第6話 能力検査
バスを降りて、【東京エリア冒険本部】と刻印された高層ビルの前に着いた俺は、先に降りたエルとキリカの後を追って中に入る。
受付と書かれた場所に向かい、受付嬢のお姉さんに事の経緯を説明する。
話を進める中で、お姉さんの完璧な営業スマイルはすっかり困惑に変わっていた。
「えーと…た、確かにお名前と生年月日…写真データ上は…以前の不死川様にお間違いありませんが…過去の体内ウイルスデータと一致するかお調べしてもよろしいでしょうか?」
「いいですけど、どういう検査なんですか? 血を調べるとか?」
「あ、いいえ。現在は最新鋭のスキャンゲートがあり、通るだけで冒険者様が体内に宿しているウイルスを測定できます。
それが以前の不死川様のデータと一致していれば証明は完了します」
「なるほど」
「また、以前は項目になかった能力の強度や体内ウイルス濃度の測定も可能なんですよ」
便利な世の中になったな。俺が能力者になったときは、血液を採取されたり、CTやらMRIやらよく分からん検査をめちゃされたぞ。
「能力強度は冒険者ランクにも関わってくるわよ。もちろん高いほうがランクを上げるのに有利ね。やってみるから見てなさい」
剣崎はゲートを通過する。
ポーン、と軽快な音がゲートから鳴る。
剣崎はゲート横に取り付けられた画面を見るので、つられて俺も画面を横からのぞき込む。
『剣崎霧香
【能力】≪切断≫
【能力強度】B
【ウイルス濃度】15% 』
剣崎の能力は切断か。利便性は高そうだ。
「Bってのは高いのか?」
ランクの基準の分からない俺は、画面を見ながら隣に立つ剣崎に聞く。
「最高ランクはS、そこからA、Bって具合ね。能力強度の平均はⅭって言われてるけど」
「じゃあ剣崎は高めなんだな」
「能力強度が高いからって必ずしも強い能力とも限らないけど……いいから、次はアンタよ」
剣崎から促された俺は、ゲートの前に立ち、一歩足を踏み入れた
その瞬間。
ビー!ビー!ビー!ビー!!ビー!ビー!!
ゲートから鼓膜をぶち破るような甲高い警報音が鳴り響く。
『測定不能【エラーコード99】。測定不能【エラーコード99】。
S級モンスター相当のウイルス濃度を検知しました。直ちに退避してください。
測定不能【エラーコード99】。測定不能【エラーコード99】。
S級モンスター相当のウイルス濃度を検知しました。直ちに退避してください。』
「は?」
「バ、バカな!?S級モンスターだと!? どうしてこんなところにいるんだ!」
「!? コ、コイツ!モンスターの腹から出てきたやつじゃないか!やっぱ人に擬態してたんだな!」
無機質なアナウンスが館内に響き、歩いていた冒険者であろう者たちは武器を構えながらパニックに陥っていた。ゲート隣にいた受付嬢にあっては腰を抜かして恐怖の目で俺を見ている。
いや違うよ?ぼく悪いモンスターじゃないよ!?
あっというまに動揺や殺意、そして恐怖に満ちた冒険者や警備員に俺は囲まれる。
「待ってください皆さん!落ち着いてください!リンネさんはモンスターじゃありません!」
エルが俺を庇うように両手を広げて、殺気立つ冒険者たちの前に立つ。
「黙れ!そもそもお前が連れてきたんじゃないのか!どかないとお前からぶっ殺すぞ!」
刹那、剣崎の手が刀の柄に置かれる。その目は完全に笑っていない。
とはいえどうするか。なんとか収めたいけど、流石にエルに手を出されるくらいなら、防衛もやむなしか。
そんなことを考えていると、取り囲んでいる冒険者を押しのけながら、ぶかぶかな白衣を着た小柄な女性が飛び込んできた。今日は白衣に縁がある。
寝ぐせの付いたぼさぼさな赤髪、分厚い丸眼鏡の瞳にはギラギラとした異様な熱が灯っている。
「クレイジィ!ウイルス濃度が本部に支給されている想定上限値を振り切ったんスネェ! S判定は誤認でしょうが、これは実に興味深すぎますねぇ!」
困惑する全員を無視して、白衣の女性は興奮した様子でゲートの画面を操作する。
「おっほ♥ なんだこのウイルス波形!?なんだこの成分!?混ざりすぎですよぉ!なんだこのぐちゃぐちゃなウイルス組織ィ!汚すぎて逆に美しいまであるのでは!? カレーライスにシチューと焼肉と鮮魚をミキサーにかけたようだ!」
警報音が止まった代わりに女性の興奮した早口は止まらない。
俺の手が突然汗ばんだ手に握られる。
「ちょっと血を舐めてもいいですか?」
「え、あ…なんて?」
「おっと失礼。つい興奮してしまいました。」
受付嬢がようやく立ち上がると、白衣の女性に顔を寄せる。
「すみません博士。本当にモンスターじゃ、無いん、ですよね?」
「勿論デス!れっきとした能力者ですともぉ!ウイルス濃度にあっては世界最高値だけどね!」
「せ、世界最高!?」
俺を含めたほぼ全員に動揺が走る。
「すごいです!やっぱりリンネさんはすごい人でした!」
ただ一人、金髪の天使だけが、キラキラとした尊敬のまなざしを向けてきている。
受付嬢が顔を青ざめさせて深々と頭を下げてきた。
「大変申し訳ありませんでした!すぐさま冒険者免許証の手続きを行います!」
「あーはい。よろしく、お願いします?」
受付嬢の言葉を皮切りに、武装した冒険者たちもバツが悪そうに武器を収める。
「ちっ。人騒がせな奴らだ」
先ほどエルたちに『ぶっ殺す』と暴言を吐いたガラの悪い男は舌打ちをして立ち去ろうとしていた。
「全く人騒がせな奴らだったぜ。女の子にぶっ殺すなんて、あれだ、せくはら?ってやつじゃないの?」
「んだとこの野郎!」
挑発されたと認識された男は、俺の胸倉につかみかかる。
今更、人間にすごまれたくらいで怯むかよ。
俺は、そいつにだけ聞こえるように耳打ちをする。
「この距離で俺が殺すのと、あんたが不死身の俺を殺すの、どっちが早いんだろうな?」
「っ!?…ひっ…」
高圧的だった男は、小さく悲鳴を上げて俺から手を離すと、恐怖がにじんだ顔のまま逃げていった。
その間も白衣の女性は、俺を舐め回すように観察し続けている。
助けてもらったのはいいけど、めっちゃ気まずい。
「富和部博士、先ほどのデータは共有完了いたしました。」
「ありがと!!くぅ!実物まだ見ていたいけど…今はデータが最優先だァァ!またねぇぇ!」
白衣の女性はこちらに手を振った後、ピューッと効果音が出そうな走り方で去っていく。
嵐のような人だった。
どっと疲れたような気がして、ふと隣を見た。
エルはぽかーんと口を開けていたが、俺と目が合うと、クスッと微笑んだ。
「なんか、すごい人でしたね」
「本当にな。悪い人じゃないんだろうけどな」
しばらくして、窓口に呼ばれた俺は、顔写真付きの冒険免許証を渡される。
「登録完了となります。能力強度だけであれば高ランクへ引き上げるべき数値なのですが…規定上、初期は全員Fランクからのスタートでして…ゲート不具合といい、重ね重ね大変申し訳ありません。」
「いいですよ。 別にあなたのせいじゃありませんから」
受付嬢は恐縮しきった様子で何度も頭を下げる。
「お詫びとして、本部が冒険者向けに支給している物を無料でいくつか手配させていただこうと思いますが、いかがでしょうか?」
「本当?」
「はい! 冒険者の皆様にはまずは生存していただくのと、なにより楽しんでいただくのも、こちらの大切な業務の一つですので! 何かお求めのものはありますか?」
「おぉ…気前がいいな。二人とも、何がいいと思うー?」
俺が振り返ると、エルは悩むように唸る。剣崎は迷うことなくつかつかと歩いてくると、スマホを受付嬢に見せた。
「じゃあ、この配信ドローンを。」
「は、はい!……えーと、配信ドローンはいくつか機種がありますが」
「不意な攻撃にも反応して避ける、自動回避システム付ので、あと充電は24時間持つのがいいわね。」
「えーとぉ……わ、分かりましたぁ…」
若干受付嬢の顔が青くなった気がする。
「ずいぶんとがめつくいな」
「誰かさんのせいで、ドローン壊れちゃったからかしらねぇ?」
「…スミマセン」
剣士様の鋭い眼光を受けきれずに俺は目を反らす。その節は大変迷惑をかけました。
「……あと……コイツの服も用意して。」
そういえば俺ワンピースだったわ。『ヘチマかーにばる』の。
にしてもこっちが心配してくれるのは珍しい。
「ありがとう剣崎。」
「別に…女もののワンピース着てる奴の隣にいるの恥ずかしいから」
それは、そうか……
「それと……」
「?…なんだよ」
「さっきアンタが脅してムカつくやつが逃げていったの、ちょっとスカッとしたから。」
剣崎の俺を見る顔は、ほんの少しだけ柔らかくなっていた……気がした。
しばらくして、最新鋭のドローンと、俺の体格にぴったりな冒険服、それに大容量リュックが運ばれてきた。
更衣室で服をきがえて戻る。服のカラーリングは好きな色の黒。理由はカッコいいから。
「似合ってますリンネさん!」
「なんか絶妙にダサいわね。なんで男子って黒好きなのかしらね。」
女性陣二人の相反する感想が刺さるので、いいほうだけを心にとどめた。
「さて。じゃあいろんな準備も整ったし、パーティ結成だな!」
「はい! よろしくお願いします!リンネさん!」
「はいはい。」
二者テンアゲ、一人そこそこのテンションで俺たちのパーティは結成された。
「あのー皆様。よろしければ、ご登録いただいたばかりのFランクの方に、ぜひ参加していただきたいイベントがあるのですが」
出来立てほやほやパーティーに、さきほどの受付嬢が遠慮がちに声をかけてきた。
さようなら、ヘチマかーにばる…
評価感想のほどしていただけると作者が狂喜乱舞して泣きます!よろしくお願いいたします。




