【ノクターンと千の愛】
「もしもし?」
「…………」
「もしもーし?ちぃーかぁー?」
受話器の向こう側の不気味なほどの静けさに、砂嵐のテレビのような電子の粒の音が無音で流れているかのよう。
もしかして倒れた?また過呼吸かしら?一抹の不安が百合子の脳裏によぎる。
「もしもし?千歌?大丈夫?どうした?」
「……マーマ」
千歌の低い声は、幼い子供のようであり、だけど、まるで壊れた機械音のように背中にゾクッと寒気が走る雰囲気を醸し出していて、おもわず百合子は、ギョッとした顔で携帯電話を耳からバッと離してその画面を見てしまう。
鳥肌が、ぶわぁーっと身体中をめぐる。
「…ん?…どうした?」
落ち着け。大丈夫。
その千歌の異様な様子に、百合子はザワつく衝動を隠して、優しくいつも通りに問いかけた。
千歌は、ボソボソと話し出す。
「…ママ……アイツが来た」
「…え?」
「アイツが来て……」
千歌の話し声が、いつも通りよりも低い。浅い呼吸。小さく震えてるのが伝わってくる。
翔平くんとの約束の時間に合わせて、私、出掛ける支度をしてたの。
“みんなと同じ個性”の有名ブランドのマフラーを手に取ろうとした時だった。
突然、部屋のモニターフォンが鳴って…オートロックの方が鳴るならまだしも、コンビニ音の方がいきなり鳴るから、私びっくりして一瞬固まっちゃったよ。だってご近所さんとの付き合いも一切ないんだし。
妙に明るい。千歌の普通すぎる話し方に違和感を抱く。くぐもったような声…?
千歌が「コンビニ音」と呼ぶ、コンビニエンスストアの入口が開く時の部屋のチャイムが響き渡ると、千歌の身体はビクッと小さく振れた。
―水漏れ…とか?かな?―
なんか、そんなこと頭で考えたりして。
その異様な違和感を覚えながらも、恐る恐る「…はい?」と出てみる。
モニターを見たその瞬間、千歌の血の気がサーッと引き、全身に冷えた感覚がものすごい勢いで流れ落ちていく。
「千歌ぁー!ここにいたんだねー!?」
義父・橋本だった。
およそ6年ぶりにモニター越しに見た“アイツ”は随分と痩せ細り、ドス黒く、やつれ、老け、印象がまったく違うものになっていた。
「なんで…?オートロック…」
「あぁ、住人が出掛けるみてぇだったから、「おはようございまーす!」って、愛想良く簡単に入れたよ。開けて?【田中…幸子】さん?」
濁ったダミ声が、ガサガサと薄ら不快に笑う。
ママに知らせなきゃ。
震えながらも無視しようとした千歌は、産まれたての子鹿のように脚をガクガクさせながら壁にすがりつく。
どうしよう。身体が動かないよ。その場から動けずに立ち尽くしてしまう。
モニターフォンは、下品に鳴り響いている。
橋本は、ドアノブをガチャガチャしたり、ドンドンドンドンとドアを叩いたり、バタバタバタバタとドアを引っ張っているような騒がしい不快な音をたて続けた。
うるさくしないで。近所の人に気づかれてしまう。…私、なんでわかんなかったんだろ。
なんのために近所の人に知られたくないのか。コイツに知られないためなのに。バカだよね。
近所の人に通報してもらえば良かっただけの話なのに。本当に何考えてたんだろうね。ドジ。
千歌は思わず震えるお母さん指で通話を押す。
「帰って…ください」
ガクガクと震える顎、カチカチと震える歯をなんとか押し込んで、隠しきれない震える声を絞り出す。
「【佐伯翔平】くん…?おまえの彼氏、良い男だな。」
なぜ翔平くんの名が。
橋本がモニター越しにペテンな笑顔を向ける。
痩せこけたからか、橋本の瞼の小皺が窪んで黒く影のように見えて、怪しさに拍車をかけていく。
「…なんで」
全身の細胞という細胞、身体中の全機能が遺伝子レベルで拒絶拒否反応を起こす千歌は、氷河期が突然襲って木登り中に凍りついた小動物のように心が瞬間凍結した。
「開けろよ千歌ぁ?ちゃんと話をしよう?」
笑っている。笑っていない。あの頃と同じだ。児童相談員の人が家に来た時の追い返す時の繕い笑い。
無理。アイツが戻ってくる。笑ってない笑いで向かってくる。また口を塞がれてお腹に火の粉を押し付けられる。怖い。ダメ。…グッッッと強く瞳を閉じる千歌。
「そぉ~れともぉ~…佐伯くんとこ行ったほうがいいかなぁ?」
翔平くん?
私たちは、あの日どうして目を合わせてしまったんだろうね、音楽室の扉を挟んで。
翔平くんは、どうして私なんかに興味を持ってしまったんだろう。
私はどうして、翔平くんへの想いを諦められなかったんだろう。
「佐伯くんの顔って、豆柴に似てるよね!?」
「くぅ~ん。」
可愛い翔平くんの豆柴スマイル。あんなに楽しい時間を過ごせるようになれるなんて、全然おもってもみなかったんだよ?私。
初めて翔平くんと目が合ったあの時、あの音楽室の小窓から覗く瞳が、くすんだガラスをピカピカに拭きあげちゃうくらいにクリアに目に飛び込んできて、私「なんて澄んだ綺麗な目なんだろう?」って、吸い込まれちゃうんじゃないかって、本当は身震いするくらいだったんだよ?私なんかが踏み込んじゃいけない眩い光の領域。
なんだか怖くなって、思わず目をそらしてしまったよ。
「おい、ガキの分際で随分良いとこ住んでんだな?賃貸?買ったの?あ、優子の保険金だろ?」
職業柄、身なりだけはまともだった、忌まわしい“アイツとの暮らし”からは、まったく違う橋本の趣味の悪い龍の描かれた黒いスカジャンにしおれたチノパン姿に、千歌は険しい表情を隠しきれない。
橋本からは、タバコとは別に、公衆便所のような何とも言えないキナ臭い汚臭が鼻先に漂ってくる。
「ふんっ。まぁいいや」
橋本はタバコを取り出した。
「やめて」って言う言葉を私は飲み込んだ。だって火災報知器が反応してくれるとおもったから。
騒ぎになれば…
「今、こういうの付いてっからな。」
橋本は、くわえタバコの薄ら笑いで火災報知器を指差し換気扇を回すと「これ使うぞ」と適当に水切りかごに置かれた小皿を灰皿代わりに取り出した。
千歌は、リビングのドアの前で震える身体を押さえつけ、人間の勝手で簡単に捨てられた薄汚れた野良猫のような“人なんて信用しない脅えた目つき”で、フローリングの木目の一点にピントを合わせていた。
「お母さんが死んで…千歌と離れて…お義父さんの人生めちゃくちゃだよ。」
ため息混じりに白い煙を「ふぅーーっ」と、換気扇めがけ深く吐き出す。
―ふざけるな。お前のせいで…―
ここまで…喉元ギリギリまで出かけた言葉を飲み込んで、千歌は、自分の震える拳を後ろに回して堪えていた。
「おまえらが勝手なことするから、逮捕はされるわ、仕事はクビになるわ…大変だったんだぞ?俺。」
ガラガラとした復讐混じりのため息声で話すと、橋本は換気扇から目線を千歌に移す。
―ふざけるな。勝手はどっちだよ…―
怒り、怨み、憎しみ、小さな身体に巻き戻す。
「パチンコやら馬やらですっちまってなぁ。借金で火の車。首が回んねぇのよ。なぁ、チョット金貸してくれよ?優子の保険金まだ残ってんだろ?」
この6年間、橋本はずっと千歌を捜していた。
千歌が助け出されたあの日、百合子が事前に警察に通報していたことで、橋本は傷害の容疑で現行犯逮捕された。
到着した警察官に対して、暴れる・パトカーを蹴るなどをしたことで、公務執行妨害罪。
さらに千歌への悪質な虐待も発覚し、身柄を拘束された橋本の罪はさらに重くなった。
結局、橋本には3年の懲役刑が下された。その非道な行為に執行猶予はつかなかった。
刑期を終えても、勤め先からも解雇となっていたことで社会復帰は甘くなく、ギャンブルに薬漬けのフラフラとその日暮らしを続ける中で、自分の人生をぶち壊された腹いせのほこさきは、あの日から執拗に千歌へと向けられていたのだった。
悪いツテは中々便利に働くもので、百合子のお店を突き止め、そして、ようやく千歌を見つけ出した。
獲物を逃さないようにタイミングを図り、結局は金をせびりに利用しに来たというお粗末な内容だった。
翔平くん?
翔平くんが声をかけてくれるたびに、私の卑しい心が“もう一度、もう一度だけ”って、翔平くんの透き通る瞳を欲しがってしまってたんだ。もう一度目を合わせることができたら、もしかしたら私も光の世界に吸い込んでもらえる気がしてしまって。
だけどそれは同時に、翔平くんを闇の世界に引きずり込むのと同じだと本当はわかってた。
「私の本当の名前。…千の歌で、【千歌 Chika】。」
「千の…風?」
翔平くん?
何度も私の名前を呼んでくれた優しい翔平くんの声が、子守唄みたいで大好きだよ。まだそんなことすら伝えられてないね。
「良い名前だね、千歌…。」
私の中にあるヘドロの夜空に一点、一粒の光がポタンと放たれて、心の底から笑っていいよって、ありのままを愛されてもいいよって、幸せに…なっていいんだよっていう水面の波動が広がっていくようだった。
「ないならぁ…、風俗で働く気はないか?」
あっけらかんと橋本は突拍子もなく、とんでもなく外れたことを言いだす。
「…あるわけ…ないでしょ」
しぼり出すように、震える小さな声で千歌は思わず返事をしてしまう。
「知り合いの店で、いいとこあるんだよ。なぁーんも心配しなくていいから!」
橋本は、勝手な話を勝手に続けていた。
「金ないなら、お義父さんを助けてくれてもいいだろ?散々面倒見てやったんだから。」
―ふざけるな。お前なんかに何を…―
恐怖、狂気、癇癪。華奢な肩を震わせて、また飲み込む。
震えが止まらない。心臓を刺す鼓動が痛い。息が苦しい。ママ…助けて。
翔平くん…?翔平くん。
想像したくもない想像をしてしまう。
「はじめまして、翔平くん。千歌の父です。会えて本当に嬉しいよ!」
「翔平くん、チョットお金貸してもらえないかな?バイト代入ったんでしょ?」
繕う笑い。
「翔平くんが金ないんじゃ…やっぱり千歌にカラダで稼いでもらうしかないか。可哀相だけど…これで家も大変なんだよ、生きてくのすら。」
「や、そんな。なんとか…なんとか用意します。時間ください。」
「ありがとう!翔平くん。助かるよ。すぐ返すからさ。いやぁ~千歌は良い彼氏がいて幸せ者だな。」
にんまりするコイツの顔が容易に浮かぶ。そこからは、圧力と暴力。
なんて甘かったんだろう、私。左目がピクッと痙攣する。
私は逃げてたんじゃない。こんな地雷や不発弾を抱えてしまっていたんだ。
寄生虫。そう、ずっと潜ませているその姿が見えなくなって、いなくなったと思ってしまっていた。
違った。この寄生虫は、私の中にずっといたんだ。私は、この寄生虫に死ぬまで蝕まれる。
顔面が蒼白となる。
「しかし、まぁ、おまえ…お母さんに似てきたんだな。」
橋本は、小皿にタバコを押し付けて消すと、千歌の身体を舐め回すように見ながらいやらしく、不気味に薄ら笑う。
「そりゃガキの頃とは…違うもんな。」
目の下のクマが酷い、虚ろな目が余計な怖さを増幅させる。
「お義父さん、淋しかったんだぞぉー?」
汚らしい笑顔で、橋本は出し抜けに千歌を襲った。
「やめて!!」
激しく抵抗する千歌を、橋本は躊躇せずに平手打ちを千歌の頬にふりおろす。
骨ばった大きな手は、千歌の小さな顔を強烈に弾く。
「俺にどれだけ迷惑かけたとおもってんだよ!」
こんなヤツと関わったら終わりだ。翔平くんの人生をボロボロに傷つけて壊してしまう。
私やお母さんみたいに怯えた日々を過ごさせてしまう。執拗にしつこく、たとえ離れてもこうやって繰り返す。絶望感に、震える思考を失っていく毎日。
翔平くんは、いつも豆柴の瞳で柔らかく笑ってなくちゃね。
こんなヤツのために悲しい顔なんて絶対にさせないから。
「好きだよ」
初めて触れた唇の感触。
―俺が全部受け入れる―
―俺が全部消してみせる―
―俺が千歌の全部守るよ―
翔平くん?
私みたいな暗闇に手を伸ばしたらダメだよって思うのに、私が誘惑に勝てなかったよ。
嬉しくて、そばにいてほしくて。こんなカラダなのにすごく大事にしてくれたから、心が溶けてしまいそうで。
もっと愛をこめてピアノ弾くから、聴いててって、歌いたくて。
もっと上手に愛するから、温かいぬくもりで包んでてって、抱きしめてほしくて。
だからだね。調子にのるなって、お門違いもいいところって、ようやく天罰が下されたことで目が醒めたよ。
「千歌…」
「なんで…そんなに優しくするの?」
「大事なんだから…あたりまえだよ。」
ハッキリとわかった。
翔平くんの美しい旋律が響く人生に、汚点をつけたりしない。
翔平くんの優しい魂に汚物はいらない。そんなのは赦さない。葬去。
こんなヤツに翔平くんを絶対に会わせたりしない。気安く翔平くんの名前すら呼ばせないんだから!
翔平くんの優しい魂を絶対汚させたりしないから。
恐怖は狂気に変わっていた。
マグマのような灼熱が、自分の深い部分でポコッポコッと大量に煮えたぎっているのがわかる。
噴火レベルが警報、警戒…グツグツ上昇する。メラメラ燃え盛る怒り、憎しみ、憎悪、嫌悪。きっとどの言葉も当てはまって間違えている。
翔平くん?
翔平くんは優しいから、また「俺は気にしない」とか言ってくれるだろうな。ううん、今度こそ愛想つかすかな。どっちにしても、こんな私と関わってちゃダメにしてしまう。私と関わりがあったなんて、翔平くんの人生をめちゃくちゃにしてしまう。
翔平くんが、こんな汚れたカラダに二度と触れないような、遠くへ行かなきゃ。
こんなイカれた私のことなんてすぐに忘れられるように、翔平くんが来られない地獄に落ちよう。
私がコレを連れて行く。
翔平くんに近寄れない遥か遠くの深い深い真っ暗な奈落の底へ。
その信じがたい話に、百合子は電話越しに絶句してしまっていた。
「…ママ」
「…今、家ね?すぐ行くから。」
百合子の絞り出す声。
「…ママ…コレは全部本当のことだけどさ」
「…千歌?いいから私を待ってなさい!」
百合子は、気が動転した声で千歌に言い聞かせようとした。
いや、自分にも言い聞かせようとしたのかもしれない。
「…ママ…もう逃げなくていいね…怖いことは全部終わったんだね」
「…そうね。千歌?とにかく私を待ってなさい。いいわね?すぐ行くから!」
私、震えてる。自分で運転できそうもないけど、テルちゃんを呼んでる時間もない。近場にいる知り合いのタクシーを店用の携帯電話で呼び出し、掛けてあった高級ブランドの黒いコートを掴むと、百合子は慌てて家を飛び出した。
「ママ」
「なに?」
「コレは全部本当のことだけどさ…」
千歌の内側に走馬灯が見える少しの沈黙。
「翔平く…っ!」
【翔平】の名前を出した瞬間、豆柴の目尻の下がった柔らかい微笑みが「千歌」と脳ミソ中に張り巡らされる。
「千歌には『きゅうのに』が1番似合うよ。」
愛おしさ。
セットリスト最後の『夜想曲 第2番 変ホ長調』。
耳の奥深いところの弦から『ノクターン2番』がそっと、シーソー…と響きはじめると千歌の歌声はついに震えた。
「…ママ、翔平くんが私と関わってたなんていう事実はなかった…そういうことにしたいの」
それは、翔平が千歌に言ってくれた言葉だったね。
「千歌にそういう事実はなかった。」
「俺には見えない。」
そう言ってくれた翔平の寛大さを心に抱くと、優しい声が『ノクターン第2番』に共鳴する。
千歌の鼓動は音の粒を揃えて震えた。
「結婚しよう」
翔平くん?
ふと目が覚めた時に翔平くんが隣にいてくれて、眠ってる顔に安心してよく眠れたよ。
穏やかで。優しくて。とても可愛くて。すごく嬉しくて。
こういう幸せな時間が自分に訪れるなんて想ってもみなくて、チュウってできることが心から幸せだった。
これからずっと続いていく毎日なんだって想ったら、魂が震えて泣いちゃったくらいなんだよ。
翔平との高校3年間の想い出が、人としての大切な温かい部分が、
千歌の潤んだレンズのスクリーンから“1曲”“2曲”…“最期の歌”と、赤い涙がとめどもなく溢れ出していた。
もっと、翔平くんに『ノクターン2番』を歌いたかったな。
「ママ、“翔平くんは関係ない”って言ってね」
「今、そんなこと考えなくていいから!」
「お願い…翔平くんを…守ってね」
「…わかったから。」
「ありがとう…約束ね」
千歌は、鼻をすすりながら浅い呼吸の涙声でヒクヒクと小さく笑って言った。
「今タクシー乗ったから!そのまま待ってなさい!いいわね?」
「…………」
「…千歌?電話きらないでね!?」
「…ママ、翔平くんに伝えて。普通の生活ができてる女の子を好きになって、大切にしてねって。その命を大切に生きてねって。お願い、伝えて」
「千歌?何言ってるの?」
「ママ」
「…なに?」
「全部ありがとう…全部…ごめんなさいっ…!」
「…だから、何を言ってるのよ。」
「ママ大好き」
翔平くん…
とても愛してる。
「千歌?…千歌!?電話切らないで!?」
そのまま何を話しかけても千歌からの返答はなかった。
「千歌?千歌!?もしもし!?」
肉のカタマリの横にポトッと置かれた真っ赤に濡れた携帯電話は、虚しく話し続けていた。
千歌ぁあああああ!!
“その命を大切に生きてかなきゃね”
鼓膜の先の弦から大好きな音色が聴こえた気がした。
ずっと大切に抱きしめてきた歌。
「ママっ…!…お母さんっ…!」
う゛っ…!魂が震えて痛くて、心臓を抱えるようにうずくまる。
「翔平くん…」
最後の譜を奏でると、頭の中の弦がブチンと切れる音がした。
そのまま千歌は真っ赤な氷上にゆっくりと倒れこんでいった。
高校卒業間近、ひとりぼっちの乗り越えられない雪消月。
凍える冷たい涙に浴びせられ、
遠くなる意識の中、千歌は小さな頃の少しの記憶を浮かべていた。




