37話
食堂でラッツと話しているのは迷宮都市に来る途中に助けたガスケットだった。ソール的には縁も切れた相手だったのでどうでもよく放っておこうと考えたが目があったラッツが話しかけてくる。
「おい。ソール。こいつはウチの店に良く飲みに来るガス……ガスケットって名前のそこそこ有名な魔導技師なんだが……数日前、採取に行ってソールって名前の魔術師に助けられたって話だが何か知ってるか?」
「助けたの私なので知ってますよ」
悪酔いはしていたがその声は忘れていなかった様でガスケットは慌て振り返る。
「ソールか!」
「はい。ソールです。盗人に用事はないので部屋に戻っていいですか?」
ソールの性格上。ある程度の好き嫌いはあるが基本的な人付き合いの感情は大きな起伏もなく平坦なものである。
苦手な人でもそれなりには受け答えはするが、何かを盗んだ等で0を下回ると人として見ないのでかなり冷たい対応をされ最悪の場合は敵と見なされたりもする。
ガスケットの場合はそこまではいかないがあの男一女二のうるさいパーティーよりは話したくない奴と思われていた。
「はぁ!?誰が盗人だ!お前が店に来ないだけだろ!」
貴方ですが?とガスケットを指さした後に、ガスケットの店に行き追い返された時の事などを説明した。
「あいつか……と言うか!それは俺が悪い訳じゃないだろうが!」
「かもしれません。ですが貴方のお店の店員さんが全部悪い訳でもありません。説明してない貴方が悪いのでは?見た目の話になりますが他の人と比べて私の姿は分かりやすいと思いますので」
「そうかもしれないが!そうじゃないだろう!帰れって言われたぐらいで帰んな!」
悪い酔いして怒りやすくなっているのか元がこういう性格なのかはソールに判断がつかないが話せば話すほどにガスケットの顔が赤くなり怒気を纏い始める。
「私も忙しいので帰れと言われれば帰ります」
ガスケットをどうでもいい奴として見ているソールの雰囲気が伝わったのか赤い顔が更に赤くなりそろそろ噴火の兆しを見せ始める。
ガスケットとは付き合いが長いのかラッツが二人の間に入って口論を止めようとする。
「話は分かったからガスもソールも落ち着いてくれ。ガスも助けてもらった金と素材の代金を払えばしまいの話だろ。ソールもガスが気に入らないなら受け取ってから合わなければ済む話だ。だから喧嘩すんな」
ラッツの話を聞いて確かにイライラしていたかもしれないなと反省しお金をちゃんともらってから縁を切ろうと考え部屋に戻るとする。
ガスケットは酔っているのもありラッツにも悪絡みするが怒りも少し落ち着いた様で少しだけ冷静に話す。
「わかった。じゃあ悪いが明日にでも金を取りに来てくれ」
一度嫌いになった奴にはわりと言い返すのがソールの悪い所で言わなくても良い事をここで言ってしまう。
「悪いと思ってるわりには……取りに来いなんですね。私から言わせてもらえればお前が持って来いなんですが?」
何かが切れる音と供にガスケットは赤かった顔を更に真っ赤にし近くにあった酒瓶をソールめがけて力の限りぶん投げる。
ラッツがあちゃーと手で顔を覆うのを確認しながらソールは酒瓶を避けるが、ガスケットはその重そうな身体とは裏腹にその速度は素早く、ソールの顔面めがけて飛び上がり殴ろうとする。
「ちょっと凄い魔術師かもしれんが調子のんなよ!」
それ私の台詞ではとソールが言った後に軽くその攻撃を躱しガスケットの腹に膝蹴りを叩き込み吹っ飛ばす。が……まったく効いていなかった様ですぐに立ち上がり近くのあったテーブルを軽々と持ち上げ武器にし始めた。
ベスパさんの腹より遙かに硬いと考えているとソールに向かってテーブルや椅子が飛んで来る。その威力は人に向かって投げる様な速度ではなく壁にぶっさっさり変なオブジェクトが次々に完成していった。
「ラッツさん。これ修理費どうするんですか?」
「お前は余裕だな……ガスはステイルランク上位と同じぐらい強いって言われてるんだぞ。……そうだな。四分の一はお前が修理費払えよ。お前も悪い」
目の前の暴れる盗人のせいで余計な出費が増えたので腕の一本でも折ってやろうかと思ったが……腰に装備してある薪割り丸を直してもらった恩もあるので気絶させるだけにしようとソールは考える。
投げる者がなくなったガスケットは怒りに任せてソールめがけて突っ込んで来たのでそれに合わせて、ガスケットの顎に的確な角度で右ストレートを叩き込む。
まともに入ったソールの右ストレートは頑丈とはいえドワテラ族の意識を刈り取るのには十分でガスケットはグルンと眼を回しその場でノックダウンした。
殴った感じは本当に石でも殴った様な感覚でソールが右手をプルプルと振った。
「ソール。お前は本当に魔術師か?ふつうドワテラ族をパンチ一発で落とすか?」
「いえ。膝蹴りより力を入れてませんよ。ドワテラ族と言っても人型なので脳を揺らせばたぶん落ちると思ってやってみました」
「やってみました。じゃねーよ!それができる魔術師がいるのがおかしいんだよ!」
「世界は広いというヤツですよ。ナッツさんはこのドワテラ族と知り合いか友人なんですよね?私が殴ったのに追い出したりしないんですか?」
「するか!付き合いも長いし友人と言っても差し支えないが……ガスは酒を飲むとかなりタチ悪いからいつもこんな感じだからな。慣れてるからな。こいつが起きたら金持って部屋に行かせる様に言っておく」
「いえ遠慮します。私の性格上また喧嘩になるので止めておきます。お手数をおかけしますがラッツさんが受け取ってもらえますか?それなりに額があると思うので修繕費にもなると思いますので」
「わかった。余計な事を言うのもあれだしな。……一応伝えておくがガスはお前に感謝してたぞ」
「大丈夫です。私もこの剣を直してもらって感謝していますから」
それ以上はお互いに言う事はなかったのでソールは自身の部屋に戻ってアイテムバッグの中から適当な食べ物を取りだして本を読みながら食べてその日は過ぎていった。
次の日
ソールは朝起きてまだ覚醒しきれてないのでボーとしながら外の景色を見て珈琲を飲んでいると部屋のドアがノックされる。
眠い目をこすりながらドアを開けるとラッツの奥さんが立っておりフォビッツと言うウォーカーがソールに用があるとの事なので呼んで欲しいとの事だった。
心当たりがあったので奥さんにすぐに向かうので少し待っていて欲しいと伝えると分かったと返事をし下へと下りていた。
待たせては悪いのでソールは顔を洗ってからすぐに一階へと下りていった。
一階に下りると奥さんが言っていた様にフォビッツが待っておりソールを見かけると軽く挨拶をしてきた。
「朝早くに悪いな。昨日の夜にこないだ助けた二人が眼を覚ましたと医療院から連絡があったんだ。今から向かおうと思ってるんだけどソールも行かないか?ソールが行った方が話も速いと思うしな」
「分かりました。行きましょう。あの人達も仲間がどうなったか気になっているでしょうし」
近くで掃除をしていた奥さんに礼を言ってからソールとフォビッツは医療院に向かって歩き始める。
ソールは医療院の場所を知らないのでついて行けば分かるだろうと考え、この前から気になっていた事を質問する。
「フォビッツさんのパーティーにシーカーと言う職の方がいましたが、あの迷宮から戻る魔術は誰にでも使えるのでしょうか?」
「そう言えばソールはシーカーを知らないんだっけか。結論から言えば無理だな。魔術師が剣術覚えるみたいなもんだしな。何というかずっと迷宮で狩りしてる奴がシーカーになるんだ。シーカーになっても迷宮にずっと入り浸ると迷宮に嫌われてスキルとしてあの術を覚えるってウチのシーカーが言ってた」
「へー不思議ですね。迷宮に嫌われるというなら誰でも良さそうですけどね?高位の方で行き残ってる人なら超嫌われそうな気もしますが?」
「ほんとだよな。私もそう思う。ウチのシーカーが言うには嫌われるのにも才能がいるって言ってからそういう連中は迷宮に嫌われる才能がないんだろう。迷宮も元はマボロマっていう魔物と聞くしな」
「シーカーがいると戻る時の危険が減るからいいですよね」
「そこは便利だけど下手したらスキルを奪われる危険もあるからそういう意味では怖い。一応はシーカーの数はそんなに多くないから迷宮都市のウォーカー協会とかは手厚く保護しててくれる。が……他の都市は危ないってきく。実際に法とか気にしないヤツも多いしな」
「なんやかんやで迷宮都市って治安いいですよね」
「一番荒くれ者のウォーカー同士が仲いいってのはあると思う。スラム街の奴等でもウォーカー襲って金取ろうってヤツはいないからな」
「なるほど。先輩達のお陰ということですね」
「そういう事」
「でしたらフォビッツさんもせっかく仲の良いウォーカーどうしなので先輩からお金を巻き上げないようにしないと駄目ですね」
「うっ……でもお金は欲しいだろ!」
「ある程度にしておこうって話ですよ。フォビッツさんのお陰で助かったのも間違いないですから」
医療院に着くとフォビッツが受付で説明をしウォーカーブレスレットを提示して欲しいと頼まれたのでソールは銀色、フォビッツは金色のブレスレットを渡す。
「はぁ!?ソールお前シバルランクなのか!……あれかブレスレット壊したバターンか!?」
「普通にシバルランクですよ?」
「三十階にシバルランクのソロが居てたまるか!」
「医療院ではお静かに!」
受付の人に二人は怒られた後にブレスレットは返却され、その人の案内され医療院の中を歩き進んで行く。
丘都市の医療院とは大きさも似た様な物だったがこちらの方が人が多い分混雑し何処も怪我人や病人だらけだった。
傷口からキノコが生えていたり腕に小さな手や足などが生えていたり苦悶を浮かべる痣ができていたりソールが知らない病か呪いかは分からなかったが多かった。
そして案内された部屋につくと受付の人はここですと言って戻って行きソール達はノックをしてからその部屋にへと入って行く。
中に入ると二人ともちょうど起きていたのでソールもフォビッツも軽く挨拶をすると向こうもソールを思いだした様な反応をした。
「軽く話は聞いていたが……迷惑をかけたな」
「迷惑とまでは言いません。助けられる命なので助けたという話です。ウォーカーはウォーカーどうし仲良くしろって話ですし」
「そうだったな……ある程度は覚えているがどうなったかどうやってここまで来たか教えてくれるか?」
ソールは頷いてから自身が三十二階で体験した事を伝えそこから三十階まで戻ってフォビッツに協力してもらいここまで戻って来た時の事を詳細に伝えた。




