十五話
アナグラトカゲの襲撃にあったりするハプニングはあったりしたが予定より少々遅れたお昼すぎに目的の昼丘草の群生地にたどり着いた。
たどり着くやいなやティアはその場で崩れ落ち仰向けに寝転がる。
ソールも身体強化魔法が使えないので身体能力のみでここまで走って来たので些少の疲労を覚えた。
「死ぬ……先生は元気ですね……」
「昼食をとったらさっさと採取しますよ。帰りも走りますからね」
「おぅ……忘れてました……」
昼食を取る為に立ち上がろうとしたティアだったのか帰りのことはすっかりと抜け落ちていたようで思いだした瞬間に膝から崩れ落ちた。
そんなティアを無視しながらソールはベスパからもらった昼食を取り、特定の魔法系統しか使えない自分の体の事を考えていた。
(使える魔法で速度は上げられても持久力は上がりませんね。魔術、魔導で補える物があれば良いですが……魔力が尽きれば駄目ですし、しばらくは体力をつける方向で考えた方がよさそうですね)
これからこの世界を旅するに当たってまだ知らぬ強敵達の事をソールは思い自身と隣でくたばっている生徒の鍛錬方法を考える。
「そういえば都市で空を飛ぶ人って見なかったですけどそんな魔術はこの辺りには無いんですか?」
なんとか体を起こしソールから昼食を受け取りティアは答える。
「風の魔術にありますよー。触れた所から魔力量に応じて背丈の何倍か飛べるとか何とか聞きました。魔導の方にもあるので微妙に空飛ぶ靴がありますね。他の都市は知りませんが丘都市は飛行禁止なので飛んでないと言う訳です」
「その感じだと鳥の様に飛べる訳でもないんですね」
「どうなんでしょう?お姉ちゃん曰くスキルとかみ合えばめっちゃ飛ぶとか言ってた記憶がありますね。そうそう湿地帯に行く時は空飛ぶ靴はほぼ必須らしいです」
「なるほど。魔物も強いですし変に飛んで的になるぐらいなら移動の補助として使う方がいいかもしれませんね」
「翼人のピュテア族という人達もいるので敵とか探したい時は頼めばいいと思いますよ。まぁ基本的に丘都市は辺境ですから人間族ばかりですけどね。たまーに多種族とか来ますよ」
まだまだ知らない事は多く学ぶことは沢山あるとソールは笑った。
ティアには休憩する様に言ってからソールは立ち上がり依頼票を再度確認して昼丘草の採取を始める。
「そうそう。ソール先生。たまに似てる植物があって私達の様な素人だと判別が着かない物は依頼票とかが写る半透明のを通せば勝手に調べてくれますよ」
教えてもらった通りに採取した昼丘草を通してみるとスキャンされ昼丘草の詳細な情報が表示された。
その性能の高さに自身が元いた世界より魔法による技術は進んでいるなと今一度驚いた。
依頼にあった昼丘草の数は四十房だったので丁寧に根っこから引き抜きソールのアイテムバッグにしまう。
その際にティアが多めにとるかと尋ねたが、しばらくの間はここまで走り込みに来るつもりだったので無駄にとる事は止めようと伝えた。
「群生地になっていて日当たりが良い所ならすぐに生えるみたいですが乱獲する物ではありませんからね」
分かりましたとティアが元気よく返事をするとソールの雷の触角に大きな何かが引っかかる。
それは空を飛んでおりかなりの速度だったのですぐにティアの頭を抑えしゃがませる。
二人の頭上を巨大な鳥が通過する。
二人の事は眼で追っていった様だったが用事は無いようで山の方へ向かって飛んで行った。
割と大きかったですねとソールが話しかけるとティアは少し頭を傾げ答える。
「たぶんですけど……あれは怪鳥オプキュティアと思うんですけど……この時期はいないはずですし知ってる物より数倍デカいですね」
なるほどと頷きながらかなり遠くを飛んでいる怪鳥にウォーカーブレスレットで何枚かの映像を撮影する。
「ティアさんもこういう時はブレスレットに記録を残す癖をつける方がいいかもしれません。貴女のお姉さんは職員ですし気になった事はすぐに聞けますから」
「あっそうですね!なんかその方が仕事のできるウォーカーっぽいですもんね!」
「はい。仕事のできるソールさんと言ってください。まぁ冗談は置いておいて冒険者ではなくウォーカーなら普段と違うと思ったら気をつけた方が良いと思いますよ。何かの前兆と言う事もありますので」
分かりましたと返事をする頃には怪鳥オプキュティアの姿も見えなくなり納品に必要な昼丘草も全て集まり後は帰るだけとなった。
「ソール先生……また走るんですよね?帰りの方がキツい気がします」
「私の国の言葉で行きはよいよい帰りはめんどくせーと言うのがありますので仕方ありません。ティアさんも体力をつけて私の超必殺技のギガ・ソール・ブレイクを使える様に頑張ってください」
「……ソールってけっこう適当ですよね」
「言いませんでしたか?魔術師にはいい加減な奴が多いと。さて。本当に帰らないと夜になるので帰りますよ」
「そうですよ!すぎてはいますがまだ黒い月に近い夜だった速く帰らないと!」
ソールを先頭に二人は来た道をかなりの速度で引き返す。
その道中で弱めの魔物と戦ったりまたアナグラトカゲに追いかけられたりしていると夕方をすぎ夜が顔を出し始める。
黒くなく灰色の夜だったが魔物達は活発になって動き始め、ソールやティアに向かって襲いかかって来る。
「ティアさんの課題はやはり体力の向上ですね。もっと速度も上げて欲しい所ですが……続ければ上がってくるでしょう」
「先生は魔物に追われているのに余裕ですね!」
「都市の近くまでいったら倒しますのでティアさんは追い着かれない様に頑張ってください」
「目の前に人の皮を被った悪魔がいる……」
「いいえ。この世界に悪魔がいるのかは知りませんがいないのであれば悪魔に一番近いのは人間です。それは覚えておきましょう」
「この世界ってどういう……と言うか先生!目の前にヘルゲーターいますよ!」
「ソールニー」
気合いの抜けた声とは裏腹に雷を纏い一気に加速したソールの膝蹴りがヘルゲーターでは捉えきれない速度で頭部に直撃し簡単に頭部と胴体を切り離し絶命させる。
「先生……魔術師ですよね?」
「さぁ?どうでしょう。それよりも口を動かす暇があったら足を動かしましょう」
「そうなんですけど!素材は!」
「取りに行っても良いですけど絶対に死にますよ?」
ティアが振り返るとそこには大量の魔物が着いて来ており現状を思いだし諦めて足に力を込める。
そんなハプニングもありながらひたすら走るとようやく丘都市が見え始めた。
その頃には追いかけてきた魔物達も諦めた様で追いかけて来るものは全くいなくなっていた。
街にたどり着き疲れて倒れそうなティアに特製ソール茶を飲ませて動ける様にしてから二人でウォーカー協会に向かう。
協会に行くとディアナはいなかったが受付にロトナがいたので二人はそこに向かった。
「ロトナさん。今晩ちゃろー」
「はい。ソールさん。今晩ちゃろー」
「ロトナさん。こんばんはです。なんですけどソール先生もその挨拶はなんですか……」
「内緒です」
「はい。内緒ですね」
疲れていたのと今日一日でソールの性格がなんとなく分かったティアはそれ以上、聞くのを止めた。
「ロトナさんすみませんが、ティアさんとパーティーを組んで採取の依頼を達成してきたので確認をお願い出来ますか?」
「分かりました。一度ブレスレットを預かり確認しますので、お二人ともお願い出来ますか?」
二人は頷きロトナにウォーカーブレスレットを渡した。
頭をさげてからそれを預かり二つのブレスレットを石版の様な物にはめ込むとソール達が見るような半透明の依頼票がロトナの前に出現する。
それを慣れた手つきで操作し確認すると礼を言ってから二人にブレスレットを返した。
「ありがとうございます。確認出来ましたので以来の昼丘草を出してもらえますか?
「分かりました。ここで出しても大丈夫ですか?」
「はい。大型の討伐や素材の収集ですと。移動してもらうんですが、今回の依頼品はそこまで大きくないので大丈夫ですよ」
分かりましたと返事をしてからソールはアイテムバッグの中から昼丘草を丁寧に並べていく。
嬉しそうな顔のティアとは別にその光景を不思議そうに見ているロトナがいた。
そして全てを出し終えると数を数えながら昼丘草をソールが昼間にティアに教えてもらったように調べていく。
全て調べ終わると丁寧に頭を下げて礼を言った。
「ソールさん。ティアさん依頼を達成して頂きありがとうございます。昼丘草は需要はありますがまとめて採取しようとすると少し遠いのと危ないので低ランクの方々は嫌がるんですよ。ですけど中ランク高ランクになると他の採取や討伐の方が人気もあり稼げるので」
「魔導車も借りないと遠いですしね」
「はい。レンタル料も差し引くと他の依頼の方が良いと言う人が多いんですよ。回復薬を作るにしても代用が利きますので。ですが昼丘草はあれば様々な薬に使えますのであって困る物ではないのでありがとうございました」
「役に立ててよかったです。しばらくはこの依頼を受けるのでよろしくお願いします」
その言葉を聞いてティアは人では無い何かを見る様な目でソールを見ていた。
そして報酬をもらった所で一つ思いだしロトナに話す。
「ロトナさん。ここから東にいった丘の上の昼丘草の群生地の付近で怪鳥オプキュティアを見ました。私は見た事が無かった鳥なので判断がつきませんが……ティアさんが倍くらい大きかったと言っていました。かなり遠目ですが映像の方を残してあるので確認してもらえますか?」
「分かりました。先ほど受け取ったブレスレットから記録はこちらに移っていますので確認し後日詳細を伝えるようにします」
「わかりました。問題が無さそうなら放置で問題ないので問題がありそうなら私かティアさんに教えてもらえますか?」
畏まりました。と話はそこで終わりソールとティアはウォーカー協会を後にする。そして今日の報酬を二人で分けてから二人が戻る場所へと向かった。
「魔導車を借りてないので二人で分けても報酬がおおいです!」
「はい。当分は走りますのでしっかり貯めて欲しい物を買ってください。それと明日と明後日はお休みで明明後日にまた行きましょう」
「分かりました!私は元気なので全然いけますのでソール先生が行きたくなったら声をかけてくださいね!」
「明日になれば分かりますよ。と行っても明日は資料室にも行きたいので早くても明後日ですね」
了解ですと敬礼のポーズをした後にティアは家に向かって走って行ったのでソールも宿に戻った。
今日は冒険者の数も少なくほとんどが出来上がっていたので奢ってもらうのは諦め、ベスパに適当に夕食を頼んだ。
一人で夕食を食べているとソールの隣に仕事終わりと思われるディアナが座った。
「お疲れ様です。ディアナさん仕事帰りですか?」
そうですと行ってからディアナはベスパに持ち帰りの食事を二人分頼んだ。
食事はすでにできてた様でディアナはベスパにお金を払ってからソールに質問する。
「ソールさん。ティアはどうでしたか?迷惑とかかけてませんでしたか?」
今日が初めての依頼と言う事を知っていたベスパも近くに座り話を聞き始める。
「正直に言った方がいいですか?」
「はい……お願いします。ある程度は妹の判断に任せようと思うのですが……」
「他の人と依頼をしてないので判断が難しいですが、ティアさんは自慢して良い妹さんですよ。少し難しい話になりますが、一番鍛えるのが難しい心がすでに強いですし自分の形をすでに持っています」
褒められるとは思っていなかったのでディアナは少しだけホットし、隣で聞いていたベスパもさらに興味深く聞き始めた。
走って行ったとまでは言わないが道中でティアに教えてもらった事や動きながらでも魔術を使用していた事などを伝えた。
「へーブロンランクになったばかりでそれは凄い。シバルぐらいの実力はあるかもね」
妹を褒められ少し嬉しそうなディアナだったが危ない所もあるとソールは告げる。
「他のブロンランクの方の実力は分かりませんが……生半可に色々できる分少し心配です。私もそうだったので言いますが同ランクで比べて強かったりすると調子にのって一人で何でもできると思うようになるんですよね」
「なるほど……」
「上の人について色々学ぶのが一番良いと思いますが……私は魔術師ですから剣士の戦闘に関しては教えるのは難しいですね」
「確かに……ソールが言うのも分かるな。ブロンとかシルバで真っ先に死ぬ奴はそんな奴が多い」
心配そうにディアナがどうすればいいんでしょうと尋ねるとベスパがソールに質問する。
「ソールとはティアにどういう稽古つけてるんだ?」
「私は剣士ではないので変に教えて余計な癖がつくと困るので何も剣に関しては何も教えないつもりです。しばらくは体力作りですね」
「なるほどね……よし分かった。剣とか戦い方は私が少し教えてやろう。朝なら少し時間はあるからね。毎日、模擬戦でもやれば嫌でも身につくだろう。と言う訳でディアナ。明日の朝からティアにウチに通うようにいいな」
「あっありがとうございます。……お金の方はどうしましょうか?」
「そうだね。模擬戦が終わったら掃除とか皿洗いでチャラにしておくよ」
ディアナは二人に何度も頭を下げて礼を言うがティアが知らない所で色々と決まっていった。
(明日は筋肉痛で動けないと思いますが……ティアさんは若いので大丈夫でしょう)




