35話
太陽が真上に近づく頃。ソールはようやく目を覚ます。眠い目を擦ってシャワーを浴び眠気を飛ばした。
それから宿の食堂に行って朝食を食べながら今日やる事を考える。と言っても迷宮に向かう訳では無いのでウォーカー協会に行って買い取り査定をしてもらい、できたお金で宿の更新と濡れた物を乾かす魔導具を探すのが本日の予定だった。
宿の方は更新しなくても問題は無さそうだったが迷宮に潜って帰って来ると五日ほど経っていたので気をつけておかないと戻って来れば宿無しになる可能性があるので更新しておこうとソールは考えた。
自分が元いた世界では味わった事のない味の温かいシチューを飲んでいると、食堂に大量の食材を運び込むラッツと目があった。ソールが頭を下げると運び込み終わったラッツがソールの元にやって来る。
「ひさしぶり。迷宮は楽しんでるか?」
「はい。色んなアイテムが出るので楽しいですが……土砂の迷宮の二十階層からが鬱陶しいですね」
「あーあそこか。水っけ取るような魔導具がないと確かに鬱陶しいときくな。二十階層周辺で狩りしてるのか?」
「今の所は問題ないので下りられる所まで行ってみようと思います。下りてるのか上がっているのかは分かりませんが」
「何階まで下りたんだ?」
「今は三十二階ですね。まだ行けたんですがウォーカーのパーティーが壊滅してたので連れて帰ってきて今に至ると言う訳です」
ソールが三十二階まで行ったと聞いてラッツはとても驚き何度も確認するが自分が知っている情報とソールの話が一致したので更に驚き感心する。
「お前さんは凄いウォーカーだったんだな。と言うかそこまで潜れるなら何でウチに泊まってるんだ?高級店でも余裕だろ」
「こんな感じの宿が好きなので。高い所も良いかも知れませんが数日で飽きますし」
「そんな感覚は俺には分からんが、ちゃんと金払ってくれるならいい客だからいいか」
それからしばらくラッツと話をし、ソールはウォーカー協会へと向かった。
協会に入り迷宮の品などを買い取りしてくれる所に向かうとウォーカー達であふれかえっていたので自分の番がいつになるか分からなかったので前に訪れた素材の買い取り場へと向かった。
迷宮にいる魔物はアイテムは落とすが牙や甲殻といった物は落とさないので、迷宮が主体の迷宮都市では魔物の素材の取引は本当に少ないので職員達は談笑したり掃除したりとわりと暇そうだった。
そんな掃除をしている職員の中で前に買い取りを担当してくれた職員がソールに気が付き近寄り要件を尋ねる。
「どうも魔術師さんこんにちは。今日はどういったご用件ですか?」
「確か前に来た時に迷宮の品も買い取りしていると聞いたので来ましたが……査定してもらえますか?迷宮の受付は凄まじく混んでいますので」
「全然大丈夫ですよ。こっちもあっちも名称が違うだけでやる事やれる事はほとんど同じなので!こっちの方が少し遠いので皆さんあっちにいきますけどね。査定と言う事ですが何処までやりますか?訳の分からんアイテムとかも出てるなら鑑定等もしましょうか?」
でたアイテムのほとんどがどういう物かソールには分からなかったので、その事を伝え紙か何かに名称と効果をまとめてもらえるかと尋ねると快く了承してくれたのでソールは礼を言って、職員の指示に従って迷宮で入手した全ての装備を取り出した。
「……けっこう潜りましたね。呼び水の杖がある。魔術師さん二十階とか三十階ちかくまで行きましたか?」
「三十二階まで行きましたが……見て分かる物ですか?」
「この杖は呼び水の杖と言って使ってもらえれば分かるんですが魔力を流すと水弾が飛ぶ杖なんですよ。土砂の迷宮の二十階代に出るので特産品みたいになってますね。威力も高いのでシバルランクとかゴルディーランクの方が水に弱い魔物相手に戦う時は好んで使います。……ぱっと四、五本は見えますからけっこう倒しましたね」
「頑張りました」
「後は……ん?見慣れない鎧がありますね?」
職員が持ち上げた鎧はプロークラブを倒した時に出た宝箱からでた物だったのでプロークラブを倒したとまでは言わなかったが宝箱から出たと伝えるととても驚かれる。
「二十階層周辺で宝箱が出た……魔術師さん。もしかしてプロークラブとか言うでっかい蟹を倒しましたか?」
ソールにこいつさっきまで掃除してた癖に何故分かるんだろう? 思わせた。
職員の方が迷宮に関しても知識が豊富なので誤魔化しは効かないなと思ったので素直にプロークラブを撃破して宝箱から出たと伝えた。
「やっぱりですか。他の迷宮ならその辺にポンッと出現するんですけど土砂の迷宮は蟹とか番人を倒さないと出ないんですよね。ちょっと鑑定の人とか暇そうな人集めて来ますので待っててくださいね」
暇そうな人なら周りにいっぱいいると思ったら本当に暇だった様で周りにいた職員達も集まり始め迷宮で手に入れたアイテムを分け始める。
どう見ても石、どう見ても海藻なども分けられ、鑑定師を呼びにいった職員が戻ってくる頃にには綺麗に並べられ鑑定されやすい様になっていた。
「皆さんありがとうございます。さてと魔術師さんお待たせしました。では鑑定の方をやっていきます」
「お願いします。そう言えば迷宮で拾ったお金って使えるんですか?その袋に入った物ですが」
迷宮ででたお金は元はウォーカーや誰かが使っていたものなので使えるとの事だったが。偽造した物を使うと捕まるのでもしもの事を考えて迷宮から出たお金は鑑定した方がいいと教えてくれた。
そして鑑定師と呼ばれる人に頼み袋に入ったお金の近くに何かの魔術を描く。すると一本の線が輪となりゆっくり上下に移動しお金を調べ始める。
ソールには分からなかったが結果はすぐに分かった様で鑑定士は使っても問題ありませんよと言ったのでソールはお金を手に取ってアイテムバッグの中に仕舞った。
そして職員が鑑定士に頼み液体や武具といった物の鑑定を始め少し時間がかかりそうだったので職員にソールは質問する。
「ふと思ったんですけど。鑑定士の方が間違ったり嘘を言った時ってどうなるんですか?例えばですけどさっきのお金が実はニセモノで相手を貶めようとして本物って嘘をついた時とか」
ソールの質問に眼鏡をかけた職員さんは真面目な顔つきになって少し考えた後に答える。
「そうですね。人がやる事なので間違える事もあります。このウォーカー協会でも年に数回はは間違ったりします。鑑定が間違えると言うよりは鑑定した結果を書く時に間違える事がありますね。魔術師さんが言ったような事も数年前にありました。それは協会ではありませんけどね」
「なるほど」
「ちゃんと鑑定してらおうと思うと協会が一番マシなのは間違いないですね。協会で働く鑑定士の方々は立場もかなり上ですので。街で鑑定の仕事をやってる方々が悪いとは言いませんが何処かしらから手に入れたアイテムの情報が流れていますからね。スラム街で鑑定してもらうと高い上に襲われるって話ですよ」
「じゃあ協会ならある程度はプライバシーを守ってもらえるって事ですか?」
「ある程度は……ですけどね。人の話は止められません。ですけど人が多いので嘘と本当が混じって訳が分からなくなるので皆さん気にしないんですよ。プロークラブを一人で倒したなんて毎日聞くような話ですからね」
「実際の所、あの蟹ってどんなもんですか?」
「……そうですねー。ステイルランクなら一人でいけるかな?と言った所ですね。もうすぐステイルにあがるゴルディーなら十五人も集まればいけるかと」
「じゃあ……腕試しに来るような相手ではないんですね」
「そもそも迷宮で腕試しがナンセンスですね。何かあったんですか?」
迷宮で従国士を見た事とプロークラブと戦って数名が命を落とした事を伝える。
すると協会側も迷宮に潜った従国士を確認していた様で入る前に外にいる魔物とは違う等と言う事は忠告していたとの事だった。
「迷宮で従国士の方々が亡くなると嫌がられるんですよ。従国士の方々は強い人達に着いて各地で経験を積むので迷宮で亡くなると知らない魔物が出始めるんですよ。土砂の迷宮しか知らない人が亡くなっても魔物は増えたりしないと聞きますけど」
三十二階でステイルランクのウォーカーパーティーが壊滅し二人ほど手当をし戻って来た時の事も伝えるとお礼を言われた後に十中八九亡くなった従国士の方々が原因だろうと言い、土砂の迷宮はほかの迷宮よりも人が死ぬとすぐに新しい魔物がでる事で少し有名だと話した。
「ここしばらくは土砂の迷宮で死者が出たとは聞いていなかったので注意喚起を流しておきます」
職員から迷宮の事を聞きソールも迷宮であった事を伝えていると全ての鑑定結果が終わった様で鑑定士から数枚の紙が渡され、そこには拾ったもの詳細などが書き込まれていた。
「……この石とか海藻って捨ててもいいんですか?」
「石は大きさがほぼ同じなので魔術師さんが腰につけている魔導具の弾にもなりますので持っておいても良いですよ?と言うか知って持っていたのでは?」
「いえ。始めての迷宮なので拾っておこうかと。海藻は?」
「湯がいてサラダにすると美味しいですよ?持ち込めば宿でも買ってもらえます」
持ち込むのも面倒だったので職員にたべますか?と尋ねるといるとの事だったのでソールはその海藻を分けて職員に手渡すと喜んでそれを受け取った。
鑑定士から書いて貰った紙を見て確認していく。回復薬が初級、中級、上級。魔力回復薬、毒消し薬、麻痺消し薬と様々な物を手に入れていた。
怪我の治療や異常状態を治す回復薬の類いはいくらあっても問題はないのでその全てをアイテムバッグの中に入れる。呼び水の杖も一本だけあれば問題はないのでそれもアイテムバッグの中に仕舞った。
出てきた防具はステイル合金でできていると書かれていたがどう見ても剣士用だったのでこの協会で売ろうと考える。
神をめくって読み進めていると使えそうな物はあるが必要な物は無さそうだったので売って濡れた時に乾かす魔導具を買おうと考えた。
そして最後のページにプロークラブから出た杖の事が書かれていた。全てがミスティス鋼で作られ、魔力強化の魔導が組み込まれているとの事だった。
「その杖はけっこう凄い杖ですよ。ミスティス鋼自体が珍しいのもありますがそれに魔導が組み込まれていますから。何処で作ったものかは分かりませんが……かなり高いですよ」
そう言われたのでソールは手に取り魔力を流すと杖全体がゆっくりと発光し始め、ソールの魔力を高めた。
だが……ソールが持っている竜王の逆鱗から削り出し天使が召喚した異界の天雷蟲の触覚を神鳴りで融解させ世界の名工達が作り鍛えあげた特注の杖に比べれば失礼な話だがゴミも同然だったのでソールはその杖も売却する事に決めた。
「……え?この杖売るんですか?本気で言ってます?オルティア知りませんが……ミスティスランクなら使いますよ?」
「……戦場では自分の手に馴染んだ物を使いたいので」
「もうあれですね。その考えが高位ランクの考え方ですね。分かりましたが……買い取りはこの杖以外にします。この杖は持ち込んで買い取ってもらった方がもっと良い値がつくと思います」
買い叩かれる心配があるのではないかとソールが聞くと職員は紙に店の名前を二件ほど書き大雑把だが場所も書いた。
「この二つのお店なら適正価格で買い取ってくれるとおもいます。絶対ではないですけど評判はいいので、あとウォーカー協会ともすこし付き合いがあるので協会の商会と言ってもらえればと思います」
礼を言ってその紙を受け取って確認すると一つはガスケットの店だったので実質的に行く店は一つとなった。
余計な事は言わずにソールは礼を言ってその他のアイテムを全て買い取ってもらい協会を後にしてその店へと向かった。
その途中で丘都市にいる時に迷宮都市には特殊依頼と言うのがあると言うのを思いだしたので次に協会に行ったら聞いて見ようとソールは考えた。




