32話
今日も迷宮に潜るので宿の食堂で朝ご飯を食べていると宿の主人であるラッツに話しかけられる。
「おはようさん。昨日は迷宮にいったんだろ?どうだった?」
「おはようございます。一番戸惑ったのは魔物が外とは別物という事ですね。後は時間に気をつけないといけないといった所ですね。十階までは行きました」
「見た目通りに十階ぐらいなら問題無く進むんだな。魔物に関しては外からきた連中は別物ってよくいってる」
「そうでしたか……あと今日からしばらくは迷宮に潜ろうと思うので宿の延長ってできますか?」
「できるぞ。朝飯食ったら受付に来てくれ。食糧はどうする?迷宮食を買ってあるならいらないかも知れないが……口直しにでも何かあった方がいいぞ」
「まだ食べた事は無いのですがあれってそんなマズイんですか?」
「そうだな。俺的にだがゲロの方がマシってレベルだな」
「それって食糧って言うんですかね?」
「肉食って回復薬と魔力回復飲んだ方が美味いが迷宮でゆっくり飯とか食えんだろ」
「それもそうですね。では三日分ほど食糧を用意してもらえますか?」
分かったとラッツが返事をする頃にはソールも朝食を食べ終わっていたので二人で受付に行き宿の延長料金等を支払い三日分の食糧を受け取った。
そしてその足で迷宮に向かっても良かったが時間の感覚がイマイチわかりにくいのでウォーカー協会に行って迷宮時計の事を尋ねる。
すると普通に協会でも売っていたので前にウォーカーから見せてもらった様な外の時間が色で分かる時計を買い胸のポケットに仕舞った。
買う物も買ったので本格的に迷宮に挑もうとした所で前に話しかけられた兵士に止められる。
「これから迷宮か?」
「はい。迷宮ですね。止められたと言う事は何か面白い話でも?」
「お前は目立つから止めただけ特に用事はない。面白い話では無いが土砂の迷宮で不自然に雷が落ちたり地面が融解した所がでたそうだ。そんな魔物は本来いないはずだがもしかしたら下層で高位のウォーカーか誰かが死んだのかもしれんから気をつけろよ」
ソールは心当たりしか無かったが私がやりましたと言う訳にもいかないので気をつけますとだけ言って手を振りそそくさと迷宮の中へと入って行った。
迷宮に入ると相変わらず異世界に来た時の様な感覚が体を通り抜け昨日と同じ岩場が現れた。
浅い階層にいる戦闘に不慣れなウォーカー達を邪魔しない様にソールは足早に浅い階層を抜けていく。
一度通った事もあったので十一階層までは昨日の三分の一の時間でたどり着く事ができた。
魔物の強さは十階に入ってからは同じ様な物だったので油断しない駆け抜け二十階への入り口へとたどりついた。
二十階の入り口にたどり着くとシバルランクのウォーカーは存在せず確認できるほぼ全てのウォーカーがゴルディーランクだった。
ただ全員がパーティーでここに望んでいるようでソロでここまで来たソールをおかしな者を見る目で見ていた。
体力も気力も魔力も余裕があったが迷宮時計を確認するとを表す黄色から夕方を表すオレンジ色に変わっていたので目に見えない疲れがある事も考え少し休憩を取る事に決めた。
他のウォーカー達が休憩している場所で空いている所を探しアイテムバッグの中から買った結界を取り出し地面に突き立てて魔力を流す。すると周りと同じ様に薄い膜に覆われた様な結界に追われたのでソールは石の上に座り一息ついた。
お湯を作る魔導具で湯を作りアイテムバッグの中から必要な物を取り出し食事の準備をする。
無理に食べなくても問題はなかたが糞マズイと好評の迷宮食も取り出した。
何かを長四角に固められた迷宮食の匂いを嗅ぐが匂いは特に何も無かったので意を決して口の中に放り込む。
「……確かに不味くて不味いんですけど食べられる物が無い時なら食べられますね」
その味は米を洗剤で洗い動物の血で炊いてチョコレート様に甘い物を甘辛くし固めた様なそんな味だった。
ソールが冒険者だった頃に一度遭難したことがありその時は本当に食べる物が無く植物の根っこを茹でて食べたり毒を持った魔物の肉を無理矢理調理して食べた事があったのでその時に比べれば全然食べられるなと言う感じだった。
(遭難した時にこれがあったら普通に食べてますね。美味しくはないですけど)
そんな事を考えながら完食し後味も最悪なので口直しにアイテムバッグを漁り少し甘い物を食べもう少し休息を取る。
◆◆◆
休憩も終わり二十階へ向かう為に立ち上がるとそのタイミングでソールや他のウォーカー達がいる方向に向かって走ってくる三人の気配を雷の触覚が捉える。続いてその三人を追いかける様に数匹の魔物がいた。
休憩しているウォーカーの中には気がついている者もいれば気がついていない者もいたのこちらに向かって逃げてくるのであればソールは倒そうと決めた。
岩の角を曲がってきた所で三人は顔をだしリーダーであろう男性が大きな声をあげる。
「すまない!倒しきれない魔物に囲まれた!強力して欲しい!」
その声の後にヘルゲーターよりは小さいが牛よりは大きなヤドカリが五匹ほど現れる。
その魔物も姿を見て休憩していたウォーカー達も立ち上がるが、ソールはここに来るまでに何匹も問題無く倒していたので少しはマシになった手つきめ魔術を描く。
一つは走っていた者達を守る大きな盾。もう一つはヤドカリを貫き殺す為の大きな槍。
振り上げられたヤドカリのはさみが三人を切り裂くより先に盾は発動し甲高い音と供に身を守った。
そして描かれた大きな槍は強固な殻ごとヤドカリを突き刺し、一匹また一匹と屠っていった。
三人が呆然とソールを見るなか等の本人は倒したヤドカリからでた銛や海藻などをアイテムバッグにしまい込み全てを収納し辺りに危険が無いのを判断してから三人に話しかける。
「大丈夫ですか?」
それでようやく我に返ったのか三人はすぐに立ち上がった。そして騎士の様な鎧に身を包んだリーダーであろう男性がソールに頭を下げて礼をいった。
「ありがとうございました。まさかオオギザミにあれだけ囲まれると思っていなかったので」
「ウォーカー同士困った時はお互い様というので問題ありません。私も休憩が終わり次の階層にいこうとしていた所でしたので」
ソールは三人のパーティーを見ると一人は神官姿の女性で手には丸い盾と棘のついた鈍器を持っていた。もう一人は……何処かで見たような顔をしていたので思い出そうとすると向こうも気がついた様でゲッと潰れたカエルの様な声をだした。
その声でたぶん魔術師だろう女性は宿屋で揉めていた女だと思いだした。
初対面で三人を悪く見るのは駄目なのだが……すでにこの三人に関わりたくないという気持ちが表れ始める。そんな中で神官の女性はまともだったようで男性と同じ様に頭をさげて礼をいったが……もう一人は周りに噛みつき始めた。
「ちょっと!ルフォード!あれぐらいなら私でも倒せたわよ!どうして逃げるのよ」
「倒せないから逃げたんだ。無茶を言わないでくれ」
「トーリフ……流石に今の私達では無理ですよ……」
これ絶対に面倒くさいパターンだと思ったソールは喧嘩を始めた三人を無視し、回れ右をして次の階層に向かおうとする。
……だが面倒くさい奴から逃げられないから面倒くさいのである。
ソールの中でうるさい女の烙印を押された女に「あんた!まだ話は終わってないでしょ!」と呼び止められる。
このまま次の階層に行っても着いて来られそうだったのでソールは仕方なく三人に振り返り当たり障りの無いように受け答えをする。
「それで?どういったご用件でしょうか?困っていたら助けるのは当たり前とはいいませんが余裕があったので手助けしました。貴方がさっきのヤドカリお倒せると言うならそうなのでしょう。次の階層に行きたいので行っていいですか?」
「待ちなさいって言っているでしょう!」
ソールが大きくため息をつき露骨に嫌な顔をしていると先ほどの女性神官がうるさい女を引き離しルフォードと呼ばれた男がもう一度ソールに礼を言って自分達の事を少し話し始めた。
早く次の階層に行きたかったが無視をしたらしたで面倒くさそうだったので話を聞く。
どうやらその三人はパーティーを組んでいて少し前から土砂の迷宮のこの階層辺りで狩りをして装備等を整えているとの事だった。本来は四人パーティーとの事だったが一人止めてしまったので火力不足だと話した。
「大変ですね」
「そうなんですよ。……それでもし良かったら魔術師さんは一人の様ですし僕のパーティーに入りませんか?」
「お断りします」
即答だったのと断られると思っていなかったのかルフォードがかたまっていると、またさっきのうるさい女が大きな声をあげる。
「なんでよ!私達が誘ってるのよ!あんたは一人なんでしょ!」
お前がうるさいからとは流石のソールも言わないので少し言葉を選び答える。
「緊急でしかたなく一時的にパーティーを組むと言うなら分かりますが、名前も知らない何ができる何ができないも分からない今知り合った人達とパーティーは組めませんよ。組むとしても一度話し合ってからでしょう」
「では一度、地上に戻って話し合いませんか?」
「お断りします。いける所まで潜るつもりですし今日明日帰るつもりもありませんので」
「はぁ?あんた何処まで潜るつもりよ。一人で無理しても死ぬわよ!」
「それはよく分かっています。では失礼します」そう行ってソールが振り返るとフォードと呼ばれた男性が呼び止める。
「僕の名前はフォード・レイシスと言います。魔術師さん……お名前は?」
「……ユー・エスオーです。では」
そう名乗ってソールは二十階層へと入っていくっと着いて来なかった様でホッと一息をつく。
一息ついていると先ほどのやり取りを見ていたであろう女性ウォーカーパーティーの一人がソールの元にやって来た。
「そこのあんた。さっきは散々だったね」
「はい。襲って来たら殴れるんですが……かなり面倒でしたね」
「あそこのパーティーはいつもあんな感じだしね。女性をウォーカーをとっかえひっかえしてるよ。ユー・エスオーだっけ?あんたもヤリ○ンのフォードには気をつけな」
「最低な二つ名ですね……ちなみにそれ偽名なんでソールと言います」
「これはご丁寧に。私はフォビッツだ。二十五から三十階層ぐらいで狩りをしてる。ソールは何処まで潜るんだ?」
フォビッツと名乗った女性はソールより少し長い黒い髪を首の後ろで束ね。何かの皮でできた鎧を身につけ防御重視と言うよりは動き安さを重視した装備になっていた。武器も短剣などをもも部分に何本かあり背にはクロスボウに良く似た物を背負っていた。
「迷宮は今日が二度目なので無理のない所まで言ってみようと思います」
「そうか。まぁ気をつけてな。お互いに長々と話をする様な仲でもないしな」
「はい。フォビッツさんもお気をつけて」
フォビッツは仲間の元に戻りソールは二十一階を目指して進んだ。
二十階層は海の匂いがする岩礁地帯とはまた代わり、大きな川がある場所でその水はどこから流れて来て何処に流れて行くんだろうと思わせる場所だった。
雷の触角で魔物気配を探ると川の中にも魔物がいたりとソールを悩ませる。




