルからゴルディーに上がれない者もとても多く、ソールが映像を収めた様な場合はシバルよりゴルディーの方が信用度違いが出るとの事だった。
だから今回の場合でも他のウォーカーに注意喚起を促す場合でもソールがシバルよりゴルディーや更に上のステイルの方が警告としては意味がある。
分からない話でも無いなと納得しているとリエルが走って戻って来る。
その手には金色に輝く腕輪が握られていた。
「ソールさん。お待たせしました。これがゴルディーランクのウォーカーブレスレットです。……まぁ金色なだけで性能は何も変わらないんですけどね」
ありがとうございますと礼を言ってソールがブレスレットを受け取るとリエルがソールを不思議そうに見ていた。
「感じ的にですけどソールさんはもっと嫌がるかと思っていましたが……そうでも無いんですね」
「よほど面倒くさい事になったら断りますが、自分の事を評価してくれる方を蔑ろにするのは少し違うと思いますので」
リエルが納得したかはソールには分からなかったがそれは本人にしか分からないのでそれ以上は何も言わなかった。
そしてリエルが奥に行っている間に買い取りの手続きも終わった様で別の職員が丁寧に袋にお金を入れて持って来た。
そのお金を受け取りソールは自身のアイテムバッグに仕舞った。これでウォーカー協会でのやる事は終えたのでクロステッダの店に行って装備等を売りに行こうと考えリエルの顔を見て思いだし質問する。
「ランベルさん。迷宮都市で魔術の本とか魔導の事が詳しく乗っている本が売られているお店ってありますか?」
「お互いに今日名乗ったばかりですがリエルで大丈夫ですよ!私とソールさんの仲じゃないですか」
どんな仲だろうとは考えたがこの人と仲良くなっても何も問題ないのでソールはリエルさんと呼ぶ事が決まった。
「そうですねー。魔導ならクロステッダさんとガスケットさんっていうドワテラ族の方がこの都市で有名で知識もあるので聞けば教えてもらえると思いますが……二人とも忙しいですからねー……」
そういってからソールの姿を上から下まで何度か視線を往復させる。
「でしたら富裕層が住む地域にある魔術店が一番まともですね。周りはがっつり貧乏人を見下しますけど店主の方は魔術一筋みたいな人であまり人に興味がないっぽいです。魔術や魔導に詳しくてそれらに関する書物を集めて販売しています」
「この薄汚いウォーカーが!とか言って追い返されません?」
「……言いますね富裕層は金持ってる馬鹿なので。というかソールさんは大丈夫ですよ。未だにウォーカーって言われても違和感ある姿をしてますからどっかの国の司祭とか司教とか言っても通じますよ。そのローブとか神聖な感じがしますし」
「じゃあ金持ってる感じには見えそうですね」
「はい。ウォーカーやらなくても食っていけるんじゃね?程度には見えますね。じゃあそのお店までの地図を描きますから少し待ってくださいね。あと一見さんお断りとかそういうのも無いので大丈夫です」
ソールが礼を言っている間に協会からその店までの地図が一瞬で書きあがりそれを受け取った。
そしてリエルがウォーカー長だと言う事を知ったので迷宮の事に詳しいだろうと思いコアを破壊した時に出た気味の悪い叫び声の事を尋ねる。
「あーあれですか……」
「あの声ってコアを破壊すると出る物なんですか?」
「毎回では無いですね……私も又聞きですけど良くそんな話は聞きますね。解明はされて居ないのでそう聞こえるだけと言う人も居れば迷宮には食われた人の魂が宿りどうのこうのとか言う人もいます」
「なるほど……気味が悪いので出来れば聞きたくは無いですね」
「迷宮都市のウォーカー長やっててあれですが……正直、私は迷宮を破壊したいタイプなので……迷宮があれば経済は潤うんですが……なんかこう人知を超えてて気持ち悪いというか怖いんですよね」
その話を聞いてこの人と仲良くなれたのはこういう所が似ているんだろうなと一人で納得する。
「そういう訳でソールさん。無理はしなくていいのでコアを見かけたら遠慮なく破壊してください。あと私がこういう事を言ってたと言うのは内緒で」
「分かりました。次はどうするか決めていませんが……迷宮に潜りコアまでたどりつければ破壊します。私も迷宮がよい物とはあまり思えないので」
「さっすがソールさん。よろしくお願いします」
それから二人でしばらく迷宮の事を話し、リエルが仕事で呼ばれたのでソールも協会を出て先にクロステッダの店へと向かう事にする。
どの時間帯にきても商業地区には人が多くぶつからない様に気を使いながらようやく目的の店が見えてきたのでソールはその店に入った。
クロステッダの店に入るとこの前よりは空いており客寄せの杖になっていた杖も売れたのかショーケースごと片づけられていた。
本当に売れたのかと思いソールが店内をキョロキョロしていると店主のクロステッダがソールに気付き話しかけてきた。
「ソールやんけ。生きとったか?」
「はい。生きてました。ロンカールさんも元気そうで」
「せや元気やで!あのミスティス鋼の杖も売れたしな」
その笑顔は本当に元気そうで、あの価格の杖が売れたのなら元気にもなるかとソールは一人納得する。
「それで?久しぶりにみたけど迷宮にいっとったんけ?」
そう尋ねられたの迷宮を踏破した事などは言わなかったが買い取りや手直しをして欲しい物があると伝える。するとクロステッダの瞳がもう一度輝き奥で話をしようかとソールを工房へと連れて行った。




