23話
雷光と呼ばれた魔法使い……ソールには二つの記憶がある。
一つは主人格を形成している今の記憶。元の世界で生まれ幼少期より魔法を覚え、学生時代は天才と言われ卒業後に冒険者となり仲間ができ元の世界を旅した記憶だ。
そしてもう一つは別の世界から渡って来た者の記憶だ。その世界では自動車というの乗り物が道を走り飛行機と呼ぶ物が空を飛ぶそんな世界だった。
二つの記憶をどうして持っているか?世界を渡ってきた者がソールの主人格となった者を助ける為に自らの命……いや全てを捧げて助けたからだった。
本来なら魂や記憶はお互いに混ざり合う事は無かったが二人の間では可能であった。
それが愛なのか絆なのかは誰にも分からなかったが……二人は混ざり合い今のソールとなった。
ソールは今でもその時の夢を見る。
大事な人の全てを知った日。
大事な人を失った日。
それを夢にみて思い出す度に心は温かくなるが同時に最低最悪な気分にもなる。
「……この気分の寒暖差には慣れる気がしませんね」
顔は赤くなっているが大きくため息をつきながらソールは目覚める。少し早い時間だったが鳥達は先に目覚め元気よく口ずさんでいた。
顔を洗っていつものローブを身に纏い二階から一階に下りる。ベスパという元凄腕? のウォーカーが経営しているこの宿に泊まり始めて早いもので半年が経っていた。
元々、物覚えが良いと言うのもあり半年も経てば翻訳の魔導具が無くても言葉を交わす事が可能になっていた。書く方は日常で使う分には問題も無く読む方も特に問題は無かった。
一階に下りるとベスパがホウキで掃除をしているが……掃き掃除と言うには少しおかしくホウキが風切音を発生させていた。
「毎回思うんですけど……よくそのホウキ折れませんよね」
「ん?ソールか。おはようさん。得物が壊れない様に使うのがいいウォーカーの条件だよ。と言うか変な気配してるね。結婚式と葬式が一緒に来たみたいな」
「まさにそんな感じの気分ですね。たまーにそんな時があるのでお気になさらずに、少し早いですけれど朝ご飯って何かありますか?」
「ああ。仕込みは終わってるからいつでも出せるよ。食べるかい?」
「はい。ご飯大盛りおかず大盛りでお願いします」
はいよと返事をし持っていたホウキを投げると綺麗な放物線を描きいつもかけてある場所に綺麗に収まった。
拍手をして待っているとベスパが魔導具に火を入れた様で美味しそうな匂いがソールの鼻をくすぐった。
「はいよ。熱いから気をつけて食べな。酒はどうする?」
「飲んでも良いですが夜の楽しみに取っておきます」
分かったと返事をしベスパはテーブルの上に朝食を並べソールは礼を言ってから食べ始める。
見て面白い物は何も無いはずだがベスパはソールが朝ご飯を食べるのをしばらく眺める。
「あんたがここに泊まりだしてからもう半年も経つのか……前から変わった奴とは思ってたが今でも変わらないね」
「でしょ~。ソールもそーおもるー」
「そのチョイチョイ煽ってくるのも変わらないけど……相変わらずむかつくね。と言うかあんたはいつまでここにいるんだい?永住するなら借家でも借りなって思うんだけどね」
「言葉のファイヤーボールですよ。そうですねー。言葉もだいたい分かってきたのでそろそろあちこち旅してみようとは思っています。迷宮とかいうのも行ってみたいですしね。ティアさんは私と同じシバルランクまで上がったのでそろそろ教える事も無いかと思っています」
「まぁシバルランクから始まりって所はあるからね。自分で学ばさせるのも大事だし……迷宮かー……私も昔はよくいったが危険度が跳ね上がるからもう行こうとは思わないね。ソールは迷宮に行った事はないのかい?地域によったらダンジョンって言う所もあるから迷宮じゃ通じないかもだけど」
「ありますよ?杉並の旧街道に入って山間渓流を抜けて天馬峠を登って黄金のコンドルを探しに行きました」
「へぇー。土地が変われば迷宮も変わるって言うのはよく言われる事なんだけどそんな所もあるんだね。私が十年若かったらその迷宮に行ってみたいもんだね」
「いやー……正直オススメしませんね。せっかく鍛えた武具を魔物に吹き飛ばされて飛んでいったりそこら中に地雷とか落とし穴がある危険地帯なので……」
「どこの迷宮にも罠は付き物だしね。今はしらないけど迷宮都市の迷宮の地下60階から武器破壊とかしてくる魔物とかも出てくるからね。そんなもんなんじゃないのか?」
絶妙にかみ合わない話をしながらソールはベスパに迷宮の事を質問していく。ベスパは元ステイルランクのウォーカーという事もあり資料室で見た資料よりも詳しく知っていた。
迷宮と言うのは言うなれば一つの特殊な魔物が進化した形だった。
その魔物はマボロマと言う名で人の意識や記憶から攻撃手段を読み取り実体化させ攻撃してくる魔物だった。
特殊な魔物がごくごく稀に死ぬ間際に進化すると全てを飲み込む迷宮に進化する。
迷宮に進化してしまうと動く事はできなくなるが、マボロマだった時に見た物や景色が体内で作られ一つの巨大なコロニーを作り上げる。
そしてその作られた魔物はマボロマが生前に見たアイテムなどを体に宿し倒すとそれが手に入る。
「え?マジですか?」
「話の腰おるんじゃないマジだよ。鉄の剣でも迷宮で出た物は何かしらの能力がついていたりするね。私が拾った奴だと火が出たりもしたよ」
ただ迷宮もマボロマが進化した魔物と言うだけあって食事は必要とする。マボロマ自身が大きく動けなくなったので倒すと排出されるアイテムなどは得物をおびき寄せる餌である。
迷宮に入り死亡すると全てを失う。持っている物は全てだ。
身につけていた武具は勿論の事、収納の魔術や魔導でしまってあったアイテムも迷宮から干渉され奪われる。
奪われないのはウォーカーブレスレットと迷宮に持っていかなかった物ぐらいである。
人が迷宮で死亡すると魔物達と同じ様にボロボロと体が崩れて迷宮に吸収される。アイテムは飲み込まれる様に消える。人は無理だがアイテムは仲間がいてすぐに回収すれば持って行かれない事もある。
ただ収納にかんしては先ほど言ったように死亡と同時に干渉されるので仲間がいても回収は不可能だったりもする。だから迷宮では便利だが死んだ時の事を考えてパーティーで収納の魔術や魔導を使わない者達も存在する。
そして奪われたアイテムは時間をかけて迷宮の何処かに宝箱が作られ罠と供に人間を呼ぶ餌として使われる。
「後は……死んだ人間が保有していた魔力とかで迷宮が成長したりするね。できたばっかりの迷宮とかは浅い階層しか無いけど犯罪者とか纏めて迷宮で刑を執行したら階層が深くなったとかも聞くね」
「ん?じゃあ迷宮というかマボロマでしたっけ?その魔物は人がいないと成長しないんですか?」
「いや。そうでもない。私も学者では無いからそこまで詳しくは知らないけど大地には魔力が濃く流れる筋があって、マボロマはそこで長い時間をかけて迷宮になるらしいからその流れる魔力を吸収しつつ大きくなるんだとよ。大昔に見つかった迷宮とかはかなり深くて大迷宮だったそうだよ。まぁそこが今では街が立ち迷宮都市って場所になったんだけどね」
「古い遺跡とか洞窟に魔物が住み着いて増えたってパターンじゃないんですね。詳細は現地に行ってみないと分からなそうですね」
「ああ。私ももう十数年は言ってないから忘れてる事も多いから現地で学ぶのが一番はやい。だけどこれだけは何処の迷宮でも一緒で私でもあんたでもそうだけど経験が多い奴が絶対にやったら駄目な事が一つだけある。わかるかい?」
その質問にソールは少し考えてから答えた。
「迷宮で腹立つ奴を見つけたら魔物集めてなすりつけるとかやったら駄目とかですか?」
「あんたね……それも駄目だけど、そいつの実力不足で逃げる時とかはたまにあるからそこまでは怒られない。人にもよるけどね。正解は迷宮内で絶対に死なない事だよ」
「それは何処でもそうなのでは?死んだら終わりですし」
「そうだけどそうじゃないんだよ。さっきマボロマが迷宮になった時にマボロマ時代にみた魔物と似た景色で迷宮が作られるって言っただろ?あれに少し似てるが……」
迷宮で人が死ぬと迷宮に食われその迷宮の養分となる武器やアイテムなども次の餌をおびき寄せる餌として使われるが……記憶もそうだったりする。
その人物を食ったからと行ってすぐに変わる訳では無いのだが……ある年老いた一人のウォーカーがいた。
そのウォーカーは若い頃は世界各地を回り様々な魔物や景色を見て力をつけ最高のオルティアランクのウォーカーになった。そして年老い自分の寿命が近づくと墓などは作らず自分が若い頃使っていた装備を迷宮に持ち込みそこを死に場所に選んだ。
その迷宮は浅く小さい迷宮だったので周りも了承し本人の希望通りになりそこで死を迎え迷宮に飲み込まれた。
それから異常が出始めたのは一ヶ月後の事だった。その迷宮には今まで現れなかった魔物が現れ始め、人の剣技や魔術といった物を知っている魔物が出始めた。
その男が死んで一年が経つ頃には見た事も無い魔物やとても強力な魔物が多数存在し始め攻略はおろか高位のウォーカーでも簡単に死んでしまう高難易度の迷宮が完成してしまった。
「そこはゴルディーランクとかシバルランクが行ったりする様な所だったんだけど、今では高難易度になって皆そこで死にまくってるから地下二百階とかぐらいあるんじゃないか?そういう訳だから実力がある奴は迷宮で死ぬなって話しなんだよ。まぁ古い話だから本当かどうかは知らないけどね」
その話を聞いてソールは少し考える。それが本当ならもし自分が死んだらどうなるのだろうかと?異世界の魔物が迷宮に作られるのか? 魔物、魔神、天使と色んなものと戦ったからだった。
「私が死んだとしたら何が迷宮で作られるかはとても興味はありますね……迷宮って魔物らしいですけど倒せるんですか?」
「あんたは迷宮に行ってたのに知らないのかい。最後は倒せるよ。一番奥に行くマボロマの心臓と言うかコアがある。それを破壊すれば迷宮は少し浅くなるから最後は無くなると聞く。迷宮も一度、壊されると壊した奴等を外に排出するからまた一から攻略になるから……まぁ迷宮が完璧に破壊される前に死ぬ奴の方が多いからゆっくり治るけどね」
「じゃあ……迷宮って増え続けません?」
「いや。そうでも無いよ。だいたい五百年とか六百年が寿命ってのは何処かで読んだ。そもそもマボロマがほとんどいない。私もウォーカーを三十年からやってあちこち見てきたけど……一回もマボロマは見た事ないからね。映像とかは残ってるんだけどね」
「凄いですね……とても勉強になりました。その話を聞いて迷宮都市に行ってみたくなったので、近いうちに迷宮都市に行ってみようと思います」
「ああ。さっきの雰囲気もいつもの雰囲気に戻ったしよかったよ。行く日程が決まったら教えな。弁当ぐらいは作ってやるよ」
「ありがとうございます。ベスパさんかなり厳つい人なのにいい人ですね」
「その喧嘩買った方がいいのかい?」
そんな話をして朝食を食べ終わると二階からオプキュティアと討伐した時に協力し合ったレオルドとダガフの二人が降りてきたので挨拶を交わす。
「皆さん今日は早いですね。依頼ですか?」
「護衛の指名依頼が入ったからウォーカー協会で打ち合わせだな」




