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魔法使いは知らない世界を旅する  作者: 絵狐
一章 新世界
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十六話

 夜が明けるよりより速くソールは目覚める。


 顔を洗い簡単な朝食を取った後に東の橋を渡り街を出る。そして軽く運動をした後に辺りに誰もいないのを確認してから昨日帰ってきたばかりの丘の上に向かって全力で疾走する。


 出会った事の無いような強敵がいた場合の事を考える。今の自分はどういうわけか弱体化を喰らっておりそれを少しでも補う為に体力をつけるトレーニングだ。


 今日はティアも休みなので身体能力の高いソールが街道を駆け抜ける速度は魔導車よりも速く、気がついた魔物がいても追い着く事は不可能だった。


 一時間ほど緩急がある丘を駆け抜けると見覚えのある薬草の群生地が現れる。


「ふぅ……転移魔法で移動してた弊害ですね。元の世界にいる限りは気付かなかった事なのでありがたい事ですが……ん?」


 索敵に範囲に大きな気配があったのでそちらに眼を向けると、ティアに教えてもらった怪鳥が空を飛んでいた。


 昨日と同じ様にその姿をブレスレットに記憶してから観察する。


 翼や尾羽はあるが翼は体を守る様に外骨格の様な物が存在し嘴や爪といった物もとても鋭く鋭利で遠目から見れば鳥に近いが竜に近い様な姿をしていて異世界人のソールが見てもかなりの戦闘力を有する事が見ただけで解った。


「魔物なのかただの大きな鳥なのか?帰って調べないと駄目ですね。向こうもこちらを見ているので襲ってきそうなものですが……」


 他に用があるのかソールの強さが分かっているのかは分からなかったが怪鳥オプキュティアの眼は確実にソールを捉えていた。


 これ以上ここにいても用事はないので昼丘草を調べる為に二房ほど引き抜きアイテムバッグにしまってからソールは丘都市に向かってまた走り出した。


 その道中でティアを連れてきた時の為にアナグラトカゲを煽ったりして無事に丘都市へと戻り宿へと向かうと宿の裏手から何かがぶつかる様な心地良い音が聞こえた。


 その後に聞こえた声は死が近い人の声に似ていた。


「ベッベスパさん……きょ今日は筋肉痛で……動けません」


「いけるいける。口が動くなら手足は動く。昼丘草の採取ぐらいで筋肉痛になるぐらいなら体力が足らん。ソールが言うみたいにティアは体力つけな!」


「違うんです!」


「違わない!剣を振るにしても体を動かすにしても何処かに無駄な力が入ってるから疲れるんだよ。ぶつくさ文句言う前にかかってきな」


「ここにも鬼がいる!」


「そら、ウォーカー時代は鬼蜂のベスパって呼ばれてたからね」

 

 筋肉痛で生まれたての子鹿の様にプルプルと震えるティアだったが何とか剣を構え気合いと根性で体を動かしベスパに斬りかかる。


 本調子ならともかく今の状態では相手になるわけもなく簡単にいなされ程よいサイズに割った薪で頭を殴られる。


「ぐへぁ……死ぬ……」


「踏む込みが足りない。もう少し頭を使って斬りかかってきな魔物でももっと賢いよ。それと今ので死ぬって思うなら次からは頭を守る装備も用意しな。もう少し時間あるから打ち合うよ。しっかり構えな」


「待ってください!」


「待たない」


 若いという事は本当に素晴らしいなと思いながらソールは自室に戻りシャワーを浴びて汗を流した。


 そしてお茶を準備し少しゆっくりした後に資料室で本を読む為にウォーカー協会へと向かった。


 協会に着くと宿で顔なじみになったウォーカー達も以来の更新に来ていたりしたので少し世間話をした後に資料室に向かった。


 重厚な扉を開けて中に入り調べる事は沢山あったがまずは自身に弱体化の原因を作っているであろうスキルの事を調べる事にする。


 そこまで大きな部屋では無かったが、歴史や宗教、魔物や鉱石などの資料が揃っていたので目的の本を探すのに少し手間取る。


 スキルの本を探す道中で迷宮の事が書かれていそうな本等を手に取っていくとようやく目的の本を見つける。


 換気はできるが窓の無い部屋だったので灯りの近くのテーブルに大量の本を置きソールは座って読み始める。


 スキルとはロトナが言っていた様に昔は加護と呼ばれ現在はスキルと呼ばれている物で、発生の条件等は解明されていないが生まれた頃から持っている物と後から身についた物でもスキルが同じなら効果は同じと書かれていた。


 ただ切れ味が上がるスキルを持っている場合、一般人と戦士では鍛えられた身体能力が違うので後者の方がスキルを戦いにいかせる。ただ一般人がそのスキルを持っていてもいかせる場面は多いので戦闘に役立つスキルがあるからと行って無理にウォーカーや国を守る騎士になる必要は無い。


「ん~?武器の切れ味が上がるのが身体能力で切れ味が上がるのかは書かれていないのですね?極端な話になりますが……手刀も材質が人の手という刃ですし」


 頭に?マークを浮かべながらソールは次のページを読み進めていくとその疑問に答える様な内容が図と一緒に書かれていた。


 魂の形を肉体や精神に宿したもので本人の魂がそう認識すれば武具魔法問わずにその効果が乗る。


 魔術師が使う火球と言う術があるが先のページ書かれた切れ味が増加するスキルが乗ると炎が刃の形になり飛翔し相手を切断後に炎に包まれる。


 魂が認識しない場合。棍棒やメイスといった武器には切れ味が増加する様なスキルは非常に乗りにくい。棍棒やメイスといった物は叩く物であり斬る物では無いからだ。ただ例外も存在し魔術や魔導により刃を発生させれば切れ味が増加するスキル等は乗る。ただこの書を読んでいる君や知人に切れ味が増加する系統のスキルを持っていた場合は他の武器に交換する事を強く勧める。



 さらに読み進めていくとロトナが言っていた様にスキルを持っている人は本当に少なく千人に一人か更にそれより少ないと書かれていた。


 ただスキルを持っている人は持っていない人に比べて優位なようで同じ魔力なら圧倒的にスキル持ちの方が強くそれは神様からもらった物だからと書かれていた。


「なるほど……形になって表れるだけで要は才能と一緒なんですね。別にスキルが無くても炎の刃は出せますしね」


 声に出した事でロトナが言っていたスキルにその人の生き方が引っ張られる訳では無く、あれば便利なおまけという言葉が心にスッと入り込む。


 もしスキル持ちと戦闘になってもどんなスキルを持っているかなど教えてくれる訳でもないので気をつけながら戦う。といういつもの同じ考えにたどり着く。


「物語みたいに……ぐへへ。俺のスキルはこういう物でこういう効果があるんだぞ。と言う奴はいないでしょうしね」


「そもそも自分のスキルも知らない人も多いですからたぶんそんな人はいないと思いますよ」


 ソールがゆっくりと顔を上げるとそこにはトレイにカップや茶菓子を乗せたロトナが立っており、断りを入れてから机の上の本を少しかたづける。


「ソールさん。朝からずっと本を読んでいる様なので休憩した方がいいですよ。珈琲と紅茶どっちがいいですか?」


「ありがとうございます。では珈琲でお願いします。ミルクと砂糖多めで」


「分かりました。ソールさんは見た感じ砂糖とかミルクとか入れなさそうなので少し意外です」


「人生が苦いので珈琲ぐらい甘くても良いかなっと思っているので」


 それが面白かったのロトナは笑いながらソールの分と自分の分の珈琲と茶菓子をなれた手つきで用意する。


 準備が終わりソールの向かいに座って入れた飲み物を飲みながらソールの読んでいた本に目を向ける。


「スキルの本ですよ。他にも気になる事はありますがまずはこれですね」


 そうなんですねと言った後にソールの顔を見ながらロトナは何かが書かれた紙を取り出しソールに渡す。


「これは?」


「余計なお節介と言われたら泣きますけど、昨日ソールさんが収納の魔術っぽいの使った時に違和感があったのでそれを隠す様にする為の方法ですね。私から見ても変だったので上位のウオーカーの方々が見ると違和感がばりばりだと思うので用意しました」


「それで変な奴を見る顔で見てたんですね」


「はい。資料室でぐへへとかいう魔術師は十二分それに値するかと……冗談は置いておいて、収納の魔術を出す時は術式がでて魔力が流れるんですよ。収魔導でも似ていて書かれた文字に魔力が流れ収納が発動します」


 やはり魔法と魔術は全然違い見る人が見ればわかる物だなとソールは警戒する。


「ソールさんのはそのどちらでも無いような気配があったので少し気をつけて欲しいと思いまして用意しました。ソールさんが物を取り出す時に周りから見てあまり違和感が無いようにする方法ですね」


 どうして最近あったばかりの自分にそこまでしてくるのかが分からなかったので、ロトナに疑問をぶつける。するとロトナは少し困った様に笑いながら自分も昔はスキルのせいで困った事になったのでソールの事も放っておけないとの事だった。


「後は友人のディアナも助けてもらったので少しは恩返しできれば良いなと思いまして」


 ロトナの全てを信じる事はできないが、この人には話しても良いと思いソールは腰に着いているアイテムバッグを取り外し机の上においた。


「私は収納の魔術も魔導も使えません。この小さなカバンはアイテムバッグといってこの中に装備や物を入れる事ができるんですよ」


 ソールはそのバッグの中から戦闘の時はいつも使っている杖を取り出し、ロトナに見せると眼を大きく見開き驚いていた。


「えっと……ソールさん。そのアイテムバッグでしたかそれは何処で手に入れたんですか?」


「それは言えませんが、その様子だとこの国では特殊な様ですね。ちなみに容量は思った以上に入りロトナさんでも使えます」


「でしたら絶対に偽装してください。そのバッグの価値は計り知れません。収納の魔術は使えない人も多いので収納が使えるだけでも仕事があったります。収納の魔導具も本当に高いので持ってる人もすくないので」


「なるほど……今日はロトナさんに会えてよかったです」


 それからソールはロトナに教えてもらいながらアイテムバッグを収納の魔術に見える様に練習をする。それは難しい事ではなくアイテムバッグから取り出すときに文字を出したり光らせたりするだけの物だったので簡単にできるようになった。


「これで大丈夫そうですか?」


「はい。近くで凝視されない限り大丈夫だと思いますよ。後はブロンランクのウォーカーが収納の魔術を使ってるの少しはおかしいですがウォーカーブレスレットを破壊すれば一からなのでそこまで怪しまれないと思います」


 ソールは頭を下げて礼を言い、ロトナも今日は仕事も終わりと言う事なので二人で話をしながら本を見ることになりスキルの本を読んでいると思いだしかの様にロトナが話し出した。


「ソールさん。昨日の怪鳥ですが、オプキュティアで間違い無いようです。大きいのはウォーカー長、曰く【巨大化】かそれに似たスキルだろうとの事です」


「……魔物でもスキルって持っているんですか?」


 むしろ魔物の方が多いですよと苦笑しながらソールが持ってきていた本を取ってパラパラパラっとページをめくるとその事が書かれていた。


 魔物の方が持っているスキルの種類が持っているスキルの種類は多くとても多彩でそれが本能なのかは分からないが人よりも使いこなしそのスキルは子に遺伝する。


「魔物ってけっこう厄介ですね……」


「どうなんでしょう?人の方がひどい気もします。ソールさんも私も生まれる前の事故ですが、魔物のスキル発生させる実験があって小さなネズミの魔物を捕まえて真っ暗闇で餌を与えたり攻撃する実験がありました。その実験は数年続けられ有る時を境に真っ暗なのに攻撃が当たらない魔物が発生しました」


「……スキルに目覚めたんですか?」


「そういう事です。極限状態からスキルに目覚め他のネズミと子孫を増やし暗視のスキルを持った魔物が生まれました。それで実験場から数匹が逃げ出し真っ暗でも目が見える小型の魔物が誕生した事件があったので人も大概ですよって話です」


「どこの世界でも人間はやらかしてますね」


 今回のオプキュティアも今後は大型のオプキュティアを産む可能性があるのでもうしばらくは情報収集をするがそれが終わり次第討伐の依頼が出される事だった。


「そういう訳なのでソールさんもお手数かけますが、また見かけたら情報提供お願いしますね」


 分かりましたと言ってソールはロトナにブレスレットを渡す。


 不思議そうな顔をして受け取るロトナにソールは今朝も見かけたと言う事を伝えた。


「えっと……疑うわけではありませんか本当ですか?」


「はい。体力をつけようと思っていて群生地までしばらくは走るつもりなので」


「高位のウォーカーなら走れると思いますが……分かりました。ありがとうございます」


 仕事は終わっているのにブレスレットを受け取りロトナは礼を言う。


 気にしないでくださいと笑いながら言った。雷系等以外の魔法や魔術を使えない理由は分からなかったが、ある程度スキルの事も分かったので次は迷宮の事を調べようとした所で無情にも資料室閉館の鐘が鳴る。


「時間ですね。ソールさん手伝いますので片付けて出ましょう」


「分かりました。迷宮の事は明日にでも調べようと思います」


 資料室に鍵をかけ二人は資料室を後にした。

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