十九話
群がっていた小型の魔物を焼き払うとそこには何かの肉の塊があった。
誰かの死体かと思い確認するがその塊には毛や牙が生えており人の物ではなかった。
ただその近くから発信されていたウオーカーブレスレットは銀色に輝き人の肘から先が残っていた。
ソールは雷の触角を使い歩きながら辺りをくまなく探すが人はもちろん事、遺体といった物もなく武器や導具が散らばっているだけだった。
(他の魔物に食われたと言う事も考えられますが……この大きな足跡を見るにオプキュティアの餌になったか巣に運ばれたか……まぁ素人の私が考えるだけ時間の無駄ですね)
そう考えソールは足跡や戦闘の痕跡といった物を全てウォーカーブレスレットに映像として残し、腕がついたまま銀色のウォーカーブレスレットをアイテムバッグに仕舞った。
(この世界の回復や再生といった治療が何処まで治るかは知りませんがくっつくのであれば持って帰った方がいいでしょう。流石に食われたら再生しないでしょうし……)
これ以上ここにいても収獲はないと判断しティアの無事を祈りつつ一度丘都市へと戻った。
来る時に比べ位置や場所といった物が把握され直線距離で魔物を引きながら戻ってきたので更に時間が短縮されすぐに都市へとたどり着く都市に入ってからは小走りでウォーカー協会へ向かった。
肩で少し息をし協会の扉を開けて中に入るとすぐにディアナとロトナが気づき近寄ってきた。
「「ソールさんどうでしたか!?」」
二人が大きな声で一斉にやって来たの何事かと近くにいた人達が集まり出したので、二人に頼んで別の部屋を用意してもらいそこで話をする事にする。
流石に何も言わずに持って帰ってきた物を取り出すと驚かれそうだったので、沼地付近でみた戦闘後や破壊された魔導車の事を説明し映像を見せる。
ディアナはその話を聞いてその場に崩れ落ちそうになるがロトナに支えられソファーに座らされる。
ソールは二人に断りを入れてから先に銀色のウオーカーブレスレットがついた腕を取り出す。
その腕をみて二人は青くなるがロトナの方が少し冷静にブレスレットを取り外し、その腕に魔術の術式を書き込むと冷気と供に腕が氷付けとなった。
「お金はかかりますが腕さえ残っていればひっつくので……このブレスレットですがティアちゃんと一緒にいったシバルランクのウォーカー方ですね」
「なるほど。沼地にはもう人の気配は残ってなかったのでティアさん達は何処に行ったのかと……」
その質問にロトナは考え始めるが顔を青くしたディアナがてを上げて答える。
「私がそう思いたいだけなのかも知れませんが……まだ生きていると思います。この足跡の形はオプキュティアです。オプキュティアは巣を作り卵を産むと巣に泥で餌を溜める【餌箱】と呼ばれる獲物を溜めておく貯蔵庫を作ります」
その貯蔵庫に獲物を入れる際は生きていようが死んでいようが関係無くそこにつつき込む。
強い者であれば倒し弱い物であれば餌箱を破壊する事は無理なので生きたまま閉じ込められる。
雛がかえると同時に餌箱にい貯められた獲物は消費される。それはいくら怪鳥がスキルを持っているからといって変わる物ではなかった。
「そうなると……オプキュティアの討伐に出たウォーカー達は失敗したのかも知れませんね」
「はい……本来の予定ならもう戻って来ていてもおかしくはないので……」
青い顔のディアナをロトナが支えているとソールがゆっくりと口を開く。
「少し辛い事を言いますがもしもの時の事は考えておいてください。私は今からオプキュティアの巣に行きますので結果はどうであれティアさんは連れて帰って来ますので」
「ソールさん……それなら明日の朝にはもう一度、討伐隊が編成されますのでそれまで待ってもらえれば……」
「そんな泣きそうな顔で言っても説得力はありません。速く動いておいて損は無いと思いますのでソールお姉さんに任せなさい」
ディアナは泣きながら感謝の言葉を伝えソールにお願いしますと頼み、ロトナはオプキュティアの生態が載った本を用意しある程度の巣の位置を伝える。
「ソール産さん。巣の位置ですがオプキュティアは獲物を捕まえると真っ直ぐに巣に帰る性質があります。ですから一角牛を狩った後に飛び立った方向に巣があるはずです!」
「わかりました。では少し行って来ます」
また窓から出ようと足をかけたタイミングでディアナに呼び止められる。
「妹のティアをよろしくお願いします」
ソールは任せておけと言わんばかりに親指を立てた拳を見せてから都市の屋根を渡り、次は東の方角へと消えていった。
その光景を見てディアナとロトナの二人は関わった人達全員の無事を祈った。
夜も深くなり襲ってくる魔物の数もかなり増えたが強敵と言える物は現れずかなり速い時間で昼丘草の群生地までたどり着く。
昼丘草というぐらいの事はあり花は一つも咲いておらず、葉も夜に隠れる様に丸くなっていた。
ソールが使用するエレクトロ・アクセルは雷を纏い高速で移動できるが使用している間はかなり魔力を使用し続ける為、膨大な魔力をもつソールでさえ連続で使用するとかなりの魔力を奪われる。本来の使い方は瞬間的に加速するもで長時間使用するものでは無いが……
ここまで走りっぱなしのソールは流石に体力、魔力供に疲れが見え始めたので石の上に座り特製茶や軽食を取り少し休息を取る。
(あの戦闘能力で襲われて無事だとは考え無い方が良いでしょうがそれでも無事であって欲しいですね)
休息をとった事で全快とは行かないが魔力、体力供に回復したのでオプキュティアが一角牛を狩った所まで移動する。そしてそこから飛んで行った方向をウォーカーブレスレットの映像から確認しまた走り出した。
丘を抜け山岳地帯に入り始めると魔物種類も変わり始める。
鹿の様な魔物が角と角の間に魔力を溜めそれが溜まりきるとソールに向かって遠距離射撃を行う魔物や、狼の様な姿をしているが体は薄く透けており近くまで来ると幻影を出し二体に増える魔物など、丘都市の近くでは見られない様な様々な生き物が襲ってきた。
そんな魔物達を遠距離には魔法で近距離には蹴りや剣で即座に倒して進むが魔物数が多く時間を取られた。
魔物達と戦いつつ進んで行くとようやく山の中腹辺りを過ぎた辺りで一瞬だけブレスレットが光った。
その場で立ち止まりブレスレットを確認するが光ってはいなかった。
かなりの速度で移動していたが周りを見られないほど冷静さを無くしていた訳では無いので少しその辺りを調べるとブレスレットに救難信号が届いた。
ティア達を探さなければいけないので無視してもよかったがオプキュティアの巣からティア達が逃げて来た可能性もあったのでソールは救難信号に向かって移動する。
信号が飛ばされた場所は少し離れた位置にありその近くに行くと岩の隙間から少し光が漏れ中にいくつかの人の気配が確認出来た。
そのまま近づくと中の人達もソールの気配に気がついた様で「誰だ?」と言って岩の隙間から顔をだす。
その顔を出した人物とソールはお互いに見覚えがあり驚く。
「レオルドさんですか?」
「ソールか?」
よくベスパの宿屋で夕食や酒を奢ってくれる人だったので流石に無視する訳にもいかないでレオルドの後に続き岩の隙間に入って行く。
隙間と言ってもかなり大きな隙間で入り口は魔物から隠れるように魔術で塞がれていた。
そして中に入ると一人が瀕死の状態で寝かされ他に五人ほどいたがかなり疲れた様にうずくまっていた。
「それで?ソールはどうしてここにいるんだ?俺達を探す依頼か?早すぎる気もするが?」
「それは後です。その瀕死の人は大丈夫ですか?」
「いや……かなり危ないが俺達が持って来ていた回復薬はもうないんだ」
分かりましたと言ってソールは前にディアナから現物交換でもらった回復薬と市場で買っていた回復薬をレオルドや他のウォーカー全員に渡した。
恩にきると言って受け取り瀕死の仲間にすぐに飲ませると完全にとは言わなかったが傷は塞がり呼吸は落ち着き峠は越えたようだった。他のウォーカー達も動ける程に回復したのでソールに礼を言った。
ただの親切という訳でも無くソール自身もいつかはこの世界の回復薬を試して見たかったのでタイミングがよかった事に感謝する。
そしてレオルド達と情報を交換する。沼地で怪鳥オプキュティアに攫われたであろうティア達を助けに来た事。レオルド達はオプキュティアの討伐に失敗し一緒に依頼を受けたウォーカーを三人失った事。
「レオルドさん。ゴルディーランクのウォーカーだったんですね。ベスパさんが低級と言っていたのでシバル辺りかと思ってましたよ」
「基本的にウオーカーは自分より下のランクだと低級という傾向があるからな。それに俺達じゃパーティーでもベスパさんには勝てんから文句も言えん」
「あの人の腹筋はヘルゲーターより硬いですからね」
「なんだそれ……それで?ソールはこれからどうするんだ?」
「どうするも何もこのまま巣に直行してティアさんを連れて帰ります」
「……死んでる可能性の方が高いぞ?」
「それは私も姉のディアナさんも覚悟を決めています。連れて帰るが約束ですから」
「分かった。少し待ってくれるか?パーティーで相談したい」
「五分だけですよ?」
分かったと返事をしパーティーを組んだ仲間達と相談を始める。
一つはソールに着いていき怪鳥オプキュティアの討伐。二つ目はここに残り朝まで待つ。
三つ目は瀕死の者が動ける様になったので急ぎ丘都市まで帰還する。
ゴルディーランクとなると判断も速くすぐに意見が二つに分かれた。
この山岳地帯はゴルディーランクでも油断すれば死に繋がる場所だったようで、この場に留まると選択肢はなくなり、レオルドと昔からパーティーを組んでいた者はレオルドともう一度オプキュティアの討伐に向かう事を選び、今回臨時でパーティーを組んだ者は丘都市に帰還する事を選んだ。
「流石にあの戦闘力は異常だ。俺達が倒せる魔物じゃないから俺は引かせてもらうぞ」
「悪いが俺もだ」
「私も無駄死にはしたくいからね」
レオルドもソールも本人がそう決めたなら何も文句はないので残ったメンバーで巣を目指す事になった。
帰還する内の一人がソールに向かって謝る。
「せっかく助けに来てもらったのにすまんな。俺は自分の命が大事なんでな」
「それはそうですよ。自分の命あっての地位や名誉ですから間違っていませんので助けたからと言ってとやかく言いませんよ。帰る時は気をつけて帰ってください」
思っても見ない言葉に驚くがソールの顔が嘘を言っている訳でも無かったので素直に礼をいい山を下りる準備を始めた。
「丘都市に戻るなら地面を注意して歩くと少し安全です。私が通った後は焦げています。そこまでの大物はいませんでしたが倒して来ましたので」
「分かった。ありがとう。お前達も無茶をするなよ」
その場でウォーカー達と別れ残りはソールとレオルドとまだ眠ってる神官の様な姿の女性と動きやすい姿をした男性だった。
「ソール。そいつはシーフで斥候や罠の発見が得意な仲間のダガフだ。口数は少ないが話は通じる」
「ダガフだ。宿で見かけたが話した事はない」
「基本的に部屋によくいる方ですね。気配で分かりました。ソールです」
「まだ眼を覚まさないのがアークビショップで支援回復のナイアだ……もう少しすれば起きて自分で治癒するはずだが少し間ってもらえるか?」
そんな時間はありませんと首を横に振り偽装アイテムバッグからディアナに飲ませたポーションと同じ物を取り出し飲ませる。
すると残っていた傷も全て塞がりナイアと呼ばれた女性はすぐに眼を覚ました。
その回復速度にレオルドは驚くがソールに礼を言ってから自分の状態を確認するナイアに説明する。
「マジかー……助けてもらったのはありがとうだけど……四人であの鳥はきついだろ……」
「俺達が負わせた手傷もあるからいけるはずだ。嫌なら戻ってもいいが?」
「そういうのは皆がいる時に起こして言ってくれ……まぁリーダーがレオルドと決まっているからリーダーがそう決めたなら従うよ……ソールだっけ?」
「はい。ソールです」
「助かった礼を言う。戦えなくはないが支援が主な立ち位置だ。腕が取れたぐらいなら繋げてやるが死ぬのは勘弁してくれ」
「どういたしまして」
この世界の回復魔法?魔術? にとても興味はあったが戻ればいくらでも話を聞けるのでそれは後回しにする。
そして幸運な事にレオルド達は一度、巣にたどり着いていた。
巣で戦い壊れたので補修するのに沼地まで泥を取りに言ったのだろうとレオルドは言った。
色んな事が重なり生まれた不運がティア達を襲ったのなら色んな事が重なり助かる命もあればいいなとソールは考え先を急ぐ。
ダガフが先頭を歩き、襲ってきた魔物を的確にソールが処理し進むとようやく目的の怪鳥オプキュティアの巣が目の前に現れた。




