十七話
ソールとティアが昼丘草の群生地まで走り始めてからやく二週間の時が流れた。
まだソール特製茶で回復させないとティアは一気に走り抜ける事はできなかったが、それでも体がなれたのかかなりの速度で走られるようにはなっていた。
「あー風が気持ちいい。そして今日もデ怪鳥が飛んでる」
ソールが昼丘草を採取しティアは仰向けに寝転がりながら空を見る。
「どうして襲って来ないんでしょうね?やっぱり鬼教官のソール先生が怖いんでしょうか?」
「それも理由の一つかもしれませんね。私も気になって資料室で調べましたが戦闘力は高いようなので襲ってはきそうですが」
「襲って来ない方がいいんですけど……もしかして見えてないんでしょうか?」
「それは無いですね。たまに眼が合いますし。まぁあの巨体ですから私達二人を食べたぐらいではお腹は膨らまないので気にしていないのでしょう……っとティアさん起きてください。面白い物が見られそうですよ」
ティアは体を起こしソールが指を指す方向に目を向ける。するとそこには後頭部から額にかけて一本の立派な角が生えた牛によく似た生き物が十頭程度の群れを成していた。
ソール達がいた場所からは遠くかなり小さく見えたがティアにもよく見えているようで丘や草原でよく見かける一角牛と言う獣だった。
「あれを家畜化したのが丘都市周辺で流れている牛肉らしいですよ。魔物では無いですから倒せば丸ごと手に入りますけど、お姉ちゃん曰く野生は筋が張ってけっこう固いとのです。突進力はかなりあるのでブロンランクではたぶん負けますね……ソール先生……まさかとは思いますが走って戦ってこいとか言いませんよね?」
「分かりました。それは次の機会に取っておきます。そろそろ仕掛けそうなので怪鳥から目を離さない様に」
言われた通りにティアがゆっくりと空を舞うオプキュティアに目を向けると翼や尾羽の後方に風が集まり始めた。
上空に敵がいる事に一角牛達も気づき逃げ出したが、オプキュティアの後方に集まった風が爆発すると供に急加速し逃げる一角牛に向かって一瞬で距離を詰める。
凄まじい炸裂音がソール達に届く頃には勢いそのままに一角牛に突撃し二頭を残し吹っ飛ばし絶命させ、残った二匹も逃すまいとまた上昇しその大きな翼で羽ばたくと刃の様な羽が残った数頭を切断した。
オプキュティアは倒した一角牛を全て飲み込むと喉の辺りが大きく膨れ上がり満足したように飛び上がり山の方角に姿を消した。
「あの巨体であの速度ですか……へんなドラゴンより強いのでは?」
「この辺にはドラゴンはいませんけど飛竜と縄張り争いする個体もいると聞くので強いと思いますよ……見える位置で戦ってる所見ましたが凄まじいですね」
「どちらかと言えば狩りですね。ティアさん的な意見でいいのですがあれを倒そうと思うとどれぐらいのランク帯ですか?」
「えっ……シバルじゃ確実に無理ですね。ゴルディーを10~15位集めればいけるのかな?あーでも上を取られててあの速度なので人によってはステイルでもしんどいと思います。ミスティスとかオルティアだとたぶん余裕ですね」
「なるほど。私はランクに詳しい訳ではありませんがティアさんは割とよくみていますね」
「お姉ちゃんが協会で働いているので待ってる時とか訓練所で先輩方の戦い方を見てましたから!まぁ……見るのと動くのは別でベスパさんに毎日ボコられてますが……」
「その調子ならそう遠くない未来で一発ぐらい入りますよ」
「そうですか?がんばります」
「では今日も頑張って走って帰りましょう」
「うっ…………がっ頑張ります。でもたまには魔導車でゆっくり採取しませんか?」
「なるほど……それも良いですね。考えておきましょう」
やった!と喜ぶティアだったが二人の脳内ので描かれた魔導車の使い方は別物だった。
ティアの場合はソールが運転し、自分は索敵したり景色を見たり等。
ソールの場合は自分が運転するが魔導車をティアが押して走ったり、魔導車で追いかけたりする物だった。
「変な所に筋肉がついても駄目ですし……ひくか追いかける方がいいですね。光の巨人もやってましたし」
ティアには何の事か分からなかったが背筋に冷たい物が流れたのでソールに尋ねようとするが、ソールは街に向かって走り出したのでその事は有耶無耶になってしまい後であの時に止めておけばととても後悔する事になった。
◆◆◆
始めて昼丘草の採取に行った時よりは丘都市に戻って来るのもずいぶんと早くなり、外はまだ少し明るかった。
二人はいつもの様にウォーカー協会の少し込んでいた受付に並んだ。
今日の受付にはディアナが座っていた。依頼達成と依頼品である昼丘草をロトナに教えてもらった偽装したアイテムバッグから取り出し確認をお願いしブレスレット等を手渡した。
「今日も怪鳥が飛んでいたので映像を残しておきました。もう見飽きたと思いますが確認の方お願いいます」
「ソールさん……こうやって撮って来てくれるだけでもありがたいので見飽きませんよ。普通なら生態調査で出す様な依頼ですし、基本的にお金にならない事は皆さんしないので」
「ウォーカーも命がけなので仕方ありませんね。私とティアさんは問題ありませんがあの怪鳥を協会はどうするつもりですか?」
あまり長居しても悪いなと思ったがソール達の後ろには誰も並んでいなかったのでディアナは少し声を小さくして話をする。
「あの個体かどうかは分かりませんが……他国の小さな村が大型のオプキュティアに潰されたという噂が出ていますので、もう少ししたらそれとは関係無くとも討伐の依頼を出す予定です。今の所は人に被害があったとは聞きませんが……魔物ですからね」
「お姉ちゃん!今日はデ怪鳥が一角牛襲ってたから撮れ高は最高ですよ!」
「それは楽しみって言いたい所なんだけど……私も仕事だからね。何かあったらすぐ伝えるからティアもあの辺にいかない様にね。まぁ……飛んでるからかなり広範囲になんだけども」
元気よく返事を返事をしディアナかたブレスレットと今回の報酬を受け取り、礼を言ってから受付を離れた。
「ソールさん明日はどうしますか?」
「そうですね……今のティアさんならいけそうですが、お金も貯まって装備も揃えたいでしょうから明日はお休みにしましょう」
小さくガッツポーズするティアを笑っていると数人のブロンランクのウォーカー達がティアの方を見ていた。
ティアもそのウォーカーとは知り合いだった様で手を振って挨拶をする。
「知り合いですか?」
「はい。見習いの頃からの知り合いですね。一人はシバルランクなんですよ」
「なるほど。積もる話もあるでしょうし私は先に宿に戻っていますので」
「分かりました先生!お疲れ様でした」
ティアの顔なじみのウォーカー達にも頭を下げてからソールは宿へと戻る。そしてベスパに夕食を作ってもらいそれを食べながら少々世間話をする。
「ベスパさんから見てティアさんはどうですか?」
「ん?確かにあんたが言う様に天稟はあるね。魔物とかの勉強もしてる様だし……確かにウォーカー向きだね。ただ……」
「ただ?」
「ウォーカーに向いてるって奴ほど死が近いんだよ。オルティアは別だけどランクが上がるごとに戦う魔物も強くなるからね。ランクが上がったからと言って死が遠くなる訳じゃないんだよ」
「あーなるほど。自分は何処まで戦えるんだろう?何処までできるんだろう?この先になにがあるんだろう?……一歩間違えば普通に死ぬ世界で向いてるって事はそういう事ですよね?」
「ソールは絶対に元ウォーカーだろ……。向いてる奴は安全な依頼を受けて手堅く稼ぐって事をしないからね。そういう奴は商人になるかどっかにお抱えの傭兵になったりするもんさ」
「傭兵になったらなったで対人になるので楽でもないですけどね……」
「言葉が通じる分魔物よりはマシだけどね。奴隷にでもなって生きる事はできる。魔物が相手だとそういうチャンスすらなく餌だからね」
「……ウォーカーに向いている妹さんですか。姉のディアナさんは気が気では無いでしょうね」
「私の口から言う事じゃないが……あそこの両親は両方共ウォーカーでね。ディアナがティアくらいの時に帰って来なくなったんだよ。ディアナは元々賢い子だったからすぐに協会で働き始めて小さいティアを育てたんだよ」
「……凄いですね」
「普通なら売られるとかされるんだけど、両親が一流のウォーカーだったって事もあって蓄えもあったってのも大きいね」
「なるほど……それであれだけしっかりしてるんですね」
「両親がウォーカーで死ぬってよくある事なんだけど……まぁ見かけたら優しくしてやりな。あんたはあの姉妹と仲が良いだろ?」
「そうですね……お姉さんの方を悲しませない為にも妹さんが死なない様にもう少し鍛えますか」
「そりゃいい。私の方ももう少し真剣に相手してやるか。ソールはゆっくりしてな私はちょっと木剣とか探してくるよ」
「あいあいさー」
奥に消えて行くベスパ見送りながら一人モクモクと夕食を取っていると宿の扉が開き先ほど別れたティアがやって来た。
「ソール先生。飯中ごめんなさいなんですけどちょっといいですか?」
「大丈夫ですよ。あと細かい事ですが飯中ではなく食事中と言った方が少しできる奴と思われるかも知れませんよ」
なるほど! と納得するティアに椅子を用意して隣に座らせ話を聞く。
するとどうやら先ほどの同期のウォーカー達とパーティーを組んで討伐の依頼を受けたいとの事だった。
日にちは明日で場所は沼地の方角にある洞窟でラットマンという二足歩行のネズミの討伐という物だった。
「なるほど。そのラットマンの危険度は?」
「はい。ブロンランクの初心者が受ける物ですね。先ほどの人達の中にウォーカーになったばかりの人がいるので経験を積ませる為みたいです。距離はありますがお金を出し合って魔導車を借りるので夕方には戻って来る予定です」
地図を見せてもらい沼地と洞窟の位置を確認する。少し距離はあったが自分達で考えこれなら大丈夫だと判断したならソールからは特に言う事は無かったので許可をする。
「私の方から口うるさく言う事は無いので一つだけ。お姉さんを泣かせない様に生きていればどうとでもなりますから」
「分かりました!任せておいてください」
「それと明日行くのは良いですがベスパさんとの稽古に出てから行く様に」
「おう……頑張ります」
肩を落としながら宿を出るティアを見送ると入れ替わる様に奥からベスパが木剣などを持って戻って来たので今の話をベスパに伝える。
「私はそのラットマンを知らないのですが……大丈夫そうですか?」
「よく食べて増えやすいぐらいが特徴の魔物だからよっぽどの事が無い限り大丈夫だよ。たまに農場にでるけど一匹~二匹なら一般人でも農具で倒せるね。ただ数が多いのが問題だね。まぁシバルランクもいるなら問題ないはずだよ」
地図で見ても怪鳥が飛んでいる辺りよりもかなり遠かったのでこれ以上は考えても仕方ないとティア達の討伐が成功する様にソールは願った。そして夜が過ぎ朝を迎えた。
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