33話
二十階層を抜け二十一、二十二と続きソールは二十五階層に達していた。ただその歩みは順調かと言われればそんな事はなく今までの階層に比べれば少しゆっくりとなっていた。
魔物が強くなったと言うのも少しはあるが水の中に次の階層に進む黒穴があったりした為に濡れたローブを乾かしたりするのに手間がかかっていた。
そして二十六階への入り口も発見するがまた川の中にありソールをげんなりさせた。
(はぁ……まぁいいんですけど)
元の世界にあったローブだと水の中でも会話出来たり濡れない物があったりもしたが、アイテムバッグの中にはそういう物は一切入って無かったのでため息をついてから川の中に潜り二十六階へと進んだ。
二十階層に入ってから感じていた事だが目に見えてウォーカーが減っていた。ゴルディーランクのパーティーをたまに見かけるぐらいで他のランク帯はまったく見なくなっていた。魔物が強くなったのと相手はほとんど水中にいるから戦いにくいのだろうなとソールは考える。落とすアイテムなどがうまくないと言う理由もあるかもしれないが迷宮初心者のソールにはそれは分からなかった。
二十六階へと辿り着きずぶ濡れになったローブを脱いで絞り近くにあった木にかける。そして魔導具で火を発生させて乾かし始める。
急いで進む理由もないので二十階層に入った内はこの動作も楽しく思えたが慣れてくるといい加減鬱陶しくなってくるのでソールもため息をつく。
そのタイミングで火に引き寄せられる様に魚のくせに首がある魚が現れソールめがけて水鉄砲と言うには威力がおかしい水撃を放つ。
ソールがこの階層でうっとうしく感じるのはこの首の長い魚が原因だった。十階層台で使用していた魔術盾ではこの魚の水鉄砲は防ぐ事はできなかったので更に魔力を込めて盾を術式を書く必要があったからだ。
直撃したことはなかったが身体強化などの魔法が使えないソールがまともに食らえば細い腕は簡単に吹き飛ぶからだ。
ソールの特注ローブまでは貫通しないがそれを試す気もないので強固に練り上げられ盾と槍を書き上げ魚を倒していく。
そして皮の中で倒すと出てくるアイテムも水の中に落ちる訳でさらにソールを不快にさせる。
拾わなくても問題はないが剣や盾の様な物が出るとどういう物か気になるので水の中に入るが入ったら入ったで他の魔物が襲ってくるのでとても鬱陶しくこの階層は仕上がっていた。
一度、この階層にブチ切れて水辺に雷を落として一掃しようかとも考えたが遠目にウォーカーが戦っているのが確認できたので川に魔法をぶっ放して一掃しよう作戦はなくなった。
「この階層に私しかいないなら問答無用にでぶっ放したい所ですね……まぁ同じ二十階層でもしあわせの箱を探しに行って遭遇する白いクソザルに比べれば可愛いものですが」
文句を言いながらローブや濡れたブーツを乾かす。待っている間は雷の触角に魔物が引っかかる事もなかったので乾くまでの間、迷宮の地図を取り出し入り口を探した。
そして運の良い事に二十階層のこれより先は川の中に入り口が無い事が書かれており川で落ちたアイテムさえ無視すれば濡れる事は無さそうだった。
「迷宮の魔物って不思議ですよね。見かけたら全力で襲ってくるだけなのですが……今みたいに火をつけると反応したり水の中に入ったりすると襲ってくるのである程度の知恵はあるのかもしれませんね。もしくは元の魔物の戦い方を反映させてるだけか……」
自分ひとりで考えても分かる訳がないのでようやく乾いたローブなどを身につけてソールは次の階層に向かった。
濡れなくて良い、しょぼそうなアイテムなら水の中に落ちても無視をする。そう思っている時に限って気になる物が落ちるのは何処の世界でも同じな様で川の淵などに杖などが落ちたりしてまたびしょ濡れになりながらソールは取りにいった。
流石に一階一階乾かすのも面倒くさくなってきたので、自身の魔法の余波で濡れていると少しビリビリするが我慢して先に進んだ。
ソールの手に入れた杖は魔導に関する杖だった。杖の先端を標的に向けて魔力を込めれば圧縮された水の玉が打ち出されるという物で込めた魔力で威力が代わる代物だった。
ただ元からこういう物なのかは分からなかったがあまり耐久性は高くなく魔物を殴れば杖は折れ魔力を込めすぎると杖が爆発した。淵にいる魔物を倒せばたまに落とすので数に少しの余裕はあるが今の所は戦闘に使える物ではなかった。
戻った時にでも詳細を聞いて使えそうなら一本は持ち使えないなら売却しようと考えた。
そして川の流れが速い場所やよく滑る場所に気になるアイテムがよく落ちる事にイライラしながら進んで行くとようやく三十階に辿り着く。
そこは休憩場所なのか入り口を抜けると森と少し遠くに大きな湖の様な物が見え三十一階への入り口もすぐ近くに見えた。
ただ他の他の階層と違うのはここで休憩を取っているウォーカーはとても多く。湖の近くには見慣れない騎士の様な人達もいた。
この階層では水の中以外は魔物はいないという事が雷の触角で分かったのでソールは他のウォーカーの邪魔にならない場所でまた服を乾かし始める。
火をつけて少し冷えた体を温めながら地図を見ていると一人のウォーカーが話しかけて来た。
「そこの魔術師。ここまで来られたなら回復薬とか余ってないか?迷宮で落ちたのでもかまわん」
迷宮で落ちた回復薬がどれなのか分からないのソールが訪ねると瓶に入った青い液体だと男は言ったので何本か拾ったなを思いだしソールはそれを取り出し見せると男の目的の物だった。
「悪いがそれを一本か二本売ってくれないか?戻るにしても怪我人がいるんでな」
それが回復薬ならけっこう拾っていたのでソールは二本ほど投げて渡し。男は難なくそれを受け取りソールに礼を言う。
「悪いな。いくらだ?」
「お金はいいです。代わりに情報が欲しいので。あの湖の近くにいる人達ってどういった人達なんでしょうか?」
「それでいいなら俺はいいが……あれは従国士だな。見るのは初めてか?何処にでもいると思うが」
「見ての通りの箱入り娘ですからね」
「箱入り娘が手際よく野営の準備ができるか。ここには陸地には魔物はでないその代わりあの湖をもっと奥に行くと一匹のデカい魔物がいる。従国士はああやってたまに迷宮に来て新人の腕試しをするんだ」
「へー……その魔物って強いですか?」
「ここの最下層にいるゴーレムよりは弱いと聞くが……地の利は向こうにあるからな。こっちの方が強いって言う奴もいる」
「なるほど。怪我人がいるのに長々とありがとうございました」
「おう。と言うかお前この階層まで来られるのになんで火で服を乾かしてるんだよ」
「宗教上の都合で他の魔術が使えませんので」
ウォーカーの男は何言ってるんだと行った後に走って戻って行きすぐに何かを持ってソールの元に帰ってきた。
その手には何か四角い物を持っていた。それをソールが乾かしていた服や靴やソール自身に向けて魔力を流す濡れていた物の水分が一瞬で吸収されすぐに乾いた。
「え?その便利な物はなんですか?」
「脱水の魔導だな。ここの階層に来るなら買って来た方がいいぞ。楽だしな。水よけの魔導よりもこっちの方が安い」
「そんな物あったんですね。道具屋さんのおすすめには入ってなかったのに……」
「お前さんが何処で買ったかは知らんが普通に高いし売ってない店も多いからな。他に聞きたい事はあるか?」
「いえ。大丈夫です。情報ありがとうございました」
「それはこっちの台詞だろ。あーそうそう後はこの階層で寝泊まりして次の階層に行くなら気をつけろよ。寝ている所を狙って盗みを働く奴もいるからな。殺してもいいが殺すと迷宮が育てからその辺は個人の自由だ」
「まぁでも。後腐れないようにやっておくのが良さそうですね」
「見た目に反して物騒だな。戻る時なら手足を切ってだるまにして連れて帰って奴隷商に売るも儲かるぞ。まぁ気をつけてな」
手を上げて戻って行く男に乾かしてもらった礼を言って見送った。
たき火に当たりながら美味しくない迷宮食を食べ口直しに珈琲を飲んでゆっくりしていると従国士と呼ばれた人達が動き始めた。
その人達を眼で追うと船で湖を移動する様な事はせずに水辺を歩きながら奥の方へと消えていった。
従国士と呼ばれた人達がどういう戦い方をしてどれほどの強さなのか興味があったソールは森の中を通り気付かれない様に遠くからその戦い方を見てみようと行動する。
この三十階の森の中は思った以上に深かったが雷の触角で従国士たちの位置を確認しながら進んで行く。
二十人近くいた従国士達が湖のが一番大きく見える所で止まったのでソールは全貌が見やすい様に近くにあった大きな木に上った。
上から見ると分かりやすく従国士達は陣形を整え盾を持つ物剣を持つ者杖を持つ者に別れる。
湖から大きな泡が現れ大きな波と供に家よりも大きな蟹の魔物が姿を現した。
「お?魔力の多さはクイーンゲーターやオプキュティアのスキル持ちと同じぐらいかそれ以上ですね……前からよく思う事ですがこの世界の魔物は本当に強いですね」
巨大な蟹と戦闘が始まり蟹の魔物が圧縮された泡を吐き岩を切断したのを見て戦っている人達は大丈夫なのだろうかを心配する。
その吐かれた泡は可燃性でもあった様で泡が固着し時間が経つと連鎖する様に爆発し始める。
従国士も事前情報でその事は知っていた様で盾を持った者達が爆発から仲間を守り怪我をすれば魔術で治療する。
だが従国士が蟹を倒すレベルに到達していないのか蟹が強いのかは分からなかったが段々と従国士が不利になり始めた。
距離を取ろうとすれば泡にやられる。逆に剣士達が距離を詰めて攻撃しようとすれば立派なはさみが彼等を襲った。
そのはさみが泡以上に厄介で触れただけで爆発しダメージを与え、挟むと爆発の勢いで盾などを簡単に切断した。
これは流石に無理だろうとソールが考えていると従国士も無理だと判断したようで煙幕を焚き撤退の準備を始めた。
だが……不運にも数人が泡に巻き込まれ一人が挟まれる事態に陥った。
そして泡が爆発し一つだったものが二つになり戦闘は終了した。
蟹はまた湖に潜っていき先ほどまで人だった者達は迷宮に沈んでいくように吸収され元から何もなかった様に綺麗に消えていった。
「流石に……ここからだと間に合いませんね」と言って手を合わせてなくなった従国士の冥福を祈った。
もう見る物も無くなったので先ほど休憩していた所まで戻るとまだ空いていたので、先ほどお同じ様に休憩を始める。
従国士達も戻って来た様で詳細までは聞こえなかったが湖の近くで大きな声を出しある者は涙を流しある者は喧嘩をしていた。
その光景を見ていると回復薬を渡した男が他に仲間を四人連れてソールの元にやって来て礼を言いこれから都市に戻るのだと言った。
「お前さんのお陰で戻れる。先に進むなら気をつけろよ……何処かに行ってたみたいだが従国士が戦ってるのでも見てたのか?」
「はい。でっかい蟹と戦ってましたね。結果は戦術的撤退でしたね」
「プロークラブって名前だな。倒せばけっこう良いアイテムが出るとは聞くが……倒すなら陸に上げろよ。あそこはけっこう深いから回収出来ない事もあると聞く」
「ういっす。皆さんもお気をつけて」
命の問題があるなら別だがウォーカーと従国士はお互いに関わらない方が身の為と言い残してウォーカー達は二十九階へと戻って行った。
冒険者の時も王国を守る騎士とはあまり仲が良くなかったのでこの世界でもそんな物かとソールは納得し、プロークラブと呼ばれた蟹の魔物をどう倒すか? を考えた。




