二十二話 エピローグ
ソールは宿の部屋から街を眺め数三日前の事を思い出していた。
怪鳥オプキュティアを討伐しレオルド達と丘都市に戻って来てからが大変だった。
ウォーカー協会に行くと片腕を失った青年の腕はソールが少し前に沼地から持って帰って来た腕だったので治療術師を呼び直ちにひっつけられた後に数日は治療院という病院の様な場所に入院となった。
ティアは大きな怪我などは無かったが無事に戻って来た事で泣いて喜ぶ姉のディアナに数日は強制的に入院という形を取らされた。
ここまで協会がすぐに動けたのもソールの行動が速かったと言うのもあったが、山岳地帯で別れ先に戻ったウォーカー達が協会の職員達に伝えていたと言うのもかなり大きかった。
丘都市へ戻る道中でソールに言われた様に少し焦げた後をたどっていくと自分達では倒せないアサルトボックや群れで来ればオプキュティアより強いと言われるミラージュハウンドの素材が所々に落ちていたのでそれを見てソールがオプキュティアに勝てる事を確信し、確実に帰って来るから準備しておくように伝えていた為だった。
回収した素材を査定してもらったり、亡くなったウォーカー達の装備等を協会に渡したり、ウォーカー長のトーバに今回の騒動を一から十まで説明したりと思いだしただけでため息をつきそうな程に忙しかった。
そんな事を思い出しつつそう言えばウォーカー長のトーバに呼ばれていた事を思いだしソールは重い腰を上げて一階へと向かった。
一階ではまだ昼前だと言うのにウォーカー達が酒を飲み賑やかに騒いでいた。そんな空気が嫌いではないソールは自分も混ざろうかと考えたがウォーカー達から待ったがかかる。
「おい。ソール。面倒くさいだろうがウォーカー長から呼ばれたらちゃんと行けよ」
「何で知ってるんですか」
「ここの宿に泊まってる奴はウォーカー長じきじきにソールを見かけたら協会に来るように言っとけって言われたからな」
「そのプライバシーも糞もない職場ってどうなんですかね?」
「何かあった時にすぐ連絡が付くように寝泊まりしてる場所を協会に伝えとくウォーカーは多いぞ。村や街に比べるとでかいが他の都市に比べたら小さい丘都市でウォーカーやると皆しりあい見たいなもんだしな」
「なるほど。変な店とか行くとすぐに知れ渡る訳ですね」
「そういうこった。別に悪い事じゃ無いだろうから寄り道せずにいけよ」
仕方ありませんねと飲んでいるウォーカー達に手を振ってソールはウォーカー協会へと向かう。
協会に着くとその足でウォーカー長のトーバがいる執務室に向かいその扉をノックする。
「ソールです。帰っていいですか?」
「駄目だ入れ」
冗談でもいいぞと言ったら本当に帰ろうかと思ったがそんな事も無かったので失礼しますと言って執務室にはいった。
座る様に言われたのでソファーに座ると何か飲むかと尋ねられたので珈琲をお願いする。
顔に似合わず丁寧に入れるのかと思ったがそんな事もなくスプーンで適当にドバドバっと入れてお湯を作る魔導具でお湯を入れて完成だった。
「ミルクと砂糖は適当に入れてくれ」
「ありがとうございます。それで呼ばれた理由はなんですか?」
「そう身構えるな。悪い話は無い。今回の事だが俺個人としても礼を言わせてもらう。新人ウォーカーや中堅のウォーカー達をよく助けてくれた。ありがとう」
「はい。ついでと言えば言い方は悪いですが。ディアナさんとロトナさんからの依頼を受けて助かる命だったので」
「それだ。それが問題だ。個人で依頼を受けるなとは言わん。だが今回の様なスキル持ちの特殊個体を討伐するなら協会の依頼を通せ。そうじゃないと記録も何も残せん」
「私は問題ないのでいいんですが協会的には問題ありましたか?」
「大きい問題ではない。だが協会の査定に響く。ウオーカー協会は国が管理してる。その年その年でどれだけ仕事をしたかでその都市や村の予算が決まるんだ。丘都市のウオーカー協会はそこまで金が無い訳じゃないが……予算が増えるに越した事は無いからな」
「なるほど……協会で働く皆さんのお給金に関わる事でしたが……それは申し訳ない」
「そういう事だ。まぁ予算が決まると言っても経営は丘都市に任されているから足りない部分を補助金という形でもらう訳だ。ここは辺境だからな城壁、街道とか社会資本の補修につかわる訳だ。そういう事だから大物を倒す時は協会を通してくれ。この辺は目玉になる様な資源は岩ぐらいだからな」
「分かりました。次があるなら気をつけます」
「そうしてくれ。……と言ってもやはり協会を通すと依頼を受けるのには時間がかかる。だから今回のような時は難しいがな。かといって協会を通さないとランクを上げたりするのも難しい。登録されたウォーカーの情報は国の中央で厳重に扱われ、そこで規定に達したらランクが上がる仕組みだ。今回、お前はほぼソロでオプキュティアのスキル持ちを倒している。ゴルディーランクが複数して失敗した依頼を達成した。協会を通していればゴルディー上のステイルにはなれたはずだ」
「あんまりランクに興味がありません……実力を隠したい訳でもないですが目立ちたい訳でもないので」
「ランクという物差しでしか測れん馬鹿はチヤホヤしてくれるぞ。後は……ランクが高くないと泊まれない場所とかもあったりするな。正直、あちこち旅するだけならあまり上げなくてもいい。関所とか並ばなくて良いメリットはあるがお前なら並んでそうだしな」
「力を持つ者はそれなりの責務があると言うので上げてもいいんですが……実際はクソめんどうなので」
「ああ。よく分かる。ウォーカー長の集まりとか行ったらマジで殺してやろうかと思う奴もいるからな。まぁ自分が許せる範囲でなら協会を通して依頼を受けてくれ。お前が倒したと思われるミラージュハウンドとかもかなり凶悪な魔物だからな」
「ういっす。上げても下げる事もできますので了解しました」
「後はおれの権限でお前はシバルランクに上げておく。ゴルディーでもいいがお前の強さを知らん奴からは文句が出るだろうしな。ちなみに壊してランクを下げてもいいが本当に面倒な時にとっておけよ。協会の付き合いでゴルディーランク異常は強制集合の依頼とかあるからな」
それで話は終わりソールは珈琲ありがとうございましたと行って部屋を出ようとするとトーバはディアナの妹が目を覚ましたと伝えた。ソールはもう一度礼を言ってからティアが入院する治療院に向かった。
「ここから沼地まで走って戻ってまた走って山に行ってスキル持ちのオプキュティアの討伐か……ステイルランクでもしんどいな。かと言ってミスティスランクではソールに勝てる姿は思い浮かばん。オルティアランクが妥当か……と言うかなんであいつはこんな辺境にいるんだよ」
そんなトーバの疑問に答える者はここにはいなかった。
ソールが一階に下りるとちょうどロトナがおりソールが手に入れた素材の査定が終わったと教えてくれたので医療院に行く前に先に買い取り所にお金を受け取りに向かった。
買い取り所に行くとちょうどレオルドと先に帰ったゴルディーランクのウォーカーがいたので少し世間話をした後にオプキュティアの素材のお金をもらう。
「ソール。これが餌箱を破壊した時に出た素材の金だ。受け取ってくれ」
「レオルドさん。ありがとうございますではこれがオプキュティアの尾羽を売却したお金ですのでダガフさんやナイアさんに分けてください」
まさかその分を分けるとは思っていなかったレオルドが驚き尋ねる。
「あの時は私がオプキュティアの相手をしてその間にレオルドさん達が助けるという感じですから報酬を分けるのは当然では?生々しいですがあそこで助けていなかったら二人は危なかったでしょうし」
「それはそうだが……いいのか?」
はい大丈夫ですとソールが言うとレオルドは礼をいい報酬を受け取った。
そしてその場にいたウォーカーもソールに用事があったようで話しかける。
「あんたが道中で倒したと思われる魔物素材を売ったが……幾らか払った方がいいか?」
「流石にそれはもらえませんよ。どれだけ倒したかは分かりませんし回収するつもりもありませんでしたので」
「そうか……じゃあ悪いがもらっておくがいいか?流石に今回は消耗が激しすぎたからな。少しでも金が欲しい。かなりの額にはなるが……」
「いいですよ。貴方方のパーティーで亡くなったという人も聞きますし。何にするにしてもお金はいりますからね。どうしてもいうなら今度酒でも奢ってくれれば良いです」
「分かった。落ち着いたら一番言い酒を奢らせてもう」
そう言ってウォーカーは礼を言ってソール達と別れた。
「良かったのか?」
「はい。問題ありません。悪い人でもないようですし」
「だったら俺の口からは言う事はねーな。じゃあ悪いが俺はダガフやナイアに金を渡してくる。時間が合えばまた飯でも食おうや」
「わかりました。私はディアナさんとティアさんに会いに行ってきます」
二人はそこで別れソールは協会を出てすぐ近くにある医療院へと向かう。受付でウォーカーブレスレットを見せると話は伝わっていた様で医療術士がティアの元に案内してくれた。
エレベーターに良く似た魔導具に乗り上階へ上がり長い綺麗な廊下を進んで行くと、ここですと教えてくれたのでソールは礼を言ってからノックしその部屋に入る。
部屋に入りティアとお見舞いに来ていたディアナに挨拶をする。ティアはディアナに甘えていたようで果物をむいてもらい食べさせてもらっていた。
「ディアナさんティアさんおはようございます。その感じですと大丈夫そうですね」
「はい!ソール先生やゴルディーランク方々や皆さんのおかげです!」
「傷も後遺症もないので精神的に大丈夫なら今日で退院して良いそうです。かなり内臓とか骨とか逝っていたみたいなのですが綺麗に治ったので先生方が驚いていましたね」
「なるほど。ティアさんはそういうスキル持ちかも知れませんね」
「いやいやいやいや……お姉ちゃんにしか言ってないですけど先生の特製茶のお陰ですからね」
ディアナが半信半疑で苦笑しソールがどういう事ですか? と言う様な顔をしているとティアはオプキュティアに襲われた時の事を話した。
洞窟でラットマンの討伐が順調に終わり魔導車に乗り込む。
一番ランクが高いシバルランクのウォーカーが魔導車を運転し沼地をでて少し走った時の事だった。
なんとなく空を見上げていたティアが昼丘草の群生地でよく見た鳥の姿を捉え……そして、眼があった。
直感的にティアは危険と判断しすぐに叫んだ。
「ギアさん!皆さん!空に怪鳥オプキュティアがいます!最近、山岳地帯で見る大型です!」
ギアと呼ばれたシバルランクのウォーカーが何だって! と叫び全員が上空を見上げたタイミングで轟音と供にオプキュティアが風と羽を纏い突っ込んできた。
とっさの出来事で殆どの者が反応できずに即死したがティアだけは反応でき魔導車の外へと飛び出した。
だが運が悪い事と良い事が同時に起こった。
悪い事は吹き飛ばされた魔導車がティアの体に直撃し自身の骨が折れる音が聞こえた。
良い事は魔導車が直撃したことで持っていた道具も巻き込まれソールが持たせてくれた特製茶。元の世界で作られた世界樹の新芽で作られた最高クラスの回復薬に近い性能を持つお茶がティアの体にかかった事だった。
その事で折れた骨や破裂した内臓はすぐに再生した。さらに幸運な事に衝撃で気絶してしまいオプキュティアはそこいた全ての獲物は死んだと判断し巣へと連れて帰った。
シバルランクの男性が助かったのも飲み込まれた時にはまだ生きていてティアの近くにいた事で特製茶が腕を伝い少しでも飲んでいた為に助かったのだった。
ティアは気絶していたので巣に運ばれて餌箱に入れられた事などは知らないが気絶するまでのことは覚えていたので静かに聞いていた二人に話した。
「そういう訳です。魔導車が直撃した時は死んだって思いましたね。こうすっごいスローモーションで迫ってくるんですよ」
「毎日走り込んだお陰で時を操る能力の片鱗に目覚めたのかも知れませんね」
「「それは無いと思います」」
「でも毎日走ったお陰でとっさに動ける筋力はついたと思うので下地って大事ですね」
納得出来るような納得いかない様な顔をしながらディアナがソールにあのお茶について質問する。
本当の事をいった所と言うのもあるしソール自身もお茶として飲んでいるので少し回復効果のあるお茶という形で納得してもらった。
「いやまぁ……私は肩こりとか治ったのでそういうお茶と言えばそうなんですが……ソールさんには何度も助けて頂いてるのでよけない詮索は止めておきます」
「隠す訳ではないですが言い様が無いですからね。ではティアさんも元気そうなのでまた特訓はいつから始めますか?」
もしかしたらティアはこのままウォーカーを止めるような気も少しはしたがそんな思いを吹き飛ばす様にティアは元気に答えた。
「はい!先生さえ良ければ明日からでもお願いします!」
分かりましたと答えるソールの表情はは優しく微笑んでいた。
これにて一章は終了になります。二章開始はまたその内。
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